大乱闘③

 俺が厄介と判断した連中が、図らずとも結託して俺を襲ってくる。


 ニーズヘッグとケルベロスとモーズグズの三体が真っ直ぐにこちらへと向かってきていた。


 「どーしよっかなぁ。流石にニーズヘッグとケルベロスとモーズグズの三体を相手して勝てるわけがないんだよな」


 コレが殺し合いとかなら話は変わるが、今回はあくまでもゲームなのだ。


 俺が周りを異能で囲って完全防御に徹するのとかはゲーム性を壊してしまう。


 ニーズヘッグ達にも同じ様な制約がかかるものの、それを手数などで補えるのが彼らだ。


 こういう時はどうするのか?


 自分が圧倒的不利な状況にあるのならば、逃げるのである。


 俺はニーズヘッグ達に背中を向けると、全力で逃げ始めた。


 もちろん、嫌がらせ程度の妨害も用意して。


 「あ!!団長さん!!逃げないでくださいよ!!」

 「「「グルゥゥゥゥゥ!!」」」

 「ジン様ともあろうお方が逃げるのですか?」


 三人とも思い思いの言葉を俺に投げつけるが、こういうのは逃げるが勝ち。


 挑発に乗るほど俺は馬鹿ではない。


 「悪いが、俺は逃げるぞー!!」

 「あ、ちょ、待ってください!!」

 「「「グルゥ........」」」

 「今日こそは勝つので、待ってください!!」


 空から落ちてくる氷塊と流星を巧みに避けながら俺は、リンドブルムが暴れている方へと逃げる。


 先程から落ちてくる流星が、そろそろウザくなってきたのだ。


 チラリと後ろを振り返れば、三人も負けじと俺を追ってくる。


 ニーズヘッグはその大きい身体のどこかに氷塊やら流星やら当たるかと思っていたが、どうも異能を使って落ちてくるものを無力化しているようだ。


 ニーズヘッグの異能は正直よく分からないので、俺は理解しようとするのを諦めている。


 「この調子なら逃げ切れ────────」


 俺がそう言った矢先だった。


 俺たちの真上に魔力が集まったと思った次の瞬間には、槌が大地を叩きつけていた。


 頭の上に固定していた黒い盾が、ほんの少し沈む。


 もし、盾を展開していなければ今頃俺はギャグ漫画の様にベラッペラになっていただろう。


『モーズグズサン、アウトです』


 それと同時に告げられる退場者の名前。


 俺はこの攻撃をしてきた主を見る。


 「危ねぇな。ジャバウォック?」

 「この、程度で、やられる程、団長、弱くない」

 「そうです。この程度で団長さんはやられませんよ。そして、私も........ね?」

 「「「グルゥゥゥゥゥ!!」」」


 生き残ったニーズヘッグとケルベロスが、ジャバウォックに向かって攻撃を開始する。


 やられたらやり返すのが厄災級魔物達だ。


 不意打ちで一発貰ったのならば、その何倍ものお返しが待っているだろう。


 大地を平にする槌を振り下ろすジャバウォックと、それを避けながら攻撃を繰り出すニーズヘッグとケルベロス。


 燃え上がる地獄の炎を吐くケルベロスに、なんかよく分からんけど攻撃を無力化しつつ反撃するニーズヘッグ。


 そしてそれを迎え撃つジャバウォック。


 映画でもそうそう見れない大怪獣バトルがそこには広がっていた。


 まぁ、この面子だとケルベロスは小さすぎて子犬に見えてしまうのは仕方がない。


 「思い返せば、コイツらとはタイマンでしか戦った事無かったよな」


 彼らと戦ったのは、傭兵団揺レ動ク者グングニルを作る時に、俺の配下になるのかどうかでタイマン勝負をしたのが最後だ。


 もう二年近くも前の話になるのか........


 その後に戦った厄災級魔物はアンスールやメデューサなど、人型の厄災級魔物のみ。


 こうして大怪獣バトルを見るのに至っては、初めてである。


 お互いに怪我をさせないように手加減しているとは言え、普通の人間がその場に居れば1秒と経たずに肉塊となるだろう。


 そして、激しい戦闘が行われている場所は目立つ。


 俺と花音が少し戦っていただけでも、目立つのだ。そりゃ、目立ちまくるだろう。


 そして、好戦的な厄災級魔物達は全員集まってくるのである。


 「みーつけたぁ!!」


 遥か上空から聞こえてくる嬉々とした声。


 空を見上げれば、白銀の竜がこちらを見て攻撃準備に入っていた。


 やべ、また流星を降らせるつもりだ。


 俺は、急いでその場を離れるが、その裏から感じる殺意。


 俺は振り向くことすらせずに、裏に盾を構えた。


 ガゴン!!


