嫉妬の魔王VS不死王③

 自身の前足を叩き切ったのを見て、不死王は慌てて攻撃態勢に移った。


 普通の人が見れば、気でも狂ったかと思うかもしれないが、不死王は知っている。


 自身の肉体の一部を犠牲にしていた発動する異能や、魔術がある事を。


 制約が厳しいが、その分発揮する効力も大きいのだ。


 それこそ、戦局を一気にひっくり返せてしまう。


 「死ノ弾丸デッド・バレッド


 既に能力の発動準備に入っている魔王。長い詠唱を必要とする時間のかかる攻撃が間に合わないと判断した不死王は、最速で打てる魔術を放つ。


 死を纏った弾丸。


 黒く染ったその弾は正確に魔王の身体を撃ち抜いていくが、その分厚い鱗によって弾は弾かれてしまう。


 幾つも同時起動した死の雨が魔王の身体を何度も叩くが、やはり魔王の鱗を撃ち抜ける程の威力ではなかった。


 「チッ」


 不死王は顔を歪めて小さくとも舌打ちをすると、防ぎきれないと知りつつも防御に入る。


 幾つもの結界が不死王の周りを覆い、魔王の攻撃を少しでも凌ごうとする。


 そして、魔王は自分の肉体を捧げて能力を発動した。


 「嫉妬の盲信者レヴィアタン


 先程と同じ能力。


 これだけなら、不死王やその他のアンデット達が潰されるだけだ。


 不死王は自分が潰されてもすぐさま反撃ができるように、持っていた杖を起動するが........


