第210話 新居、ほぼ完成
昼時の食堂を手伝った後、俺は再びビィクティアムさんの新居でリフォームの続きを始めた。
次は、室内の装飾である。
カントリーハウス小型版みたいなこの家に、品がよく美しくそして可愛い感じの装飾ができないものか。
……人の家なのに、俺が楽しんでいる。
石壁には食堂と同じようにクロスを貼ってあり、カラーチェンジが可能だ。
うちは百合のレリーフにしたけど……セラフィエムスは賢神一位だから……なんの花だ?
少ない私服の整理を終えて、手持ちぶさたになっているビィクティアムさんに尋ねた。
「花? アールサイトス神のか?」
「そうです。俺、そういえば知らないなーと思いまして」
「ああ……シュリィイーレには咲かないからな。青い花で『
あ!
なるほど、マリティエラさんの誕生日に作った花か!
そーか、故郷の花ってこともだけど、賢神一位の花でもあったのか。
じゃあ、レリーフは竜胆にしよう。
青を基調に、白い壁に水晶でレリーフを作りながら貼り付けていく。
「よく知っていたな、この花……」
「俺の故郷でも、咲いていましたからね」
ビィクティアムさんは懐かしいな、と花を見つめながら昔を思い出すように呟いた。
きっと、マリティエラさんとの思い出もあったりするのだろう。
「セラフィエムスの花は『ユウナ』という花なんだが……知っているか?」
「いえ、すみません、初めて聞く名前ですね」
「海辺によく咲く、黄色い、木の花だ。芙蓉のような花なんだが」
海辺の黄色い花……芙蓉?
あ、ハマボウかな?
黄色で、ハイビスカスみたいな花だなって思って調べたことがある。
ハイビスカス属とはフヨウ属のことだ。
こんな花ですかって作って見せたら、大正解だった。
そして自動翻訳が『
それじゃこの花は、玄関にシンボルツリーとして飾ろう。
すっかりやることがなくなったのか、ビィクティアムさんは俺のすることを何も言わず眺めている。
何かを作っているのを見てるのが好きって言ってたから、面白いのかもしれないが……ちょっと緊張する。
さてさて、あとはファニチャーだが……材料がない。
ソファやらダイニングテーブルは後でもいいが、ベッドだけは作っておかないと。
流石に、ビィクティアムさんを床に寝かせるわけにはいかない。
【文字魔法】で出せるんだけど……ビィクティアムさんの目の前でいきなり完成品をばばーんと取り出すのは……まずい。
俺は一旦家の倉庫から材料を取ってくると言って、家の地下でベッドを出し、分解して運び込んだ。
軽量化魔法のおかげで楽に運べるのはいいが、嵩張る。
複製したのは、俺が泊まった皇宮客間のベッドだ。
あれなら問題ないだろう。
天蓋は……いらないか。
通販の組み立て家具が如き簡単さで、皇宮ベッド簡易版の複製品が完成した。
「おまえ、本当になんでも作れるんだなぁ……」
「構造が解っていれば、誰でも【加工魔法】で作れますよ」
「タクトが言うほど、他の者にとっては簡単ではないと思うが」
それは、試行回数と慣れです。
沢山やれば、身につきますよ。
そんなに試行する機会があるとは思えんがなぁ、と言うビィクティアムさんは感心しているというよりは呆れているに近い口調だが、気にしてはいけない。
そして一部のファニチャーを除き、リフォームは完成した。
勿論、快適住居のための『お家まるっと魔法付与』も終了済である。
ちょっと紅茶を飲んで一休みしていた時に、ビィクティアムさんが思い出したように聞いてきた。
「そうだ、タクト、魔法の確認はしたのか?」
「え?」
「聖魔法の確認だよ」
ああーっ!
そうそう、しましたよー。
えーと……
「【治癒魔法】が出ていただろう?」
はへ?
「いくら神の気まぐれとはいえ、全然その素養のない者に解毒ができる聖加護が一時的にでも与えられる訳はない。聖魔法には必ず『予兆』と『試行』がある」
……そうなの?
