第29話 美しい女狐と愚かな貴公子
夏休みのある1日。北条
場所は高原のバンガロー。メイドが2人。サラダを取り分けたり紅茶を注いだり。
「ねえ佐朝、今日はどこへ連れて行ってくれるの?」
「セスナで南の島へ行こう。そこでのんびり日光浴をしようじゃないか。」
「いいわね。オイル、塗ってくれる?」
「当たり前さ。雅子の美しい肌にシミなんかつくるわけにはいかないからな。」
せっかく街の喧騒を離れ涼しい高原に来ているのに、わざわざ南の島へと赴く。常人には理解できない行動だった。だがそれこそが上流の生活だと、佐朝は微塵も疑っていなかった。
生まれながらの勝者。金、地位、頭脳。そして女。もはや現在の水本家に足りないものは高貴な血筋のみ。旧華族の末裔で見目麗しい北条 雅子。この女こそ自分に相応しいと佐朝は心から思っていた。
そんな佐朝のことを雅子は心の中では操りやすいボンクラ息子だと見下していた。顔もそこそこいいし、頭も悪くない。そして何より金がある。それこそが雅子にとって何より優先すべきことなのだろう。
昨夜もそう。稚拙な腰遣いのくせにテクニシャン気取りの佐朝。早いくせに回数だけは多く雅子は疲れるだけ。それでも足腰が立たない演技をし、佐朝にうっとりして見せる雅子。佐朝は雅子の手のひらで転がされているとも知らず
そして信州の高原から一時間。南のリゾートへとやって来た2人。正確はメイドも同行しているが、佐朝と雅子の感覚では人数としてカウントされていない。もちろんセスナのパイロットもだ。
雅子はさっそくビーチで横になり肌を焼きたいと思ったのだが、佐朝は……
バンガローの寝室に引きずりこまれ相手をさせられてしまった。まだ午前中なのに元気な男である。
ビーチに行ってもさほど行動は変わらず、ゆっくり焼きたい雅子にまとわりつきイチャイチャを繰り返していた。のんびり日光浴をしようと言った口はどこへ行ったのか。
昼食は山の上にある一軒のレストラン。当然貸し切りだ。完璧なマナーで食事をする雅子に対してカチャカチャとうるさい佐朝。そんな佐朝に「男らしくて素敵」とお世辞を言えば、本気にしてますます音が酷くなる悪循環。お似合いの2人だろう。
昼からもビーチで焼きたい雅子だったが、佐朝の選択はクルージング。「素敵ね」と付き従う雅子。
大型クルーザーで島を一周。青い空、南国の太陽の下、透き通った海にリバースする佐朝。彼の背中をさすりながら意地でも堪える雅子。男性の前でそのような無様を晒すぐらいなら死んだ方がマシだと根性で吐き気を耐えている。
この後佐朝はクルーザーの運転手の手腕をなじりクビだと言い放っていた。顔を青くする運転手を見て気分をよくしていたようだ。
今度こそビーチで横になりたいと考えていた雅子を佐朝は木立の中の散歩に誘う。「ロマンティックね」と同行する雅子。
義務感から追随しようとしたメイド達は佐朝によって待機を命じられた。バンガローに引っ込む彼女達の横顔は明らかに喜んでいた。
「うちの坊ちゃんさぁーあっち強すぎじゃね?」
「だよねー。またやんのかって感じだよねー。今だって森の中でやりてーからアタシらに来んなっつったんだよねー」
「その点さぁ、あの女狐すごいよね。よく我慢してんよね。ウチなら無理だわ」
「アタシもよぉー。全然金の使い方分かってねーし。女の扱いも分かってねーし。浮気しないだけマシー?」
「むしろ浮気してくれた方が楽じゃね? あれじゃ身がもたなくね?」
「言えてるー。あれでテクニシャンってんならいいのにさー。ただ腰振ってるだけなんじゃーん? 女狐ちゃんも頑張るよねー」
メイドの内緒話はその後1時間にも及んだ。
なお帰ってきた2人のうち雅子の手のひらだけが酷く汚れていた。
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