第48話 元ドブスは日常を過ごす

文化祭も終わり学校は落ち着きを取り戻した。かのように見えたが、そんなことはなかった。

私のクラスで言えば北条とその4人の取り巻きが休んでいる。噂によると水本先輩も休んでいるそうだ。


私の机はなぜか新品になっており、陰口も嘲笑も何も聴こえない。話しかけてくる人もいないので、非常に快適に過ごすことができた。

お昼休みはいつものように城君と屋上だ。食後の膝枕も普段通り、日常っていいな。




放課後。私はいつも通り教室に残って勉強を始める。今日は城君が部活に出るそうなので5時半まで待つのだ。


いつもと違うのは放課後なのに教室にやけに人が多い。みんな何をしてるんだろう。さっさと帰ればいいのに。


あれ? みんなが私を取り囲んでいる。何事だろう。


「御前さん、今までごめんなさい!」

「ごめんなさい!」

「僕たちが悪かった!」

「ごめんなさい!」


口々に謝罪の言葉を伝えてくる。そんなことされてもね……


「みんなの気持ちは分かったよ。」


「じゃ、じゃあ!」

「反省してるんだよ!」

「許して、もらえるんだね!?」

「これからは同じクラスなんだから一緒に協力して……」


「うん。気持ちは分かったよ。じゃあ解散して。」


「そ、それは……?」

「許し……て、くれるんだよね?」

「みんな反省してるんだよ!」

「一緒にいいクラスにしていこうよ!」


「許すも許さないもないよ。これまで通り話しかけないでくれたらそれでいいよ。私達はもうずっと違う世界に住んでるんだよ。だからそっちから話しかけてこなければ何の問題もないよ。」


この子達は何がしたいんだろう。今まで通り私を無視しておけばそれで丸く収まるのに。今さら謝られても何の意味もないんだけどな。


「そんな! こんなに謝ってるのに!」

「謝ってるのに許さないなんて何様なんだよ!」

「私達は反省してるのよ! 今まで悪かったって!」

「それでも協力しないと言うのか!」


「いやいや、意味が分からないよ。謝られたら許さないといけないの?」


「当たり前じゃない! こんなに謝ってるのよ!」

「北条さんが帰ってきたらまたイジメられるよ!?」

「今このクラスがまとまったらきっと大丈夫だよ!」

「それでもいいのか!? 一緒に健全なクラスを作ろうよ!」


何を考えているのかさっぱり分からない。


「謝ったら許されるの?」


「当然じゃん! クラスメイトが頭を下げてるんだよ!」


「分かった。じゃあ私も頭を下げるから許してくれる?」


「え? 何を……っぐうわぁ!」


目の前にいる男の子の顔を殴ってみた。頭を下げて謝ろう。


「ごめんなさい。あまりにも不愉快だったからつい手が出てしまったよ。でも謝ったから許してね。次は誰に謝ろうか。」


みんな黙り込んでる。まさか想定してなかったとか? あの程度の謝罪で許されてクラスみんな仲良しになれるとでも思っていたんだろうか。


「私のことは今まで通り無視しておいてくれるかな。許すとか許さないとか、そんなことは考えたくもないよ。もちろん北条たちが帰ってきたら一緒になってイジメるのも自由だし。」


「ぐっ……」

「調子に……」

「何だよ……」

「くそ……」


はぁ。やっと分かってくれたようでクラスから人がいなくなった。これで落ち着いて勉強ができる。もう3週間もすれば中間テストだもんね。がんばろう。




部活を終えた城君と駅まで歩いている。二人手を繋いで。


「だいぶ動けるようになってきたぜ。この分だと来月の試合に間に合いそうだ。」


「すごいね。もうそんなに回復したんだ。本当にがんばったよね。」


「まだこれからさ。それより今度の試合、俺が活躍できたらさ……」


「うん、何?」


「その、二人でさ……どこか泊まりにで……で、出かけようぜ……」


「なっ、それ、その、とま、り……って……」


私でも分かる。カップルが泊まりでお出かけすることの意味。私は……城君に求められている……


信じられない……


「あ、いや、その、嫌だったらいいんだ。あまりにも静香のことを好きになりすぎちまってさ……自分でも変なことを言ってる自覚はあるんだ……」


「いや、嫌だなんて、そんな、そんなことないよ。ただ、信じられないだけ……こんな幸せなことがあっていいのかって……」


ほんの数ヶ月前までは夢に見ることすらなかった。私が男性から求められるなんて。世の中には体目当てとか財産目当てって言葉があるけど城君は純粋に私を求めてくれている。こんな嬉しいことがあるだろうか。


「い、いいのか? 信じられないのは俺だって同じさ。あんな酷いことをしたクセに後から好きになったって。都合のいいこと言い過ぎだよな。それなのにこんな俺を好きだと言ってくれてさ。静香、ありがとな。」


「うん。行き先は任せるよ。楽しみにしてるから。私こそありがとう。たぶん城君がいなかったら一生知り得なかった喜びだと思うよ。」


はしたないことを言ってるかな。少し怖いけど城君と一緒なら……


「試合、がんばるからな。見に来てく、どけ静香!」


「きゃっ!」


いきなり突き飛ばされた……城君は何を……

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