 10m近くある氷塊が盾を揺らす。


 俺が後ろを振り向くと、全速力で向かって来るイスが目に入った。


 イスは俺と目が合うと、嬉しそうに吼える。


 「キュァァァァァァァ!!」

 「おいおい。これじゃ、隠れるのは無理そうだな」


 完全にロックオンされてしまった。


 元々、俺と遊びたいイスなのだ。俺を見つけたのであれば、俺を狙わない理由がない。


 俺も、勝負の勝ち負け云々よりも、我が子と遊ぶ方が大事である。


 「キュアァ!!」


 イスは短く吼えると、幾つもの氷の礫が出来上がっていく。


 礫と言うと大した大きさに思えないかもしれないが、1つ1mレベルの大きさだ。


 それが、数え切れないほどの量まで膨れ上がり、俺の逃げ道を塞いでいく。


 俺は逃げることもできたが、相手がイスならば立ち向かうとしよう。


 「上等!!負けても泣くなよ、イス!!」

 「キュア!!」


 俺は自然と上がっていた口角をさらに上げ、楽しそうに笑いながらイスに向かっていく。


 対するイスは、作り上げた氷の礫を一直線に俺に向かって放つ。


 素直すぎる直線的な攻撃。


 簡単に防げてしまう。


 だが、俺がイスへと向かうルートを確実に絞っていた。


 まだまだ分かりやすい誘導の仕方だ。


 花音ならこの直線的な攻撃の中に、幾つか不意を着く攻撃を混ぜているだろう。


 例えば、この氷の礫を一つだけ全く違う軌道にしていたりとかな。


 さて、イスは俺にこの真正面へと向かうルートで来て欲しいようだ。


 これが実戦なら間違いなく乗らないが、今回は遊び。


 イスの思惑に乗ってやるとしよう。


 俺は、足に魔力を集中させて更にスピードを早くする。


 これならば、直ぐに射程圏内だ。


 しかし、俺はここで気がつくべきだった。


 俺も遊んでて少し楽しくなりすぎていたのだろう。ソレを探知するのが少し遅かった。


 砕けた氷塊は既に殆どが地面へと落ちており、今降てっいるのはリンドブルムの流星のみ。


 流星の密度はさほど厳しくないわけで、簡単に避けれるし捌ける。


 つまり、花音がまた俺を狙うわけだ。


 「油断したね?」


 いつの間にか俺の裏へと回っている花音を見て、俺は顔を引き攣らせた。


 やられた。


 イスの攻撃を避けながら俺に辿り着くのは不可能。


 つまり、イスは花音と組んでいたわけだ。


 最初から組んでいたのか知らないが、これはまずい。


 花音はすぐさま俺に向かって鎖を放つ。


 全身を覆うように能力を使えば全ての攻撃を防げるが、それは面白くない。


 イスと花音が手を組んでいたのを見抜けなかった俺の負けだ。


 とは言え、タダでやられる訳には行かない。


 いくつかの鎖を、急ごしらえの剣で弾いた後、花音はガン無視してイスに向かう。


 花音は厄介だ。俺の考えることは大抵読まれているし、花音が考える事は大抵読める。


 まともに戦えば長引くのは目に見えていた。


 ........まぁ、今回は出し抜かれた訳だが。


 ならば、先にイスを落とすべきだと判断したのだ。


 「キュア!!」


 イスは嬉しそうに吠えた後、その口を大きく広げて魔力を集める。


 「おいおいおいおい。遂にドラゴンブレスも習得しちゃったのか?」

 「え?待って。それ、私も攻撃範囲に入ってない?」


 焦る花音だが、今更どうこうできる問題ではない。


 普段いい子だがら裏切るとか思ってなかったんだろうな。


 威力は抑えてあるだろうし、その気になれば防御はできるが今回はイスに勝を譲るとしよう。


 「キュア!!」


 口から放たれた極寒の冷気が俺達を襲い、俺達はこのゲームから退場するのだった。

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