「『予兆』は、おまえが侍従の入れた毒茶に気付いたことだろう。『試行』は左手の解毒と回復で、マリティエラを治癒したこと。だとすれば、出ているのは【治癒魔法】以外あり得ない」
予兆と試行……【探知魔法】についてのそのふたつを問い詰められたら、俺は答えることができない。
でも【治癒魔法】のそのふたつは、既に目撃者が多数いる訳か。
むしろそっちが出ていなくて訳の解らない【探知魔法】が出ている方が不審ということなのかな。
「……解っちゃいましたかぁ」
「段位はどうせ『特位』以上なんだろ?」
「ええ、まぁ……」
「やっぱりな。【治癒魔法】はなぜか英傑・扶翼の家門でも、従者家門でも全く出ない。歴史上でも確認されているその魔法の保持者は、全員貴族も従者でもない者達ばかりだった。おまえも金証ではあるが、この国生まれの貴族という訳ではないからな」
おお!
貴族ではなく、むしろ庶民の証明!
方針変更、【探知魔法】隠蔽、【治癒魔法】開示!
クイズに正解したビィクティアムさんが、とってもドヤ顔です!
てか、正解差し替えだったけどね!
「ちゃんと教会に行って、聖魔法を登録しておけよ」
「聖魔法って登録制なんですか?」
「特殊な貴重魔法だからな。所持者は、あらゆる面で優遇、保護される」
え、何それ。
大好きな言葉ですよ『優遇』。
でもそれに見合う『義務』が生じたりするのかな?
「義務というほどのものは、ないな。特に【治癒魔法】だと住んでいる場所で魔毒の被害があった場合に駆り出されはするが……シュリィイーレで魔毒にやられる間抜けなんて、角狼の季節に無謀なことをした馬鹿者くらいだろうし」
「それでは、優遇とは?」
「減税、もしくは免税だな。一番大きなものは。元々おまえは移動制限がないし、王都中央区に居住許可が与えられるが、興味ないだろう?」
ハラショー!
なんて素敵な響きだ『減税』&『免税』!
ということは、あの隣家を買っても俺名義なら税金かからないのでは?
「タクトは輔祭第二位階級だから、聖魔法があれば第一位階級となるはずだ。上位司祭と同位だな。いや、イスグロリエスト大綬章を貰っているから……おまえの方が上か?」
「そういう階級には、全く興味がないです。でも減税とか免税はしていただきたいので、明日にでも教会に行きますよ」
「できれば聖神司祭を呼んでもらえ。その方が話が早いだろう。おまえの『奇蹟』を見ている生き証人達だからな」
「……呼び出したりして、怒られませんか?」
「まさか! むしろ呼ばなかったら、どうして連絡しないんだって愚痴られるぞ。特にサラレア神司祭とカルティオラ神司祭に」
聖魔法保持者認定の責任者が、その両神司祭様なのだそうだ。
そうか、それではお呼び出しをしよう。
「それともうひとつ」
「え? まだなんかあるんですか?」
「おまえ、俺の所に『衛兵を振り切ったご褒美』を貰いに来たんだろう? まだ聞いていないぞ、欲しいもの」
あああーーーーっ!
最も大切なことを忘れていましたよ!
「えっと、ご褒美は『魚』がいいです!」
そう、活魚水槽まで作っておきながら、肝心の魚を依頼し忘れていたのだ。
不思議そうな顔をするビィクティアムさんをうちの地下倉庫に案内して、活魚水槽を見てもらった。
活魚が欲しいというのは鮮度云々が問題ではなく、ただ単に『海水運んでくださるなら一緒に入れてね』と言いたいだけなのだが。
「これは、魚を生きたまま運べる水槽です。お願いしていた海水を入れていただき、それと一緒に水揚げされた魚を入れて欲しくて」
「殆どの魚は、港に着いた時に死んでると思うが……」
「あ、活け締めしてある魚でしたら、こっちの入れ物でお願いします! 生きてるままのものは、もし水揚げされていたら、でいいので」
「おまえ、魚なんて料理できるのか?」
「俺の育った国は、周りが全て海ですよ? 魚は日常的に食べられていましたし、俺だって捌いたことくらいありますよ」
一応そんなに上手くはないが、三枚おろしも何度かやったことがある。
母さんがあまり魚は得意じゃないみたいだから、俺ができなかったらラウェルクさんに頼むことにしよう。
「まぁ、生きたままは難しいでしょうから、無理しなくていいです」
「セラフィラントのロカエ港は、この国最高の港だぞ。無理な訳があるか」
「じゃあ、捕れたもので一番、美味しいのを頼みますよ。楽しみだなぁ」
「任せておけ!」
ビィクティアムさんの負けず嫌いが発動したので、きっと活魚が来るだろう。
ふふふっ、たーのしみーー!
こうなるとますます醤油が欲しいぞ。
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