第96話 魔法師検定

「魔法師一等位検定……ですか?」


 俺は魔法師組合でここのところこなした依頼の完了報告と、報酬の受け取りをしていた。

 その時にコーゼスさんから魔法師一等位になるには、検定に合格しないといけないということを聞いたのだ。

 道理で、なかなか二等位から上がらなかった訳だ。


「魔法師一等位にはこの試験が必須なんだけど、成人していることと、独自魔法以外で第一位以上の魔法が使えることが条件なんだよ」

 年齢制限と、練度制限があったのか。

 未成年では受けられないってことなんだな。


「タクトは特位が出ているから、問題なく受験できるよ。どうする?」

「希望者だけなんですか?」

「うん、二等位でも仕事に不自由はしないからね。それに君は指名依頼がもの凄く多いし、定期依頼もあるから別に焦らなくていいし」

 魔法師一等位を持っていることは信用になるらしく、質のいい仕事の保証になるから依頼をされやすくなるということらしい。


「でも、お客さんの中には『魔法師一等位に付与してもらった』っていうのを自慢したい人もいるから、取っておくとお客は確実に増えるね」

「うーん……でもそういう権威主義の人は、面倒くさそうで嫌だなぁ」

「あはははは、そうだねー。でも一等位以上になればお客も選べるし、嫌な客からの指名依頼も断ることができるようになるよ」


 そう、基本的に指名依頼は、断れないのである。

 二等位以下で指名依頼が入ったら、全部引き受けなくてはいけない。

 そのでき具合で、魔法師としての格が決まっていくのだ。

 修行中はいろんなことをやれということなのかもしれないが、これが結構厄介だったので断れるようになるというのは悪くない。


「じゃあ、受けてみます。一等位が取れたら、それはそれで嬉しいし」

「解った。じゃあ、申請しておくね。試験は弦月つるつき十一日だよ」


 おっと、ライリクスさんとマリティエラさんの結婚式三日前じゃないか。

 ……落ちてしまったら俺は、素直にあのふたりを祝福できないかもしれない……




 弦月つるつき・十一日。

 魔法師一等位検定試験当日がやってきた。

 試験は東隣の町・レーデルスで行われる。

 初めての旅である。


 エルディエラ領になるレーデルスの町は、殆どが畑ばかりの農家の町だという。

 ただ、三カ所の町に接しているので、ここに集めて試験を行うらしい。

 野菜を買っているゼルセムさんがいる町なので、試験が終わったら一度挨拶にいこう。


 シュリィイーレからは馬車で一刻間……だいたい二時間ほどで、一緒に試験を受ける人達との乗合馬車で行く。

 集合は朝市が立つ時間より早く、現地に着く頃に朝市が始まるくらいの時刻だ。

 なので馬車の中では殆どの人が眠っており、会話することもなかった。


 レーデルスに着いてすぐに、試験会場に向かった。

 試験は午前中に行われ、その日の夕方には結果が出るのだ。

 各地で日をずらして試験を行っているから、審査官があちこち行かねばならないからなのかスピード試験、スピード審査なのである。

 きっと明日には、別の町の審査官をやらねばならないのだろう……

 大変なことだ。


 試験会場は、各属性毎に部屋が違う。

 赤・青・黄・緑……あ、白がないのは独自魔法とか【付与魔法】とかだからか。

 白だけしか適性が出ていない人はその他のどれかひとつ、得意なものの部屋に行くようだ。

 俺は、赤属性魔法部屋である。

 今回の赤属性受験者は二十一人。

 多い方らしい。


 攻撃魔法系十五人と、補助魔法系六人に分かれた。

 ……そうか、赤属性といえば炎の攻撃系が多いのか。

 シュリィイーレでは攻撃魔法なんて役に立たないから、自分が少数派だとは思わなかったぜ。


 俺達六人は、屋内の部屋で試験を受ける。

 補助系は、年齢が高い人が多いみたいだ。

 俺が一番……ガキっぽい。

 仕方がない。

 新成人なのだから。


「まずは、試験資格の確認をいたします。身分証を出して、大きくはせずに目の前の石板に置いてください」

 これは以前、魔法師組合で身分証を確認した時のやり方だ。

 審査官の持つプレートにだけ、俺のデータの一部、名前と年齢、在籍地、魔法のみが見えるようだ。

 どうやらふたりでひとりずつ受験生を確認するみたい。


「……彼は……二十五歳? 成人になったばかりで、補助系が受けられるのか?」

「見てください、特位が出ています」

「信じられん……誰だ? 成人確認司祭は」


 おいおい、司祭様が間違えたとか、言うつもりじゃねーだろうな?

 審査官ふたりは身分証の裏書きを読んで驚いたような顔をしたが、問題ないと納得してくれたようだ。

 やっぱりあの司祭様は、シュリィイーレで一番上の人だったのかもしれない。


 そして確認終了後、試験官ふたりが概要説明を始めた。

「今回の試験はいつもと少し違うものもありますので、今まで落ちていた方も得意の魔法である可能性があります」

「ある商会の方々にご協力いただき、より実践に即したものとなっていますので、是非頑張ってください」


 実践経験重視というやつか。

 うーん、俺には不利なのかな?

 でも、そこそこいろんなことしてるから、上手くできるといいなー。


「第一に、武器と防具への魔法付与または強化。どんなものをどのように付与するかはお任せしますが使用者が使いやすく、強いものであることが要求されます」

 ふんふん、【強化魔法】でいいのかな。


「第二は、いくつかの素材から指定された形のものと同じものを魔法で作製してもらいます。数量と正確性が求められます」

 加工・錬成か。

 いつもやってるやつだな。

 素材次第だけど、これは大丈夫だろう。


「第三は、お渡しした鉱石からなるべく多くの種類の単一素材の抽出です。最低でも五種類以上を取り出してください。純度と量が求められます」

 組成分解か。

 なるほど、確かに基本だね。

 うん。


「第四は、金属の硬度調整。三種類の金属の硬度のみを変えてください。その他の特性が変わってしまわないように」

 これは簡単だが……こんなのでいいのか?

 一等位だろう?


「第五は、違う素材同志の結合。全く異質な素材同志を結合させ違う素材にする、またはふたつの特徴を備えたものにしてください」

 変成か混成ということだね。

 うん、得意得意。



「以上五項目のうち、三項目以上を行ってください。勿論、全てに挑戦していただければそれが一番ですが、魔力切れなどの無茶をしないように。では、始めてください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る