19

携帯が鳴る音でハッとした。

携帯電話で時間を確認すると7月20日0:00だった。

私は音楽コンテストのサイトを確認し、自分の曲が正常にアップされたのを確認した。

あとはツイートもしておいた方がいいよね。

普段はほとんど見ることのないSNSにハッシュタグ(#音楽コンテスト#青春)をつけ、投稿サイトのURLを貼り付けた。

そうだ私には音楽だ。他の人のことばかり考えていたけど、私が集中しなきゃいけないのはこのコンテストだ。

0時ちょうどにUPした人は私以外にも何人もいた。

私は1つ1つの作品を聴きながら、好きだと思ったメロディや歌詞をノートに記載する。

春夏秋冬というざっくりとしたテーマだっただけあって、J-POPやラップ、クラシックの曲など幅広かった。

本当になんで音楽ってこんなに無限に広がっているのだろうか。

改めて音楽っていいなと思った。


翌朝

夏休みの初日の朝は両親の喧嘩の声で目を覚ます。

最近両親の喧嘩が激しくなっている気がする。

私は階下からかすかに聞こえる音をシャットアウトするため、ヘッドフォンを耳につけピアノを弾くことにした。

きっときっかけは私なんだろうな……。

私がアーティストになりたいって言ったから。

2人とも表面上は私の夢を応援してくれている。

私はそれでもいいと思っていた……。

でもこんなに喧嘩になるなら……。

私にとって音楽は人を幸せにするものだ。

その音楽をしているのにどうして私の大切な両親はこんなにもピリピリしているのだろうか。

テストの成績だってちゃんと10位以内をキープしてる。

何がいけないのだろう。

ピアノを弾いていたはずなのに、全然集中できない。

家にいるのも嫌だったので外の空気を吸いに行くことにした。

家を出たタイミングで隣の家からコウくんも出てきた。

「コウくんおはよ」

「おはよ。奏にしては朝早いな。眠れなかったのか?」

コウくんに頭をポンポンされる。

この人はどうして他人の心配ばっかりするのだろう。

自分だってまだあの事件の傷癒えていないだろうに……。

「まぁね。それよりコウくんは夏期講習?」

「あぁ。それより奏気晴らししたいなら、ショッピングモールでも行ってこいよ。最近ストリートピアノ設置してみたいだぞ」

「えっ?!そうなの」

「あぁそれじゃあ」

コウくんは腕時計をチラッと見ると、そのまま自転車を漕いで行ってしまった。


私は早速ショッピングモールへやってくると、ストリートピアノを探した。

お目当てのピアノを発見しテンションが上がる。

幸い誰もいなかったので、そのままピアノを弾くことにした。

コンテスト用に作った夏曲“あの日の約束”を弾く。

最初の伴奏の部分は春曲から繋がっているので、少し優しい感じのメロディから始まるが、サビでは激しくなり、秋に向けてまた優しく終わる。

最後の1音を弾き、曲の余韻に浸ったあと周囲を見渡し他にピアノを弾く人がいないかを確認した。

朝早いこともあり特に人もいなかったので、私は続けて曲を弾くことにした。

“冷華”これは紺碧が以前UPしていた曲だ。そして私が紺碧を知った初めての曲でもある。

この曲はキーボードで弾くよりもグランドピアノにあう。

張り詰めた糸のようにピンとはじまり、些細な音でも壊れてしまうかのような曲。

紺碧は孤独を抱えていたのだろうか。

私は初めてこの曲を聴いた時、凄く不安になった。

でも最後まで聴き終えたら感動に変わっていた。

4分50秒でここまで人の感情を揺さる。本当に恐ろしい曲だ。

葵先輩が作ったというのが意外だが、私は葵先輩の過去を全く知らないし、現在のことだってほとんど知らない。

あの人とは音楽以外の話をほとんどしなかった。

あの人が何が好きで、苦手で……どんな表情をするのかもほとんど知らないのだ。

突然現れて、消えて……。

その時私はピアノを弾きながら自分が泣いていることに気づいた。

辺りに人がいなかったから良かったが、私は葵先輩が近くにいなくなることにショックを受けているのだとその時初めて実感した。

葵先輩は音楽は本当に素敵だけど、あんなに適当で横暴でいい想い出の方が少ないのにいつの間にか大きな存在になっていたようだ。

私は席から立ち上がるとこちらを見ていた1人の男性と目が合った。

ピアノ弾くのかと思い、取り敢えず男性にお辞儀をしてショッピングモールを出ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る