第20話

アイビー。


ガーベラ。


マツリカ。


ようやく、エルフ美女三人の名前を知り、私は毎日、自由に振る舞っていた。


エルフの里は、環境が良すぎる。


人の町では、あんなに居心地悪かったのに。


安全なのだ。


きっと、杖がなかったら、私なんて数日もたなかっただろう。




「ラデン、こちらだ」


今日は、満月。


月光に照らされる中、エルフはみんな大樹の周りに集まっている。


何か、大切な儀式があるらしい。


アルケ様の隣りに呼ばれ、素直に草地に座り込む。


さわさわと、優しい風が肌をつたう夜、エルフ達はみな、大樹に近付いて、何かをしていく。


幹に片手を当て、ちょっとだけ魔力を流して、次々と。


大樹に注がれた魔力が、するするっと吸い上げられていき、大樹が葉を生やす。


小さな緑の実がつき、ぽとり、ぽとりと落ちてくる。


その実をみんなで拾い集め、布袋に入れて、何故か私に手渡された。


「これは何?」


アルケ様は、私の頭を撫でる。


少し、迷ったように笑う。


「……ラデンが、大切に保管するように。皆の──命のようなものだ」


「え?」


大樹は静かに、葉っぱも落としていく。


枝だけになり、寂しい姿だ。


静かに、静かに、夜はふける。







この里のエルフは、全員、緑の一族。


アルケ様が一番偉くて、ずっとこの地で暮らしてきた。


争う事もなく。ただ静かに、平穏に。


他のエルフの里からちょっかいはあっても、長年追い払ってきたという。


人間が、あやまって迷い込む事もない。


悪意ある者は、入れない結界があるという。


魔石などを使って、特殊な効果を発揮する方法も習った。


植物と、対話する言葉も。


あら不思議、杖の気持ちが、もっとはっきり、理解できるようになったよ!


「そなたの杖は、緑属性だからな」


杖にも、属性があるらしい。


どの属性になるかは、普通の人は運任せ。


運命神の、気まぐれだってさ。




神々のお話は、簡単なおとぎ話だけ聞いた。


契約神は、契約に関する厳しい神様。


運命神は、幸運も不運も運ぶ気まぐれな神様。


恋愛神は、常に恋に生き、愛に溺れる奔放な女神様。




あまり気安く、神々の話しをしては、いけないんだって。


どこで、聞かれてしまうか、分からないから。




「神様達は、どこにいるの?」


「この世界の何処か」


空の上ってことは、ないか。やっぱり、天界とかがあるのかな。


うーん、それよりも。


「……星女神様って……」


大地じゃなくて、星ってことはさ。


惑星なのかな? その概念が、あるのかしら。


「そなたの、加護神だな」


「加護杖じゃなくて?」


「杖は、いわば守護……加護が具現化した存在で……精霊に近い」


「ほえ?」


私は咄嗟に杖を見た。


今も空中で、不思議なダンスを踊っている。


エルフの里に滞在してから、蔦に磨きがかかっている。ツヤツヤして、キラキラしてる。すこぶる、調子が良さそう。


水も空気も綺麗だからなぁ。


今日も、何故かアルケ様のお膝の上に座らされ、私はハチミツクッキーをかじる。


三人の美女エルフに、微笑ましく見守られながら。


「……ラデン」


私の髪を指ですき、遊びながらアルケ様が話しかけてくる。


「はい?」


「そなたの、自由魔法とやら……あまり、乱用するな。どうやら、命数が減っているようだ」


はい?


「命数って?」


「寿命だな」


アルケ様は簡単に告げた。


私は慌てて、最近見てなかったステータスを見た。


「??」


命数なんて、何処にも……そう思ったら、スキルの、自由魔法が点滅。


スキルの、詳細が出てきたので、恐る恐る読む。



自由魔法……星女神の加護ある限り、自由に魔法を創造できる。但し、作成時、難解度により、命数(寿命)が減る。同時に身体的成長速度も遅延する。


現在の命数・956/1000



「ふぇっ……?」


待って待ってー、魔法、制限あったの?


それも大事だけど、千……?


千日?


「い、一年って、何日……?」


「300日」


「……」


「ラデン?」


「アルケ様……どうしよう……私、あと一年ちょっとみたい」


「いや、そのような事は───900年以上あるではないか」


「……え?」


ちょっと待って。


…………。


元々の寿命が、千年あったって事か。


しかも、成長速度が遅くなると。


「ちいさい、ままだと……っ!?」


ショックを受けていると、美女三人がキョトンとした目を向けてくる。


三人で顔を見合わせて、うんうんと頷きあっている。


え? なに? 小さな方が可愛いから大丈夫だって?


そういう問題じゃないんですー。


小さいと、色々不便なんですー!


手もちっちゃいし、歩くの遅いし、高い所に届かないし。


むくれる私の口元に、クッキーが差し出される。


ぱくっ、もぐもぐ……うん、うまい。


「子リスのようだな」


ゴックン。


違うもん。あんなにほっぺた膨らまないもん。




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