久しい顔

 20分程部屋でのんびりしていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。


 扉に視線を向けると、4つの気配があるのが分かる。


 「はーい」

 「リュウジ様、アイリス様、シンナス様をお連れしました」

 「どうぞー」


 相変わらずメイドロールを続けているルナールさんに入室の許可をだす。


 ゆっくりと開かれた扉からは、数ヶ月ぶりの面子が揃っていた。


 「よう、仁。久しぶりだな。元気そうでなによりだよ」

 「お前もな........また背伸びた?」

 「ん?あぁ、180超えたぞ。羨ましいだろ」

 「神は不平等だ........」

 「大丈夫だよ仁。私も伸びてないから」

 「そういう問題じゃない」


 以前よりも更に背が伸びイケメン度も増した俺の親友は、にこやかに笑いながら俺の肩を叩く。


 この世界に来た時はさほど見上げていなかった身長差は、今やちょっとした壁を見上げる程にまでなっていた。


 どうしてだ........俺は三年前から全くと言っていいほど身長が変わっていないのに、なんでコイツはすくすくと背が伸びるんだ。


 やはり、神は不平等であり、平等に与えられるのは死のみということだろうか。


 そんな神、いらないよ。


 「元気そうじゃないか、ジン、カノン。来るなら前もって連絡して欲しかったがな」

 「全くですね。バカ弟子には戦い方を教える前に常識を教えるべきでした」


 友人との再会を親のような視線で見つめるアイリス団長とシンナス師匠も、龍二と変わらず元気そうでなによりだ。


 独り身の師匠はともかく、アイリス団長は龍二と度々よろしくやっているそうだが、そのお腹が大きくなっている様子はない。


 流石に子供を作るのは早いと判断しているのだろう。


 「師匠の教育の賜物ですよ。ところでニーナは?」

 「ニーナは既に寝ている。寝る子は育つとは言うが、体ばかり育って中身が育たんのはどうしようもないな。後、教育の賜物ってどう言う意味だコラ」


 ガンを飛ばす師匠はスルーして、姉弟弟子であるニーナ姉は既に寝てしまっているようだった。


 あの人、俺達のこと覚えてるよな?暴食の魔王が復活した時にも一応顔は合わせているはずなのだが、全くと言っていいほど反応しなかったし、忘れられていても不思議ではない。


 何より、あの脳みそが詰まっているかどうか怪しいニーナ姉なのだ。


 ぶっちゃけ忘れている可能性の方が高いと言えた。


 姉弟子に覚えられているのかどうか少し不安に思っていると、龍二が俺から離れて話し始める。


 「んで、こんな遅くに俺達を呼び出してどうしたんだ?顔が見たいってだけじゃないんだろ?」

 「顔が見たいだけって言ったら?」

 「俺は別になんとも。アイリスとシンナス副団長は知らんが」

 「蹴り飛ばすな。師匠を呼びつけておいて用事がないとか舐めてるだろ」

 「私は特に何も。シンナス。あまり高圧的だと男はできんぞ?」

 「余計なお世話です。アイリス団長。ぶっ飛ばしますよ?」


 サラッと地雷を踏み抜くアイリス団長は、ケラケラと笑いながら師匠の肩をポンポンと叩く。


 流石はアイリス団長。俺は怖すぎてそんなこと言えないね。


 このまま雑談してもいいのだが、それは後でもできる。まずは用事を済ませるとしよう。


 「さっき、教皇の爺さんに会って来てな。三日後にあの馬鹿共を断罪するらしい。詳しい計画を知ってるか?」


 大体のことは子供達の報告に乗っていた為知っている。しかし、情報の行き違いと言うのはいつの時代でも起こりうるものであり、確認を取るのは重要であった。


 本当は教皇の爺さんに聞きたかったのだが、あの死にかけた顔をしている爺さんに話を聞くのは流石に可哀想だったのでこうして計画を知っているであろうアイリス団長達を呼んだのだ。


 教皇の爺さんはゆっくり寝てくれ。


 「ほう。三日後か。となると........半年ぐらいで戦争か?」

 「半年後........もう少し早いと思いますよ。協力者も多いですしね」

 「計画かぁ、ようやくだな。まさか三年もかかるとは思ってなかったぜ」


 各々思い思いの反応をした後、アイリス団長が代表して計画の全容を話してくれた。


 「先ず、ジン達には謝らなければならないことが一つ。市民にまでこの話は公開されない。戦争が始まる直前には話されるだろうが、今すぐにという訳には行かないことを分かってくれ」

 「なんで?」

 「逃げられる前提で断罪するからな。神聖皇国としてのメンツに関わってしまう。市民には、お前達を殺した後、すぐに逃げ去ったと説明するつもりだ」


 罪人を逃がしたとなれば、国としてのメンツに関わってしまう。


 良くも悪くもメンツが命である“国”という生き物は、その顔を舐められてはやっていけないのだ。


 その為、口の固い(計画を知っている)者達だけで断罪裁判をするらしい。


 まぁ、これに関しては仕方が無いので俺は何も言うまい。


 「裁判ははっきりいって茶番だ。全員結果を知っているし、証拠もキッチリ保管してあるからな。判決が下され、彼らは最も重い晒し首にされるだろう。牢にぶち込まれ、震えて死を待つのみの彼らを、こっそりと逃がす。正教会国の諜報員と名乗らせるが、実際は神聖皇国の暗部だ。上手くやってくれる」

 「ほうほう。それで?」

 「逃げるルートは幾つか用意してある。ブルボン王国で起こったスタンピードのように、何があるか分からないからな。一応、飛竜便を使うつもりだ」


 飛竜便を使っての逃亡とか、かなり金がかかるな。


 飛竜便とは、その名の通り飛竜種(主にワイバーン)を使って空を移動する飛行機の様なものだ。


 幼少期から育てた飛竜と言うのは、育ての親と絆を育み言うことをちゃんと聞いてくれるようになる。


 この世界でも魔法や異能を使わずに空を飛べる数少ない手段ではあるのだが、維持費蛾馬鹿にならないし失った時の損失も大きい。


 戦争では魔法の打ち下ろし等出来なくはないが、対空手段が豊富なこの世界ではさほど驚異にはならなかった。


 飛竜がイスぐらい強ければ話は違うのだろうが、そんな化け物じみた強さを持つ飛竜なんでいないしな。


 そして、飛竜便はくっそ金がかかる。国の管理下に置かれているので、今回はそれほどでは無いかもしれないが、一般人が使うとえげつないほどの金を取られるそうな。


 手紙を運ぶだけでも大金貨を要求されるとなれば、余程のこと以外では使わない。


 「その後は正教会国の協力者に匿ってもらい、我々神聖皇国は、すぐ様正教会国に宣戦布告する。入ってきている情報からして、向こうも迎え撃つ気だろうから楽しくなるぞ。その後は好きにしてくれて構わない。攫うなり、戦場でキッチリ殺すなりな」


 俺が持っていた情報と何ら変わりはないな。細かいところまでは分からないが、大まかな流れは知っていた通りだった。


 「楽しみだね。後半年もすれば好きにしていいって」

 「私も手伝うの!!」

 「おーありがとなイス」


 子供に人殺しさせて大丈夫なのかとは思うが、どうせ何を言っても着いてくる。


 元気よく宣言するイスの頭を撫でつつ、俺達は久々の会話を楽しんだ。

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