 「.......?」


 先程襲ってきたような圧が一向に来ない。


 不死王の反撃準備は既に整っており、あとは魔王の攻撃に耐えるのみ。


 10秒、20秒と沈黙がその場を支配する。


 不死王も下手に動けばどうなるか分からないので、静かに待つことしか出来なかった。


 そして、沈黙は破れる。


 パキッという音が沈黙を破ったその刹那。黒に染った世界は崩れ始め、太陽の当たる誰しもが見る世界へと戻っていく。


 死を支配する暗闇から、生者が支配する輝きの世界へと帰ってきたのだ。


 乾ききった湖。溶けきった森。抉れた地面。


 不死王と魔王が踊ったその場所に戻ってきた。


 口からその前足から血を垂れ流す魔王は、微かに笑うとそのまま呆然と立ち尽くす不死王に向かって攻撃を開始する。


 「?!グヌゥ!!」


 完全に不意をつかれた不死王は地面へと堕ちる。


 不死王はもう一度白く染った世界を創り出そうとするが、上手くいかない。


 何かが邪魔をしているようで、術が上手く働かないのだ。


 「どうやら、あの空間でなければ我の能力を無効化できないようだな」

 「一体ドウヤッテ........ウグッ」


 何とか起き上がろうとする不死王だが、次第に圧は重くなっていき地面へと埋もれていく。


 魔王はその様子を見ながら、ゆっくりと首を下ろして喉を通る血を全て吐き出した。


 湖の底が少し赤く染まる。


 内蔵に大きなダメージを負い、更には自身の前足を切り飛ばした魔王はかなりの重症だ。


 更に自身の中にある魔力は既にカラとなっており、能力の発動はその魂で補っている。


 一方の不死王は、地面へとめり込んではいるもののまだ魔力には多少の余裕があり、現在打つ手がないとはいえ手札は多くある。


 その中には打開できるものも多くあり、今は使いたくない物と言うだけであって使えない訳では無い。


 一見、魔王に形勢が傾いているように見えるが、全体的に見れば不死王の方が圧倒的に有利だった。


 魔王もそのことはわかっているようで、不死王が出し惜しみをしている間に決着をつけようと急ぐ。


 「流石に出力はもうあげれない。となると、小手先の芸だけで何とかしなければな」


 魔王はそうつぶやくと、何度目か分からない水のレーザーを埋もれる不死王に向かって放つ。


 全体を巻き込んで不死王を消し飛ばすのでは無く、水をさらに絞って攻撃範囲を狭くする代わりに、確実にその身体を貫けるようにした。


 不死王の白黒世界は封じたものの、魔術そのものを封じれた訳では無い。


 威力が低ければ簡単に防御されてしまうのだ。


 「ヌゥ!!」


 地面を貫いて、不死王の身体を水が貫通する。


 的確に胸を貫いたが、相手はアンデット。


 腕を捥ごうが、足を切り飛ばそうが平然と生きる者達なのだ。


 そのアンデットの王ともなれば、胸を貫いた程度では死なない。


 魔王は追い打ちをかけようと口を開くが、それを許すほど不死王も甘くはない。


 「グガァァァァァァァァ!!」


 二度目の攻撃は、黒竜の咆哮によって消されてしまった。


 それだけではない。何者かが魔王の尻尾を掴んだのだ。


 「何?!」


 振り向いたその先には巨大な手。


 その手の大きさからして、20m近くもある魔王よりも明らかに大きい。


 尻尾を持っているのは片手だけなのだ。


 「........!!まさか、タイ────────」


 その巨大な手は魔王を持ち上げて振り回すと、そのまま地面に思いっきり叩きつける。


 「ゴハァ!!」


 子供がトカゲの尻尾が切れるのかどうかを確かめる為に振り回すかのように、乱雑にそれでいて鋭く。


 魔王は気を失わないようにしながら、能力の維持に努める。


 自分の尻尾を掴むその手を何とかしたいが、その余裕が今の魔王には無い。


 既に死にかけている魔王は、先に不死王を殺す以外にもう勝ち目はないのだ。


 出力も最大。勝ち筋は、能力の維持のみである。


 ここまで来ると己との戦いだ。


 先に音を上げた方が、冥界の死神に首を刈り取られることになる。


 「グヌゥ........ヤハリ魔術ガ安定シテイナイ」


 不死王は自身の魔術を何とか発動させようと藻掻くが、一向に発動する気配がない。


 他の手を使えばいいのだが、不死王にもこれ以上の魔術を使うのは躊躇われた。


 長年かけて来たものをここで見せるのは少々都合が悪いのだ。


 終わりの見えない我慢大会がこうして開かれた。


 何度も地面に叩きつけられる魔王と、地面に押しつぶされる不死王。


 不毛すぎるこの戦いに終止符が打たれたのは唐突だった。


 「そこまでにしていただきましょうか。御二方」


 空から聞こえた声。


 その声に両者の攻撃が止まる筈もない。


 特に魔王に関しては風前の灯火でありながら、死力を尽くしているのだ。


 辞めろと言われて辞められるわけが無い。


 その声の主もそれは分かっていた。


 だからこそ、実力で止めに入る。


 「そこまでだ」


 次の瞬間、全ての能力が打ち消された。


 魔王の能力。不死王の能力。


 その2つを無効化してしまったのだ。


 無論、不死王によって操られていたアンデット達は動きを止める。


 そして、不死王にのしかかる圧は無くなる。


 虫の息である魔王は介入者を睨みつけ、不死王は驚いた目で介入者を見る。


 「─────────えぇ。はい。了解しました。いえ、大丈夫です。片方は知り合いなので........はい。お待ちしております」


 介入者は独り言を呟いた後、ゆっくりと空から降りてきた。


 不死王は少し懐かしむように笑う。


 その笑い声には、畏怖と尊敬の念が込められていた。


 「ハハハハハ。マサカ地上ニ戻ッテキテ、最初ニ会ウノガ貴方トハ」

 「久しぶりですね。ゼ───────いや、今は不死王ノーライフキングでしたか?元気そうでなによりです」

 「本当ニ、本当ニ久ジブリダ。“終焉ヲ知ル者”ニーズヘッグサン」


 ニーズヘッグと呼ばれた竜は、にっこりと笑う。


 「はい。お久しぶりですね」

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