勇者VS憤怒の魔王②

 龍二達は、魔王の話を聞きながらも攻撃を続ける。


 最初の頃よりも、目に見えて技の精度や異能のキレが無くなっていた。


 更に、殺気も緩む。龍二達をよく知るものがこの戦いを見れば、違和感が押し寄せてくるだろう。


 しかし、魔王と頭の中で会話しているとは思うまい。


 もし、会話をしているとバレていたとしても、念話の内容までは盗み聞きする事は出来なかった。


 そして、魔王は話を続ける。


『天使との戦争は呆気なかった。なぜなら、我らがあっという間に消し飛ばしたからな』

『........黒百合さんに苦戦しているように見えるけど?』

『昔の話だ。今は7つに分けられて全盛期のような動きはできん』

『まぁ、いい。それで?』

『天使のほとんどは死に、七大天使グレゴリウスも一人を残して全員殺した。天使如きでは我らの歩みを止めることは出来なかった』


 朱那はここに来てようやく納得する。


 勇者が大魔王アザトースの討伐をしていた時に、なぜ天使は現れなかったのか。


 なぜ、天使に関する文献が残っていなかったのか。


 答えは、勇者が魔王と戦う前にほぼ全滅していたからだと。


 歴史を語り継ぐのは魔王に勝った人種であり、彼らは天使が既に魔王と戦って死んでいたことを知らないのだ。


 それでも疑問は残るが。


『女神の使徒とも言われる天使が討伐された女神は焦ったのだろうな。女神は我ら魔王を討伐するために勇者を作った。それが、初代勇者だ。初代勇者の異能“勇者ヘルト”は、女神が作った異能でもある』

『........!!』


 魔王から出てきた言葉に、思わず龍二と朱那は光司を見る。


 “女神が作った異能”


 それが意味することは、“女神にとって都合のいい傀儡を作り出せる”という事だ。


 朱那はそこまで頭が回らないが、アニメ漫画文化に触れてきた龍二は最悪のパターンを想定する。


 一度でも疑ってしまうと、その疑いが晴れるまで信用ができなくなってしまう。


 今、この瞬間、龍二の中で光司は友人から要注意人物に置き変わってしまった。


 それに、魔王復活に関しての話をした時、光司だけは女神の擁護に回っていた事がある。


 疑うには十分な証拠だった。


 そして新たな疑問も生まれる。


『おい魔王。女神は神託以外では地上に干渉できないんじゃなかったのか?異能を作って勇者に仕立て上げるのは、どう見てもこの世界への干渉だろうが』

『我も女神について全てを知っている訳では無い。グレーゾーンだったのか、それとも規則を破ったのか。そこまでは分からん』

『........それで?女神様に作られた異能の力に敗れて封印されたと言うわけか?』

『そんなところだ。さて、最初の話題に戻ろう。女神の神託はなぜここまでギリギリなのか。答えは簡単だ。女神は自分の身が可愛いだけであり、人種、又はこの世界などどうなろうと知ったことではないからだ』


 その言葉を聞いた光司、朱那は、攻撃の手が止まる。


 龍二は話の内容からある程度予測が着いた為、そのまま攻撃を継続していた。


 魔王は自分を殺す気のない攻撃を避けながら、話を続ける。


『女神にとって人とは所詮下等生物。そもそもの格が違う。何人死のうが、知ったことではない。女神が世界を管理する理由は、女神に牙を剥くものがいないかの監視だ』

『た、例えそうだとして、なぜ魔王がそんなことを知っているんだ?女神に会う前に魔王は封印されたんだろう?』


 若干震える声で、光司は魔王に話しかける。


 魔王は、余裕のある態度て答えた。


『そうだ。あくまでもこれは我らの想像でしかない。が、大筋は合っていると思うぞ?我らが女神に挑もうとした時は、女神も必死そうだったからな。しかも、やっている事はどう見ても人種の存続など考えていないようなことばかりだった。今ではその文献は消されているだろうがな』

『........』

『さて、そろそろ時間になるぞ?我としてはこのまま見逃して欲しいんだかな』

『それはできない相談だ。例え女神が人種に関して興味が無くとも、魔王が人種を殺すことに変わりは無いからな。それと........もうひとつ聞かせろ』

『なんだ?我らに答えられる範囲なら答えよう』

『お前たち魔王は、また女神に挑むつもりだったのか?でなければ、俺たちは呼ばれはいはずだ』

『我ら七大魔王は女神に挑むつもりなどない。が、女神から見れば保険が欲しかったのだろうな』

『なるほど。1度はその命を狙われたわけだからな』


 龍二は納得すると、自身の持つ魔力を練り上げていく。


 魔王はその様子を見て、自身の死期を悟った。


 しかし、その顔は穏やかだ。


(まさか、ここまで上手く女神に不信感を抱かせることができるとはな.......真実の中に嘘を混ぜると嘘と見抜きにくいとは言われたが、まさかこんなところで役に立つとは)


 魔王は、自分に嘘の付き方を教えてくれた人物の顔を思い出し少し笑う。


 その顔はどこか懐かしむようで、とても人々から恐れられる魔王の姿とは思えなかった。


 勇者達が女神への不信感が高まった。これで、勇者達は動きにくくなる。


 魔王はダメ押しと言わんばかりに、少しだけ助言をした。


『詳しく知りたければ、初代勇者を調べろ』

『........教えてくれないのか?』

『我を見逃すと言うなら教えよう』

『なら却下だ』


 バッサリと切り捨てた龍二。その横にいる天使と勇者を見れば、2人も魔力を練り上げている。


(ここまでだな)


 魔王は静かに目を閉じると、その瞼を貫通するほど眩しい光に包まれた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 ひっそりと隠れながら監視を続けていた花音は、明らかに動きがおかしかった龍二達を見て、首を傾げる。


 「最初に朱那ちゃんと光司君がなにかに一瞬反応して、その後龍二達全員が止まったよね?何かあったのかな?」

 「シャ?シャー」

 「魔王の攻撃はないと思うよ。膨大な魔力も感じなかったし、何よりあの時の魔王は万全じゃないから、そこまで強い力は使えない。魔力の動きだけを見ると、龍二達の脳に何か干渉してたように見えたよね.........まさか、念話?魔王が念話を使って龍二達と話していた?」


 正解である。


 花音は何度も念話を使った時の魔力の動きを見てきた為、すんなりと答えにたどり着いた。


 もし、念話を使うアスピドケロンがいなければ答えに辿り着くことは無かっただろう。


 「何を聞いたんだろう?唇は読めなかったから、何を話したのかは分からない。魔王にとって都合のいいことを吹き込んだ?女神は敵だとか。朱那ちゃん辺りは純粋だから信じちゃいそうだよね?でも、龍二もちょくちょく変だったから、納得するような箇所があったのかな?」


 ぐるぐると頭の中で何があったのかを想像する。


 魔王は時間稼ぎのために、龍二達に話をしていたと考えるのが妥当だ。


 ならば、その内容は?


 魔王達の目的?それとも女神について?それ以外なら、悪魔や世界の真理?


 どれだけ考えても、答えにはたどり着けない。


 「他の子供達にも伝達。あの三人の監視を強化して、情報を抜き取ってきて」

 「シャ」


 子供達は、花音の指示を受け取ると素早影に戻っていく。


 これで、龍二達の監視は強化され、何があったのか分かるだろう。


 「ま、これで神聖皇国の魔王は討伐されたし、拠点に帰ろーっと。イスと仁は終わったのかな?」


 様々な疑問を残して、憤怒の魔王は討伐された。

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