神正世界戦争:黒き影の日の出

 戦争が始まると同時に登った太陽は、一時的にその戦場の動き全てを止めてしまった。


 突如として顕現した太陽に見惚れ動かなくなった者達が殆どの中、普段からシルフォードの太陽を見ていた揺レ動ク者グングニルの面々だけが戦場を駆け抜ける。


 「流石はお姉様。たった一撃で陣形に穴を開けましたよ」

 「さっすがはシルフォードお姉ちゃん!!私達も頑張らないとね!!」


 ダークエルフ三姉妹の次女と末っ子のラナーとトリスは、太陽が地面に落ちると同時に走り始め、既に敵軍をその視界に収めていた。


 あまりに早すぎる動きに、太陽の出現によって混乱していた敵軍の対応は遅れに遅れ、あっという間に肉薄されてしまう。


 「今回は前のスタンピードとは違って、広範囲の攻撃は味方を巻き込みかねないからね。鍛えてきた近接格闘で仕留めるよ!!」

 「保険はかけてありますが、基本は殴り飛ばせばいいでしょう。スンダ........じゃなくてラーグ様やティール様に比べれば、彼らは赤子にも等しい」


 敵軍に肉薄した2人は、慌てて迎撃準備を始めた兵士達を容赦なく殴り飛ばす。


 パン!!と、風船が割れるかのような音とともに、血が平原を赤く染める。


 最低限の動きで最高効率を求めた一撃は、敵兵の頭を容易く弾き飛ばした。


 頭の無くなった兵士は、血を噴水のように首から吹き出しながら、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


 「ヒィ!!」


 武器すら使わず、容易く人の頭を破裂させた2人の姿を見た兵士の一人は、恐怖のあまり脇目も振らずに逃げ出してしまった。


 彼は新兵であり、戦争はこれが初めてである。


 盗賊退治等で人の死には慣れているものの、人の頭が簡単に弾け飛ぶ様子を見るのは慣れていなかった。


 ラナーとトリスが突っ込んだ場所は新兵が多く配置されている場所であり、修羅場を潜ってきたものは少ない。


 1人の新兵が背中を見せて逃げ出すのを皮切りに、ラナーとトリスを恐れて次々と逃げ始めてしまった。


 「ま、待て!!敵前逃亡は許されないぞ!!戻れ!!隊列を組め!!」


 指揮官として戦場に立っている馬に乗った老人も、これには焦る。


 新人であり、戦争の経験がないものを纏めあげるには申し分ない指導者なのだが、今回ばかりは相手が悪かった。


 相手は厄災級魔物を基準に物事を考える化け物だ。人間の基準で程ごとを考える者とは、そもそもの基準点が違う。


 そして、隙を見せた相手に容赦するような育てかたはされてなかった。


 「貴方がここの指揮官ですか。申し訳ありませんが、死んで貰いますよ」

 「っな........いつの間に」


 逃げる兵士達に視線を付けてしまっていた指揮官は、気配を完全に消したラナーが真横に来るまでその存在を感知する事が出来なかった。


 トリスが一人でも兵士達を血祭りにあげているのもあって、視線がどうしてもそちらに移動してしまったのもラナーの接近に気づけなかった要因の一つだろう。


 指揮官は馬に乗っており、視点が高くなってはいたが血が飛び散る戦場で2人を完璧に補足するのは難しかった。


 「さようなら」

 「まっ──────────」


 ゴキィ


 首の骨がへし折れる音とともに、指揮官の首は本来曲がってはならない曲がり方をする。


 首を支えていた骨がへし折られたことにより、彼の頭は地面を向いて顎は天を向いていた。


 ラナーは淡々とへし折った相手の首をもぎ取ると、指揮官の羽織っていたマントと共にマジックポーチに収納する。


 指揮官を討ち取ったことに対する喜びの感情は無く、仕事として座った目で指揮官の首をもぎ取るその様は更なる恐怖を兵士達に与えた。


 「団長様がよう言うミスディレクションとやらを使ってみましたが、中々使えますね。トリスを目立たせることで、私から意識を外しその間にやりたいことをやる。これを毎度の如くイカサマに持ち込める団長様は、やはり少しおかしいのでは?技術として人として」

 「お姉ちゃん、何1人でブツブツ言ってるの?」


 ラナーが振り返ると、そこには返り血1つ浴びていないトリスがニコニコの笑顔で敵兵の頭を踏み潰していた。


 指揮官を討ち取ったのを見て、ラナーの元に戻ってきたようだ。


 ラナーは、恐怖に飲まれつつも剣を振りかざす兵士を見向きもせずに蹴り殺すと、トリスの頭を優しく撫でる。


 「なんでもないですよ。作戦成功ですね」

 「うん!!私が暴れてその間にお姉ちゃんが指揮官の首を取る。結構ガバガバな作戦だったけど、上手くいって良かったよ」


 2人は、そう話しつつも襲いかかってくる敵兵を一撃で殺していた。


 慈悲があるとするならば、苦しめることなく頭を的確に狙っていることだろう。


 その圧倒的魔力と身体能力によって生み出された攻撃は、大木すらも容易くへし折る。


 そんな勢いで殴られ、蹴られた敵兵は痛みを感じくことなく死ねるのだから。


 これがどこぞの厄災級魔物ならば、痛みを味合わせることを目的として遊んでいたかもしれない。


 「それにしても、邪魔が多いですね。お姉様がかなり減らしたはずですのに........」

 「しょうがないよ。空いては総勢35万だよ?シルフォードお姉ちゃんの攻撃からするに、大体7~8000人程度しか殺れてないから、残り34万もいることになるんだから」

 「多いですね。まぁ、いいです。私達は私達のやるべきことをやりましょう。間違っても、揺レ動ク者グングニルの看板に泥を塗らないようにね」

 「分かってるよー!!だから、味方まで巻き込みそうな魔法は使ってないんだし」


 トリスはそう言うと、手をあげて魔法を発動させる。


 空中に浮かぶのは魔力によって作られた岩。人の頭サイズ程の岩が何十個も出現すると、手を振り下ろす動作とともに岩を落とす。


 「リンドブルムさんの超劣化版!!なんちゃって流星エセ・アストラルレイン!!」


 リンドブルムの流星を知るものからすれば、それはもはや児戯にも等しい岩遊び。


 しかし、その殺傷能力は本物であり、降り注ぐ岩の雨は例え頭一つ分であろうと容赦なく敵兵を押し潰す。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「足が!!俺の足がァァァァァァ!!」


 勢いよく落ちてきた岩は時として頭を砕き、時として足や腕をも砕く。


 歩けなくなったものは、さらに降り注ぐ岩に押しつぶされて死に至る。


 運良く生き延びた者も居たが、どこかしらに傷を追うことになってしまった。


 今はアドレナリンと恐怖によって痛みが無いが、深く刺さった岩の破片などは後に痛みとなって襲いかかる。


 治療するにも物資を圧迫し、彼らの治療は十全に行われることは決してない。


 「リンドブルム様が見たら怒りそうな流星ですね」

 「リンドブルムさんに見せたら、結構喜んでたよ。私の魔力量だとこれが限界だけど」

 「やはり次のステップに行くには魔力量が必要ですね。さて、残りも掃除しますか」

 「はーい」


 阿鼻叫喚となる戦場のど真ん中で、ダークエルフの姉妹は呑気にそんな会話をする。


 彼女達の通った跡地に残ったのは、人肉と飛び散った血の池のみ。


 平野の1部は、頭のない死体で埋め尽くされていたという。

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