覗き込むもの

 夜中、トイレに起きた時の出来事だった。

 トイレのドアを開けようとした時、玄関の外で誰かが動く気配がした。

 私の住んでいるアパートは築20年くらいの古めの木造アパートだったが、大学から徒歩5分と近く、そのアパートの住人はほとんど同じ大学の学生だった。

 その時も、深夜までバイトをして今帰ってきたのだなと思ったが、何やら様子がおかしい。


 “ざっ…ざっ…”


 ゆっくりとコンクリートの地面を擦って歩くような音がした。


 尿意よりも今に誰がいて、何をしているのかの方が気になり始めていた。

 好奇心のまま、ドアの魚眼レンズから外を覗き込む。


 しかし、外には誰もいなかった。


 腑に落ちないながらも、深夜まで飲みすぎた住人が足元がふらつかなかったのだろうと自分を納得させ、トイレを済ませた。


 個室から出てふと玄関の方を見遣ると、玄関のドアの下の方に付いている郵便受けが開き、その中から二つの目玉のようなものが覗いていた。


 逃げるようにして布団に入ったが、怖くて眠れなくなってしまったので、部屋の明かりをつけて朝まで過ごした。

 朝になると誰もいなかったが、それ以降、極力郵便受けは見ないようにしている。



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