第46話 冒険者たち
この世界にも、冒険者という人々がいるらしい。
だが、シュリィイーレの町には定住している冒険者はいないので会ったことはなかった。
かつては居たようなのだが、元々この町で依頼など殆どないので引っ越していったようだ。
彼等は腕っぷしが強かったのだが、それゆえに問題を起こす事が多かったらしい。
職人さんってのは、頑固な拘りを持った人が多いからね。
その後、町では冒険者をあまり歓迎していない。
ここにいた奴らの印象が悪すぎたんだろう。
この町にも、冒険者組合の窓口はある。
だいたいの組合事務所は、町の中心に固まっている。
だが冒険者組合は西門の近くのちっちゃい小屋みたいな建物で、従業員もふたりだけだ。
依頼も無いので留守番だけだったり、誰もいない時さえある。
わざわざ討伐に出かける必要のある魔獣は、付近にはいない。
いたとしても衛兵隊と自警団で事足りる。
町も西側に突き出た形で開墾されている畑や果樹園も、堅牢な外壁に護られているので滅多に害獣は入り込まない。
そして冒険者に頼っていないからか、この町の自警団や衛兵隊はめっちゃ強い。
毎年、王都から新人騎士が研修で来るほどである。
ミニ燈火を納め終わって、もうすぐ坑道の整備が始まる頃にふたりの冒険者達がやってきた。
どうやら他の町で出ていた、錆山にある素材採掘の依頼を受けたらしい。
冬の間、立ち入り禁止になっていた碧の森と錆山の開放日も、いつもの年ならもうすぐだ。
でも、今年は坑道入口付近が半分以上潰れてしまっている。
すぐに入る事は難しいだろう。
彼等は暫くこの町に留まって、開放日を待つようだ。
町の人達は……あまり彼等に関わろうとしない。
碧の森に近い北側に宿を取っているのだろう、うちの食堂に来る事はなかった。
……今までは。
冒険者とおぼしきふたり組が、うちにやってきた。
男性と女性がひとりずつ。
どちらも腰に剣を携えている。
女性の方は短剣も使うみたいだな。
それにしてもこの女性、派手な鎧だなぁ。
上から下まで真っ赤だ。
男の方も真っ青の胸当てをつけてる。
自己顕示欲の強そうなおふたりさんだ。
この町で武器を持って鎧をまとうなんて、場違いもいいところ……
食堂にいるお客さん達も黙ってしまった。
睨み付けるようにふたりを見ているのは……ロンバルさんだ。
食堂を見回して女性の方が大声を出した。
「ここの店に、おかしなものでも改造できるっていう鍛冶師がいるって聞いたんだけど?」
俺のことだな、これ。
あー、母さんの機嫌があからさまに悪いよ。
父さんも口をきこうとしないし……
「別になんでも改造したりはしないけど……なにか?」
声をかけたら、女性の方が驚いたような顔で俺を見た。
「……子供が?」
「信用できないなら帰れば?」
「そういう訳じゃねぇよ、ダリヤ、そういう言い方すんな」
男の方は鷹揚にみせてはいるが、彼女の前だからだろうな。
表情が硬いし、どう見ても牽制だ。
左手が剣にかかってる。
いつでも抜ける態勢ってことだな。
ダリヤ……という女性は大きく溜息をつく。
「責任も取れない子供に、仕事を任せられると思うの?」
「まあまあ、見せるだけ見せてみりゃいいだろ?」
「俺、あんた達の仕事を受ける気ないよ? 鍛冶師じゃないし」
「なによ! 鍛冶師でもないくせに、なんで改造なんてしてるのよ?」
「あんたには関係ないし、鍛冶師だって勝手に思い込んだのはそっちだろ」
「おい、随分生意気だな、てめぇは」
男はもう我慢の限界のようだ。
こらえ性がない奴だな。
「もういいわ、この町の人って本当に性格悪い」
「……お互い様」
しまった、一言多かったな。
男が後ろから俺を殴ろうとする。
残念。
バカでかいフォームのせいで丸わかり。
するっと避けて男の正面に向く。
『身体強化』をしているので、動きが素早くなっているのだ。
ふたり共、信じられないというような目で俺を見る。
だが、男がすぐさまもう一度拳を振り上げた。
避けながら扉を背にする。
後ろ手にドアノブをまわし、殴りかかってくる男を避けつつ扉を開ける。
足も引っかけておこう。
男は威勢よく転び、表に飛び出した。
「バドリー!」
女性がその男に駆け寄って表に出たので、俺も外に出る。
「あんたたち、出禁」
万年筆を取り出し、空中文字で『当店出禁』と書いて彼等の武器に付与した。
これで武器を持っている限りうちの店には入れない。
でも、冒険者が武器を持たずにうろつくなんてないだろう。
そして俺は、さっさと店に戻り扉を閉めた。
うーむ。
こっちに来てから俺は、随分攻撃的になっている気がする……
もう少し、穏便にしないとまずいかも。
そうおもいつつ食堂内に目をやると、お客さん達から大喝采だった。
「はっはっはっ! 凄いじゃないか、タクト!」
「いい気味だ! あいつ等うちでも横柄でムカついてたんだ」
「子供に殴りかかるなんて、なんて乱暴なんだろうね!」
「それにしてもあいつ等、間抜けだったなぁ」
「タクトくん、つよーい」
……お客様に喜んでいただけたのでしたら、よいショーでした。
「タクト」
あ、父さん……母さん……
「相変わらずおめーは、無茶しやがって」
「……つい」
「よくやった。胸がすっとしたわい」
父さん、頭なですぎ。痛いって。
母さんは呆れ顔だ。
「はぁ……なんて短気な子だろうねぇ。あんまり危ない事は、しないでおくれよ」
「ごめん、でもここでグズグズする方が危ないと思ったからさ」
剣を抜かれたくなかったしね。
「タクトは……武術でも習っとるのか?」
「いや、何もやってないよ?」
やけにシリアスに聞いてくるな、ロンバルさん。
なんかあるのかな?
「俺、戦うとか嫌いだもん。でも防御くらいはできるように、体力つけてるだけ」
「……そうか、それならいいが。腕っぷしが上がると、勘違いする奴がいるんでな」
「勘違い?」
「自分が強いっていう勘違いさ。強さなんてものを追うようになるのは……危険だ」
「物理的に戦うための強さは必要ないよ、俺には」
「そうか、そうだな。タクトは……大丈夫だな」
……大丈夫じゃない奴もいるって事か?
ああ、そうか、ミトカか。
ロンバルさん、あいつの事心配してたもんな。
ミトカは……強くなりたいって思っているのかな。
あいつが何をしたいかなんて、どうでもいい。
でも、ロンバルさんに心配かけて欲しくはない。
それにしても、あのふたりの冒険者には町で会わないようにしたいな。
絡んできそうだし。
また会っちゃったら俺、絶対に睨んじゃいそうだし。
俺もこらえ性ない方だなぁ。
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