第66.5話 ライリクスとビィクティアム

「旨そうなものを食ってるな」

「召し上がりますか? 副長官」

「いや、甘いのだろう?」


「ああ、あなたは甘味より酒でしたね」

「おまえは飲まないんだよな? 下戸か?」

「酔うと魔眼の制御が利かなくなって、気分が悪くなるから飲まないだけです」


「そういうことにしておいてやろう。これ、ミアレッラさんの作ったものか?」

「いえ、タクトくんだそうですよ」

「こんなものまで作れるのか……昨日の硝子といい、なんだってあんなことがさらりとできるんだ」


「……器用なんでしょうねぇ。独自魔法をあの年で使いこなせている」

「昨日は、何か聞き出していたのか?」

「いえ、どちらかというと聞き出されていました」

「おいこら、審問官!」


「大したことじゃありませんよ。彼は……独自魔法に、興味があるみたいでした」

「自分のと比べたいとか?」

「うーん……どちらかというと、独自魔法というものを深く知りたいと思っている感じでしたね」


「やっぱり、タクトのは視えないのか?」

「はい。本当に全く嘘がないんですよ。答えたくないことには答えず、別の方向へ話を持っていくだけ」

「あんなに頭が回るくせに、常識的なことは知らん。しかも変にカンがいい」

「魔力量の多さも、技能の練度も破格、なのに基本は解っていない……意味が判りません」



「それと……気付いたか? 入れ替えた二階の窓硝子、夜になると顔が映る」

「表面に凹凸がなく、歪んでいないということですか。余程性質や組成を理解しているのでしょう……どこで学んだのか」

「他国の者だと聞いた……もう、国自体が亡いようだが」


「他国出身なのに、言葉に訛りがないのはどうしてだと思います?」

「教育……か?」

「そんな高度な教育をされている『平民』なんているんですかね?」

「実はな……あいつが以前使った『家族から渡された』という【文字魔法】の札があまりに強い魔法だったのも、気になっててな……」


「その強力な攻撃魔法で、身を守らねばならない立場だった……?」

「ああ、そうかもしれないと思ってな」

「亡国の貴族……それもかなり上位。もしくは……王族の傍流、とでも?」


「いくらなんでも飛躍し過ぎか?」

「いえ、その可能性を考慮しておくべきでしょう。彼の才能や技能が外部に知られれば、確実に多方面から狙われます」

「……まだ成人前だ。これからもっと、魔力も強くなるだろう」


「『平凡で楽しい日常生活』……」

「ん……?」

「タクトくんがそう言ったんですよ。夢は平凡で楽しい日常生活だと。子供の見る夢じゃあありません」

「そういう暮らしに憧れるような……状況にいた、ということか」



「その夢は……かなえてあげたいです……」

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