クソ女神
地脈の手がかりを見つけることが出来ず、二ヶ月が経った。
世界は一時の平和に気を緩め、魔王という脅威を忘れつつある。
それもそうだろう。
今まで復活した魔王は4体いたが、そのどれもが被害らしい被害を出していない。
唯一死者を出したのは、神聖皇国の時だけなのだ。
それもかなり少ない死者であり、半年近くも過ぎれば遺族やその親族以外は簡単に忘れてしまう。
大聖堂の修繕が終わった今は、魔王が壊して行ったものがない。
正教会国の時は、人類最強である剣聖がたった1人で色欲の魔王を討伐し、旧サルベニア王国とリテルク湖の時は表向きには勇者が朝討伐したことになっている。
大した被害が出ないことから、この世界の人々は七大魔王への恐怖心が薄れていた。
今日も今日とて報告書と睨めっこしていた俺は、報告書を置くと軽く伸びをする。
そして、隣にいる花音に話しかけた。
「最近は、またどっかの危ない宗教の連中が大聖堂をぶっ飛ばそうとしたらしいな」
「みたいだね。魔王に脅威を感じなくなって、頭のおかしい連中の動きが活発化しているようだよ」
「一応、情報はリークしてるし、教皇の爺さんも対応しているから大事にはなってないけど、こうやってあちこちに戦力がバラけるのはやめて欲しいな」
魔王はまだ3体残っている。
地脈に関係する所に封印されているのではないかと疑って調べてはいるが、この二ヶ月間で得られた情報は無に等しい。
誰も研究してなければ、そもそも人々は地脈というものを知らないのだ。
誰も調べてないならと俺も地脈について色々と調査してみたが、専門的なことはさっぱりである。
唯一の手がかりは、リテルク湖の地脈から流れる魔力を追っていく事だけだった。
「やっぱり、神聖皇国に地脈の話はした方が良かったんじゃない?専門的な知識を持った人も多いだろうし、神聖皇国に地脈があるのは分かってるでしょ?」
「神聖皇国に地脈があるのは分かってる。が、子供達を使っても未だにその場所が分かってない。それってつまり、子供達でも探せないような場所にあるか、自由に探させてもらえてないかのどちらかだ。普通の人よりも何倍も強くて、隠密に優れた子供達ですら厳しいんだぞ?神聖皇国の研究者共が同行できるとは思えない」
「そう?」
「そうだろ。報告書によれば、地脈だと思われる場所の付近には最上級魔物だっているんだぞ?隠密に優れた子供達ならともかく、研究しかできない奴らが行けるような環境じゃない。護衛をつけても厳しいだろうよ」
後、魔王がいつ復活するか分からない状況で、戦力を分散させるようなことはして欲しくない。
そもそも、地脈の近くに魔王が封印されているというのはあくまでも推測であり、確定しているわけじゃない。
なら、不確定な情報によって戦力を分散させるようなマネはせずに、魔王が復活した際に直ぐに対応できるようにしておいた方が賢明だ。
神聖皇国にもう一体魔王が封印されている可能性もゼロじゃない。
地脈が関係しているとすれば、その確率は跳ね上がる。
俺は長椅子の背もたれに体を預けると、そのまま天井を見上げる。
「女神が場所だけでも教えてくれればもう少し楽に動けるのにな........」
「そうだね。女神はなんで毎回毎回ギリギリの神託をするんだろう?」
「さぁな。理由は考えつくが、憶測の域を出ない。それに、ファフニールが言ってたぞ。“女神は次元が違うから俺達の物差しで測れない”って。そりゃ、女神イージース様には、海よりも深く山よりも高いそれはそれは素晴らしいお考えがあるんだろうよ」
「嫌味ったらしく言うね」
「当たり前だろ。その素晴らしいお考えのお陰で俺達は今こうして苦労している訳だしな。文句の一つや二つ言ったって許されるだろうさ」
冗談抜きで、ここに女神がいたらその顔面を張り倒しているだろう。
どんなに綺麗な顔をしていようが、思いっきりひっぱたける自信がある。
