獣神VS怠惰の魔王①
聖盾達が強欲の魔王と、龍二達が憤怒の魔王と対峙していた頃、獣王国の武術都市ダバラの近くの平原では、“獣神”ザリウスと怠惰の魔王が対峙していた。
正確には、怠惰の魔王は昼寝を始め、その様子を見ていたザリウス達は困惑していたと言った方が正しいが。
「zzzzz」
「おい、本当に寝始めたぞコイツ」
小さくいびきを立てながら、スヤスヤと眠り始める怠惰の魔王ベルフェゴール。
狸寝入りという訳ではなく、本当に眠っているのが分かるからこそ彼らもどうしたかいいか迷っていた。
“獣神”ザリウスは、近くにいた獣人の冒険者に話しかける。
「あれ、殺っちゃっていいと思う?」
「いやぁ........正直分かんないッス。これが罠の可能性もあるし、下手に飛び込むのは躊躇われるッスねェ。そういう獣王様はどう思うんッスか?」
とてもでは無いが、一国の王に向かって聞く口調では無い。
どこかの常識知らずなアホならともかく、王と分かっていながらヘラヘラとした態度でその冒険者はザリウスの考えを聞いた。
「んー。罠って感じはしねぇんだがよ。何となく相性が悪そうに思えるんだよなぁ........」
「強者の勘って奴ッスか?」
「おう。そんな感じだ」
対するザリウスは、ヘラヘラとした冒険者の態度に目くじらを立てる訳でもなく、普通に会話を進める。
これが公式の場だったら王の威厳のために何らかの罰を与えたかもしれないが、ザリウスはそういうのを煩わしいと思うタイプだ。
むしろ、自分を王と知っていながらかしこまらないこの青年の冒険者を好ましく思う。
「ほんと、どうするかねぇ。俺としては殴りに行ってもいいが、寝てるやつに奇襲をかますのは王としてどうかと思われそうだよな」
「確かにそうかもしれないッスけど、負けたらそれ以前の問題ッスよ。この国に獣王様より強い人いないッスし。下手したら国が滅ぶッスよ」
「おぉ。確かに俺が負けたら国が滅ぶな。11大国に数えられる獣王国の一角が落とされるのは不味い。特に、今国力を落とすのはやべぇ」
「何かあるんッスか?」
「最近、神聖公国の動きがきな臭いらしくてな。正教会国やその同盟国は気づいていないらしいが、どうも戦争の匂いがする。この国も正共和国には是非とも消し飛んで欲しいから、上手く1枚噛みたいな。この国が滅んだらそれどころじゃなくなるけど」
「それ、一介の冒険者に言っていい内容なんッスか........」
「ん?んー........ダメだった気がする。今のは忘れてくれ」
「えぇ........」
あまりにサラッと重要なことを言い、それを忘れろと言うザリウス。
青年の冒険者は、自分たちの目の前で眠る怠惰の魔王よりも困惑した。
下手に言い振らせば打首だ。青年は、何も聞かなかったことにする。
「それで、怠惰の魔王だったけ?アレ、どうするんすか?」
「とりあえずほかの連中にも話を聞いてみるか。どうも、俺が指示を出さないといけないだろうしな」
獣人が集団で戦う場合、基本的にそれを指揮するのはいちばん強いヤツになる。
稀に“自分は指揮の才能ないから無理”という輩が現れるが、この国の王として君臨する“獣神”ザリウスは指揮も得意だ。
この場にいる者達もそれがわかっている為、ザリウスからの指示が無い限りは動かない。
ザリウスは、散らばっていた冒険者や武術家達を集めると、その場に座り込んで怠惰の魔王の目の前で作戦会議を始めた。
「誰かなんかアイディアあるか?」
「普通に皆で殴りに行くのはダメでしょうか?」
猫の耳と尻尾を持った女の獣人が、おずおずと手を挙げて発言する。
一見知的に見える彼女だが、獣人としての暮らしが長いのか脳筋だった。
「それは何も案が出なかった時用だな。俺もそれでいいかなとは思うが、何か案を持ったやつがいるかもしれないからこうやって話を聞いている」
「も、申し訳ありませんでした。閣下のお考えを見抜けず、愚かな考えを言ってしまい」
「気にするな。他に誰か何かあるか?」
「「「「「........」」」」」
10秒ほどの無言。
その静寂が意味するのは、全員殴りに行けばよくね?と考えているわけだ。
彼等は脳筋すぎて、遠距離攻撃をしてみて様子を見ると言う案が思いつかない。
ここに宰相がいれば話は別かもしれないが、基本、戦略というものを立てない彼らには少し厳しい話しだった。
ザリウスは、結局殴りに行くのが手っ取り早いと結論付けると、黙りになってしまった獣人達に喝を入れる。
「よし!!てめぇら!!とりあえずそこで寝転がっている魔王をぶっ飛ばしに行くぞ!!俺達相手に舐めた真似しているこの魔王を、ぶっ潰してやれ!!」
「「「「ウヲォォォォォォォオオォ!!」」」」
ザリウスの言葉に腕を上げて答える獣人達。
彼等は少し頭が回らないが、ノリと勢いだけなら誰にも負けない。
「行くぞオラァ!!」
こうして、“獣神”ザリウス&獣人達VS怠惰の魔王ベルフェゴールの戦いの火蓋が切って落とされた。
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獣人達が怠惰の魔王とどうやって戦うかを考えていた頃、イスとベオークは不自然なこの状況に首を傾げていた。
「悪魔の気配が感じないの」
『魔王が寝た時は、悪魔が守ってくれるからとか思っていたけど、悪魔の気配が無い。これはおかしい』
イスもベオークも魔王が復活した際には、それを守るように悪魔達が何体か配置されているのを知っている。
唯一例外で嫉妬の魔王の時はいなかったそうだが、アレは湖の中に封印されていたのが原因だと仁から聞いている。
水中ではなく、平野にいる魔王。
護衛として何体かの悪魔が潜んでいてもいいのだが、その気配が全くしないのは不自然だった。
「気配を隠すのが上手い?もしかして私たちの目をも欺く実力者達がいるかも?」
『もし、そうだったら恐ろしい。でも、それなら隙だらけの獣人達を襲っていると思う』
眠る魔王の目の前で、地べたに座って話し合う獣人達を見る。
彼らも悪魔に気づいた様子はなく、今奇襲を行えば、確実に何人かの命は持って行けるだろう。
輪の中心で話す獣王の首すらも取れるかもしれない。
「と、考えると、やっぱり悪魔はこの場にいないの?魔王は復活してから15分ほどは動けないのに?それもそれでおかしいの」
『もしかしたら、この魔王だけ特別ですぐに動けるようになっているとか?でも、それなら寝ない........』
イスもベオークもこの状況に頭を悩ませるが、結局やることは変わらない。
もし、獣王や獣人達が負けそうなのであれば途中で介入して魔王を消し飛ばせばいいだけの話だ。
イスは大きく欠伸をすると、涙目になりながら魔王を見る。
「お昼寝羨ましいの」
『今は寝たらダメ。これが終わったらさっさと帰って寝よう』
「そうするの。その時はパパもママも帰ってきてるの........多分」
早く帰れるかどうかは、魔王が早く討伐されるかどうかである。
イスは少し早めに介入して、さっさと終わらせるのもアリだなと思いつつ拳を振り上げ吠える獣人達を応援した。
「がんばれーなの。出来れば、五分以内に終わらせて欲しいの」
『万が一に備えて、準備だけはしとく』
「分かってるの」
イスとベオークは、始まったばかりの魔王戦を映画のような気楽さで眺めていた。
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