第180話 衛兵さんと鬼ごっこ?
ステンレス作りには、やはり大量に必要だ。
クロムやモリブデンも補充できたし、セラフィラント分は当分大丈夫だろう。
そして目当ての孔雀石もいい色の物が手に入ったので、これは母さんとメイリーンさんのために何か作ろうと思ってるんだが……何にするかが決まってない。
そういえばメイリーンさんには、一番初めのプロトタイプ以外のケースペンダントを作ってないんだよな。
うん、メイリーンさんはケースペンダントにしよう。
勿論、超過保護加護付きで。
……俺も、お揃いで作っちゃおうかな。
ああ、俺ってこんなに独占欲強かったんだなぁ。
母さんには……ブレスレットなんてどうだろう?
何度か着けてるのを見たことがあるから、細めでシンプルなものなら普段使いしてもらえるかも。
父さんも拗ねるから……母さんとお揃いのブレスレットにしてあげよう。
石の色を変えるだけで、デザインを揃えて。
今日は、西のエイドリングスさんの畑に様子見に行く。
今年の作付は、
俺はあまり馴染みがなかったんだけど、シュリィイーレでは結構食べられている。
今が
その後はもう一度ビーツを植えてから、翌年に小豆を植えてもらうのである。
輪作は毎年違う収穫があるから俺としては楽しいのだが、作る方は大変だよな。
まだ、護衛の衛兵さん達が付いてくる。
……ちょっと、振り切ってみちゃおうかなぁ。
一気に西に飛ばず、小刻みに転移。
既に町のあちこちに転移目標が書き込まれているので、細かい動きが可能なのである。
跡を付けてたけど見失った……的な演出をしつつ、彼らが完全に俺に付いて来られないくらいの距離がひらいてから、エイドリングスさんの畑前まで転移した。
作付の話とか、今年の収穫の話をしてるうちに衛兵さん達が追い付いて来たので、またしても移動を開始する。
鬼ごっこ気分になってきたぞ。
今度は、マーレストさんの木工工房だ。
新しいデザインの種板を幾つか渡して、作り方を伝える。
マーレストさんが考えてくれたデザインも見せてもらって、全部採用することにした。
木工のケースペンダントも蓄音器も、いいコレクターズアイテムになってきているようだ。
石や金属のものより少しだけ安いから、集めやすいのかもな。
おや、衛兵さん達、お疲れ様です!
さあ、次の所ですよー!
お次は、ベルデラック工房だ。
ショッパー作りもすっかり慣れたご両親達と、以前より生き生きとしているベルデラックさんが出迎えてくれた。
電池を渡して、小燈火の数量を確認する。
何人かの助手も雇って効率よく、良い品質の物を作ってくれている。
「あ! あんた、あの時はありがとうな!」
そう声をかけてくれたのは、コデルロ工房を辞めてシュリィイーレに残ると言っていたあの四人のうちのひとりだ。
そっか、ベルデラックさんのところで働いているのか。
「良かった。あれからどうなったか、ちょっと心配だったんだよ」
「ベルデラックさんなら、信用できるからな! シュリィイーレで仕事ができて良かったぜ」
ベルデラックさんも、優秀な技術を持っているのに残念だったので手伝ってもらえるようになって助かってる、と喜んでいるようだ。
やはり優秀な人材は、優秀な人の元に集まるのだ。
「ところでタクトくん、あの息を切らせて走ってくる衛兵達は……君に用があるのかい?」
「いえ、用事というより……俺の見張りなんです。ちょっと訳がありまして」
「……君には、何があっても不思議とは思わないけど。相変わらずなんだな」
ベルデラックさんに呆れられてしまっただろうか……
まぁ仕方ないか。
さて、鬼ごっこは最後のポイントに移動ですよ。
頑張って追いすがってくる、ふたりの衛兵さん。
流石シュリィイーレの衛兵隊は、いい足腰とカンをしている。
見失っても、確実に俺の移動先に来るとは。
「くっそ、なんであんなに早いんだよ!」
「止まるなよ、ディレイル! 撒かれたなんて長官に知られたら、三日間演習場掃除だぞ!」
「掃除なんてしてたら、お菓子の時間に間に合わなくなるっ!」
なるほど、そういうペナルティなのか。
じゃ、可哀想だけど、あの角から東市場近くの雑木林に一気に行っちゃおうかな。
「ああっ! どこ行ったっ?」
「うわー見失ったっ!」
お疲れ様でした!
後日、衛兵さんを振り切ったご褒美をもらいに行きますね!
心の中でそう言うと、俺は転移して完全に振り切ってしまった。
残念ながら、次の地点の予想もできまい。
最後は、トリセアさんのレンドルクス工房直営店だ。
あの硝子細工の花飾りシリーズは、大変好評らしい。
「あら、タクトくん!」
「こんにちは……すみません、忙しそうですね」
「大丈夫よ。ごめーん! ちょっと会計をお願いねー!」
トリセアさんの声に奥から、はーい、という返事がある。
こちらでも体制を整えて、商売は順調のようだ。
「あの花飾り、どんどん細工が細かく綺麗になってますね。流石、レンドルクス工房だね」
「ありがとう! でもタクトくんの見本みたいな、もっと透明感のある赤がなかなか出ないのよねー」
ちらりとこっちを見ながらトリセアさんは教えて欲しそうに呟くが、残念ながらそれはできない。
あの赤は、俺の秘蔵インクだからね。
そう易々とS社のインクカラーは、再現できませんよ。
「ところで、最近は何か作ってないの?」
「お菓子ばっかりですねー、近頃は……」
「そうだわ、皇室認定! 凄いわね! おめでとう!」
「あ、ありがとう。俺は調理師でも菓子職人でもないから、なんだか複雑な気分だよ」
そう、俺は文字書きなのに、なんか別のことでばかり目立ってしまっている気がする。
……今更だけど。
「新しい物を作ったら、必ず教えてね!」
「当分は、食べ物ばかりだよ。贈り物で個人的に作るくらいしか予定はないから、期待しないで」
「……贈り物……ふぅん? まさか、女の子……とか?」
「ええ……まぁ」
「えっ! ちょ、ちょっと! 本当に? ミアレッラさんとかじゃない女性っ?」
まさに青天の霹靂! とでもいうような吃驚顔で、三歩は後ずさったトリセアさんにちょっとムッとする。
なんだよ、その驚きようは。
俺にだって、贈り物をする相手くらいいるんだからな。
「そうですよ。俺の婚約者に贈るんです」
まだ(仮)だけど。
おいおい、なんでそんなあり得ない、みたいな顔して固まるんだよ。
「ええええええーーーーっ?」
……どんだけ意外だと思われているのだ?
そんなに俺に恋人とか婚約者がいるのは、可笑しなことなんですかね?
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