体をムチのようにして鞭打を繰り出してしまうね。
下手したら、パーじゃなくてグーだ。
「はぁ、さっさと復活してくれねぇかなぁ。魔王に関する情報を集めるのは面倒なんだけど」
「どこを探ればいいとかないもんねー。戦争の時とかならこの国を漁れば済むけど、魔王に関しては全世界を見なきゃ行けないから大変だよ」
「子供達の数も圧倒的に足りないしな。まぁ、これに関してはしょうがないし、無理に“増やせ”なんて言えないからな。言うつもりも無いし」
子供達は俺に力を貸しているのであって、俺に服従している訳では無い。
いや、服従してるんだけど。そういうことが言いたいのでは無い。
子供達と俺は対等だという事だ。
少なくとも、俺はそう思っている。
だから、給料代わりに様々なものを差し入れしているし、暇な時があれば遊んだりもしている。
まぁ、差し入れよりも、直接俺に会いたい!!って言う子達が殆どだから、息抜きがてらチョロっと顔を見せに行くことが殆どだが。
俺は雇用主で、彼らは労働者。
お互いに持ちつ持たれつであるのが1番なのだ。
それが傭兵団をやっていく上での基本だと思っている。
身内ノリが多いこの傭兵団だが、そういう意識は持たないとダメだ。
偶に、団長特権発動して我が子の遊び相手を確保したりするけど........
俺は天井を見上げたままポツリと呟いた。
天から俺達を見ているであろう女神に向かって。
「ホント、女神って使えねぇな」
「全くだよ」
この声が聞こえていたなであれば、もう少し働いてくれ........いや聞こえてなくても働け、クソ女神め。
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傭兵団
彼女は大きすぎるが故に、大抵の事には参加出来ない。
少し寂しい気持ちもあるが、一人で何百年もここにいた時の何百、何千倍も楽しかった。
その様子を隣で見ていたウロボロスは、暇つぶしに話しかける。
「毎日毎日飽きもせずに眺めるな。そんなに楽しいか?」
「うん!!めっちゃ楽しいよ!!団長さん達だって暇なら話しかけてくれるし、一人で行く時とは比べ物にならないよ!!ウロちゃんは楽しくないの?」
屈託ない笑顔で話すアスピドケロンを見て、ウロボロスは少しため息をつく。
ウロボロスもこの環境が楽しい。特に、旧友であるアスピドケロンに再びあえて話せるのはとても楽しかった。
「無論、楽しい。昔なら楽しいとは思わなかっただろうがな。あの時とは随分と変わった、お互いに」
「そうだねぇ。昔........あの暴れてた頃にみんなと会えたなら、また違った結果があったのかな?」
何かを思い出すかのように、空を見上げるアスピドケロンを見て、ウロボロスは盛大に笑った。
「フハハハハハハ!!それは無いだろうな!!多少の結果は違えど、最終的にはあぁなっていたと思うぞ?ワシらの団長を見てみよ。間違いなく“楽しそうだから”という理由でどんちゃん騒ぎをするに決まっている!!」
「同じ人間同士でも?」
「人とはそういう生き物であり、団長殿と副団長殿は特にそうだ。なんせ、復讐の為だけに、世界を巻き込んだ大戦争を起こそうと画策する様な奴だぞ?まともな神経をしてるとは思えん」
「あー........そういえばそうだったね。多分、団長さんのことだからウッキウキで戦争に行くだろうねぇ」
アスピドケロンは苦笑いを浮かべる。
確かに、あの時に出会っていても彼ならこういうだろう。
“面白そうだし、もっと派手に騒ぐか”と。
「ホント、面白い人だね」
「だから、ワシらは団長殿の下についたのだよ。あれほど面白い人間を逃す手は無いとな」
ウロボロスはそう言うと、今度は静かに笑うのだった。
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