第47話 別たれたダブルドラゴン

パパの会社が……潰れる……そこまでして、パパは。


「ちょっと話が大きくなってしまったけれど、概ね予定通りではあるわ。あなたをイジメた北条に水本グループがついている以上、どの道こうなる運命だったのよ。」


「そ、そうなの……?」


「ええ。だから静香は何も気にすることはないわ。素知らぬ顔して学校に行くといいわ。」


「で、でも……朝比奈さんのような社員の方々は……」


「それも気にしなくていいわ。パパ以外の全社員は昨日付けで退職。そして新しい会社に移ったわ。パパは違約金を支払って会社を畳むだけ。どうにかこの家ぐらいは残るわ。」


「ママ……ありがとう……」


ついに私まで泣いてしまった。ママに縋り付いて。涙が止まらないよ……




「ちなみに新しい警備会社の社長はSSSの副社長の伊勢さんが就任したわ。パパは明日から無職ね。」


「うん……パパは働きすぎだよ……しばらくゆっくりして欲しいよ……」


「ええ、その予定よ。仕方ないから私が働くことにしたわ。」


「え? ママ……まさか……」


「すぐにではないわよ。半年後ぐらいかしら。ダイエットしないといけないものね。」


ママがダイエット? どう見ても必要ないのに。でも……よかった。




それから、結牙には安達さんから連絡があり、主演の座が確定したそうだ。結牙はこれからだよね。


「静香、悪ぃ。今日はヒマって言ったけど急用を思い出した。すまんが帰るわ。」


「え……そう、そうなんだ。うん、分かった。じゃあまた明日ね。」


「おお。ではママさん、お世話になりました。この御恩は忘れません。」


「いいのよ。NBAでたっぷり稼いで返してもらうから。」


「はい! がんばります! お邪魔しました!」


あぁ……城君が帰ってしまった。今日は一日一緒に過ごせると思ったのに。





御前家を離れた九狼だが、電車を乗り継ぎやって来たのはとある山奥だった。


『府中少年刑務所』


静香を襲ったサッカー部の4人と、親友だったはずの弁田 慶三が収容されている施設である。静香は彼らがどこかの少年院にいると思っているようだが、実際は少年刑務所であった。


そのような所にいきなり行って面会などできるものなのだろうか。




九狼が通されたのは面会室だった。いくつか小さな穴の空いた強化ガラスで区切られた部屋。そこのパイプ椅子に座り弁田を待っていた。


5分後、対面に弁田が現れた。後ろに刑務官がいるが手錠や縄をかけられたりはしていない。


「慶三……」


「何しに来た?」


「お前、結局何も喋らなかったらしいな。そのまま1年半もここで過ごすのか。」


「それがどうした……」


「俺のクソ親父が逮捕されたぞ。あの4人にも伝えてやれ。これ以上黙ってても誰も助けてくれないってな。」


「知るかよ……」


「なぜ静香にあんなことをしたんだよ……」


「分からんのか?」


「分かるわけないだろ。なんで慶三までクソ兄貴や雅子の言いなりになってんだよ!」


じっと九狼を睨み、黙り込む弁田。


「城、お前の膝が治ると聞いたからだ……」


「はあ? 俺の膝だ? それが静香に何の関係あんだよ!


「お前にオファーを出した実業団、肘川ひじかわエクストリームが……最初にオファーを出したのは俺だった……」


「何だと!?」


「そりゃあお前は知らんだろうよ。誰にも言ってないんだからな。そりゃあ嬉しかったぜ……初めてお前に勝ったと思ったしな……」


「それがなぜ……?」


「知るかよ! それが舌の根も乾かぬうちに取り消しだとよ! 俺が何をしたってんだ! その後だ! お前にオファーが行ったのはな!」


「慶三……まさかそんなことで静香に……?」


「ふん……お前にぁ分からんだろうさ……ダブルドラゴンなんて呼ばれてても、差は開く一方だ。半年もすりゃあ引き立て役にすらなれんだろうよ! 実業団の目は正確だ……」


「それが静香を襲うこととどう関係するんだよ……」


「お前の想像通りだ……水本の野郎から言われてな……普段なら無視するだろうが、あんな時だ……卒業後の進路に鎌倉ウェアハウゼン入りを提示された……もちろん飛びついたさ! 実業団バスケ界の雄、鎌倉ウェアハウゼンだぞ!」


「馬鹿が……その水本グループももう終わりだ。そんなに俺が憎かったのかよ……」


「お前には分からんだろうよ……優極秀院みたいな全国からバスケ馬鹿を集めた中ですら抜きん出たお前にはな……」


「慶三……ここでもバスケは出来るな? やめるなよ。」


「ふん……」


「時間です。面会者は退室してください」


無情にも時間切れのようだ。


「いいか慶三! また来るぞ! 来るからなぁ! バスケやめんなよ!」


立ち上がり部屋から出る瞬間まで九狼は叫んでいた。


「城……」




なお、九狼が面会の許可を取り付けることができた理由だが、黙秘を続ける弁田に真実を話させる可能性を示したからだ。

そして弁田は真相を話した。この後同じことを刑務官にも話すだろう。

そこから捜査は進むのか。刑務官が情報を握り潰さなければよいのだが。


どちらにしてもサッカー部の4人は水本グループの助けがなくなった現在、助かるためには何でもペラペラと話すことだろう。もう黙秘を貫いても誰も助けてはくれないし、約束していた出所後の保証も全てなくなったのだから。

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