第107.5話 セインドルクスとガイハック
「やっと、顔を見せてくれたな。ガルドレイリス……いや、今はガイハック、か」
「ああ、なんて声をかけていいか解らなくてな、セインドルクス」
「気付いていたのだろうに、薄情なやつだ」
「『氷情の魔導師』から、情けなどという言葉が聞けるとは驚きだ」
「……時がたてば、氷も溶けてしまうものだ」
「おまえが、あのふたりの結婚を承認するほどだからな」
「タクトくんにしてやられた……といったところだ。彼は……不思議な子だ」
「あいつのことを、どこまで解っている?」
「何も。憶測と推測の域を出ないが……確信はあるのだよ。話すか?」
「いや、聞かん。タクトが話さないことを、俺が知る必要はない」
「まぁ……大体の予想は、おまえだって付いているのだろうな」
「あいつは初め、文字の読み書きがろくにできなかったのに、まったく訛りのない言葉で話していやがった。その読み書きも、あっという間に完璧に覚えたってことは……元々素地があったとしか思えねぇからな」
「……なるほど」
「昔のことなんてのは……言いたくなきゃあ、言わなくていいものだ」
「なぜ、彼を養子にした?」
「理由がいるか?」
「納得したいだけなのだよ。おまえが、もう我が友ガルドレイリスではないという」
「……理由は……ないんだ。ただ、あいつが、俺達の子だったらいいと思っただけなんだよ」
「タクトくんは、おまえ達に隠していることがあるというのに?」
「ははは、俺達もタクトに全部は話していないからな。おあいこさ」
「昔のおまえからは……信じられん。何にでもキッチリとして、論理を求めるやつだったのに」
「俺は昔より、今の俺を気に入っているがね」
「おまえが指導したんじゃないのか? 彼の魔法技術は……」
「違う。初めからあいつの魔法は、不安定だったが強力だった。俺は鍛冶しか教えていない」
「鍛冶技能も……たいしたものだな。タクトくんに法具を加工された時は、天地がひっくり返るかと思ったぞ」
「あいつは……なんも考えずに『できるんじゃないか』と思ったことが、できちまうんだよ。あんな魔法師、俺だって教えられねぇ」
「『天賦俊傑の魔導技師』と言われたおまえが、教えるまでもないとは……」
「タクトの魔法は特殊だ。この国で随一、そして唯一の魔法だろう。先人もいなければ、誰かに教えることも……多分不可能だ」
「そうかも知れない。だからこそ、危険だ」
「……タクトを……どうしたいのだ?」
「安心しろ。教会も衛兵隊も……そして、国も、彼を『警護対象』としている。おまえ達と一緒だ」
「警護……か」
「そうだ。それくらいは飲み込んでくれ」
「そうだな。俺達は国にとっては、まだ利用価値がありそうだと思われているのかも知れん。だが、タクトにまで何かさせようってんなら……」
「大丈夫だ。言っただろう? 護りたいだけだ」
「……」
「おまえが国を信じられないのも解っているつもりだ。しかし……私を、信じてはくれないか」
「解ったよ……おまえなら、俺は信じられる……ドミナティア・セインドルクス。おまえの名に誓ってくれ」
「誓おう。我が名をかけて神の御名の元に。決してタクトくんを傷つけさせたりはしない」
「兄上、そろそろ」
「わかった。すぐに行く」
「全く……ドミナティアは、意外とお節介なやつらだ」
「そうとも。護ると決めたものを守り抜くための『氷』なのだからね」
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