神正世界戦争:石となりては滅びを呼ぶ①

 ジャバウォックが首都を破壊し、アンスールが国を滅ぼした頃。正共和国から北北西に位置する正教会国側のイージス教を国教としているビドレス共和国は、長年の敵国であるグラメス帝国との戦争状態に入っていた。


 グラメス帝国はイージス教を国教としていない国の一つであるが、度重なるビドレス共和国の宗教勧誘に嫌気がさして戦争を始めたという経緯がある国である。


 250年ほど前から戦争状態の彼らは、神正世界戦争が起きようが起きまいが戦争を続けていただろう。


 しかし、度重なる戦争の出費は小国である両国にとってかなりの痛手であり、彼らは2年ほど休戦していた。


 再び開戦するきっかけを貰ったと考えれば、神正世界戦争の影響を受けていると見ていい。


 では何故、そんな神聖皇国側のイージス教とはあまり関わりのない国同士に厄災が舞い降りるかと言えば、グラメス帝国の後ろには神聖皇国側のイージス教を信じる国があるからである。


 押し付けがましく信仰を説かないこの国は、グラメス帝国と仲が良く、この戦争にも多少なりとも力を貸していた。


 兵力を貸すことはなくとも物資の面でかなり優遇し、グラメス帝国が有利に戦争を進めるようにサポートしている。


 もし、グラメス帝国が負けた場合は、次なる標的されることが火を見るよりも明らかである為、神聖皇国は援軍として厄災を送ったのだ。


 「Yah!!困りましたネ!!調べでは一週間後ぐらいに衝突が起きるはずだったのに、既に衝突しあっていマス。これは本当に困ったですネ!!」


 その厄災である“蛇の女王”メデューサは、目下で繰り広げられる殺し合いを見て頭を抱えていた。


 子供達が調べてきた情報では一週間後に本格的なぶつかり合いを始めるとあったので、メデューサもそれを信じていたのだが、どうも様子が違う。


 既に衝突が起こっており、血で血を洗う惨状がメデューサの目に飛び込んでくる。


 昨日までの情報を見るに、衝突が起こることは無かったはずだ。


 考えていた作戦は、衝突が起こる前を前提にしていた為メデューサは困り果ててしまう。


 「とりあえず、ベオークの子供達と私の蛇達の報告を待つしかないネ........」


 ともかく動けなくなってしまったメデューサは、大人しく人々が殺し合う様を見て待つのだった。


 それからしばらくして、影の中から蛇が顔を出す。


 メデューサは、ようやくかと思いつつもやってきた蛇の頭を撫でながら報告を聞いた。


 「ohNo。どうも運がなかったみたいですネ?困りましたヨ」


 聞いた報告によると、ビドレス共和国の指揮官1人が戦功を求めて暴走してしまったそうだ。


 その人物は元々出世欲が強く、人と違うことをして目立ちたい性格であったのが災いして部下を引き連れてグラメス帝国の側面を叩こうとした。が、グラメス帝国陣営も馬鹿ではない。


 その動きを察知すると即座に反撃を開始し、そのままの勢いでビドレス共和国陣営に雪崩混んだ。


 これに対してビドレス共和国も応戦。たった30分で混戦極まる殺し合いが始まってしまったのだと言う。


 既にその指揮官は見せしめとして処刑されており、指揮官としての無能さをこの世界に残して世を去った。


 「困ったネー。団長サンの要望で、なるべく味方側には被害を出すなと言われてるヨ。ここで暴れると、全員殺しちゃいそうだしなぁ........」


 馬鹿な指揮官のおかげで計画が狂いまくったメデューサは、ほんの僅かな苛立ちを覚える。


 少なくとも、その場かな指揮官が生きていたのであれば、今すぐにでも持てる手段を全て使って殺しに行きたいほどであった。


 メデューサは、ストレス発散の為に力を存分に使おうと決意すると、現状取れる手段を考える。


 1つは、夜になるまで静観。


 夜になれば戦闘は収まり、味方側であるグラメス帝国に被害が行くことは無いだろう。


 2つ目は、被害など知ったことかと暴れる事。


 これは仁の要望を完全に無視した形になる。メデューサは、グラメス帝国側の人間とビドレス共和国側の人間の区別があまり着いていない。それに、メデューサの力はどれも広範囲であり無差別に攻撃してしまうので、間違いなく被害は大きくなるだろう。


 3つ目は、帝国側に顔を出して兵士たちを引き上げさせてもらう事だ。


 しかし、これにも問題がある。そもそも帝国側がこの要求を飲むとは考えづらい。笑顔で交渉脅すすることもできるが、下手をすれば敵対される可能性もあった。


 結局、3択と言いつつ現実的に取れる手は1つしかない。


 「大人しく待つしかないのネ。全く。お迎えが来る前にやらないといけないのに........私一人だけ仕事が終わってなかったら笑いものデス。チッ、下等種族が」


 メデューサは、徐々に積もる苛立ちを我慢しながら夜を待つ。


 この時の1番の被害者は、抑えきれない殺気を間近で受け続けた髪の蛇達だろう。


 彼らは、逃げることも出来ない殺気の中ただただ小さく震えるだけだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 リンドブルムが滅ぼしたラヴァルラント教会国の跡地では、2人の女が崩壊した街並みを歩く。


 1人の足取りは軽く、世紀末な光景には似合わないほど軽やかだった。


 もう1人はそもそも歩いていない。その神聖なる翼を広げ、空を飛んでいる。


 「──────────と、言うわけでして。まさか私まで巻き込まれるとは思いませんでしたよ。しかもなんか追尾してくるし........」

 「ふーん」

 「ふーん、て。もう少し同情してくれてもいいのですよ?」

 「いや、私に言われても困るし。で?なんで私をわざわざ呼び出したの?」


 首を傾げる天使は、心底つまらなさそうに欠伸をする。


 やる気のないその雰囲気は、一緒にいた女の調子をも狂わせる。


 「実は復元させて欲しいものがあるのですよ」

 「ここに?私の力は知ってるわよね?」

 「もちろん。三番大天使ラファエルさんの力は知っていますよ」

 「ならいいけど。何を復元して欲しいの?」

 「12万年ほど前に作られたある魔道具を........ね?」

 「なるほど?それでからはちゃんと逃れられているの?」

 「もちろんですよ。むしろ、それが出来ていなければこうして会うようなことはしませんよ」

 「流石は魔女ねぇ。私、そこら辺は適当だから、いつもミスするのよ」


 三番大天使ラファエルと呼ばれた天使は、そう言うと地面を見つめて再び首を傾げた。


 魔女と呼んだ女を手招きすると、地面を指さす。


 「もしかして、地下?」

 「えぇ。お願いできますか?」

 「いいけど、ちゃんと成功させてね?」

 「大丈夫ですよ。これはあくまでも保険なので」


 日が沈み始め、影を伸ばす時間帯になった頃。魔女と天使は暗躍し、世界の根幹を覆そうと試みる。


 その根源にはかつての恨みがあるのだが、その恨みが表に出るのはまだ先の話だ。

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