第30話 ドブスは蛹を経る

あれから一週間。毎日のように激痛を伴う手術を受けている。これでようやく半分終わった。私の顔は特殊なシートと包帯に覆われており、今がどんな状態かなんて分からない。

今日からは少しずつ皮膚を移植していくそうだ。一気にできない事情があるそうだが、私が気にしても仕方がない。

ちなみに移植する皮膚は私の細胞を元に培養したものらしい。最新技術とはすごいものだ。昔はお尻の皮膚を使っていたそうなのに。






さらに一週間。本当に辛い日々だった。これで全ての手術が終わった。ぐるぐると包帯に覆われた私の顔……もし今、包帯をほどいたらどんな顔が現れるんだろう。元の顔より酷いのかな。包帯がとれるのは2週間後。2学期には間に合うようで何よりだ。

城君のリハビリは順調なようでだいぶ痛みがなくなったそうだ。歩行器ありなら以前に近い速度で歩けるようになった。すごいと思う。


私はと言うと、口までがっちり固められているため喋ることはおろか、食事もできない。体調が悪いわけではないのに点滴だけの生活は地味に辛い。

城君とは1日に2時間ほど一緒に過ごしている。喋れない私に彼はあれこれと話しかけてくれる。テレビがどうの、漫画がどうの、ゲームがどうのと。どれも私の知らない世界ばかり。いつも城君は私の世界を広げてくれる。退院したら一緒にゲームをする約束もしている。2人で怪物を退治するゲームらしい。「初めての共同作業だぜ」なんて言っていた。とても楽しみだな。



「姉さん! またこんな所で! 手術したんだからゆっくりしてないとだめじゃないか!」


結牙は私の心配なんかしてる場合じゃないだろうに。例のオーディション、落ちたそうだ。ママは大手事務所の力だどうとか言っていたが、結牙は役への入り込みが甘いせいだと言っていた。どっちが正しいのかな。


「まあまあ弟君。静香は歩き回る分には問題ない。俺がついてるしな。」


「だから心配なんだよ! この狼野郎!」


「当たり前だろ。俺は九狼なんだからさ。」


「もお! 姉さん気を付けてよ! こいつ絶対獣だよ!」


あの事件以来、結牙のシスコンぶりが加速したように見える。


結局あの5人は誰一人自供しなかった。それでもサッカー部の補欠は2年、弁田君は1年半ほど少年院に行くことが決まったらしい。パパの話によると刑期の3割も経過しないうちに釈放する密約でもあるんだろうとのことだった。水本グループの力は司法の場にも及ぶのだろうか?


それはそうと結牙の頭を叩いておく。城君に「野郎」や「こいつ」なんて言ったからだ。

それを見た城君は得意げに「俺は静香の彼氏でお前より歳上なんだからな」なんて言っている。はぁ、お腹空いたな。




2週間の間にはどこで嗅ぎつけたのか学校の女の子達もやってきた。もちろん城君のお見舞いにだ。病室なのにキャピキャピと騒ぎ、朝比奈さんに幾度となく追い出されていた。私の病室にまで響く煩さだったのだから。

入院してる時にまで聞きたくない話題ばかり……北条がどうとか水本先輩がどうとか。

ニースに行ったとか、カリブ海で過ごしたとか。

海外か……いつか私も行くのかな。私も結牙も日本から出たことがない。ママが国外に行きたがらないからだ。パパによると、ママが行くとパニックになるからって。ママは凄いな……





そして遂に、包帯をとる日がやって来た。正確には1日に1回取り替えていたのだが、その時は目を瞑るように言われていたため何も見ていないのだ。


それが今……


「目を開けていい。ゆっくりとね。」


西条先生の声が遠く聴こえる……


私はゆっくりと目を開いた。

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