12

ピンポーン

家の呼び鈴が鳴った。

こんな時間に誰だろうと思いながら、部屋からインターホンまで向かう。

画面には女の子が一人映し出されていた。

「はい」

取り敢えず返事をする。

「あの〜私来栖くるす伽耶かやと申しますが、奏さんいらっしゃいますでしょうか」

少しのほほんとした口調で少女が名乗る。

「あっ私ですけど」

私は警戒しながらも返事をする。

「あの〜少しお話ししたいのですが、お時間ございますでしょうか」

なんて回答すればいいのか、悩んでいると来栖さんが続けた。

「臣様のことで少しお話しさせて頂きたいのでちょっと外に出てきてはいただけませんでしょうか」

「少々お待ちください」

私はインターホンの電源をオフにして混乱していた。この人がコウくんに好意を抱いているという女の子なのだろうか?

でも私に対して文句を言いそうな感じの人じゃないけどな……。

取り敢えずコウくんにメッセージだけ入れておけば大丈夫かな?

私はコウくんへ来栖伽耶さんが家に来たことを送り、玄関へと向かった。

玄関を開けると、彼女は再度自己紹介をした。

「初めまして。奏さん。来栖伽耶と申します」

「はぁ」

どう対応していいか困り気のない返事をする。

「あの少し場所を移動してもよろしいでしょうか」

そういうと彼女は後ろを振り返った。そこにはみるからに高級車なのではという感じの車が1台止まっていた。

私が反応に困っていると彼女は潤んだ瞳で上目遣いしてきた。

「ダメでしょうか?」

私は根負けして彼女について行くことにした。


車で移動すること約10分。

どこかのホテルなのだろうか?眼前に広がる庭園。そして室内ではアフタヌーンティを楽しんでいるお客さんで溢れていた。

VIP席か何かなのだろうか。他の人たちから少し離れた席に通された。

「さぁそちらの椅子にお掛けください」

馴れたような動作で近くに控えていた男性が椅子を引いてくれる。

「ありがとうございます」

席に着くとお店の人が食事を運んできた。

「紅茶はお好きかしら?」

「あっ……はい大丈夫です」

「よかったわ。少し遅いけどアフタヌーンティにしましょ」

そう言ってよくわからないまま彼女と同じ紅茶を頼む。

紅茶がカップに注がれると、やっと彼女が本題を切り出した。

「奏さんは臣様のことを好いていらっしゃるんでしょうか?」

「あの……その前に1ついいですか?」

「あっはい。急に話し始めてしまってすいません」

彼女は自分が暴走していることを自覚したのか顔が真っ赤になり少し俯いた。

私はこの人が本当に私に対して悪口を言っている本人なのか確認したかった。

「来栖さんはコウくんと知り合ったのはいつ頃でしょうか」

「私が臣様と初めてお会いしたのは、4月だったでしょうか。クラスメイトに騙されまして人生で初めて他校生と遊びました。男性がいるなんて聞かされておらず、困惑しておりました。他の男性の方々が声をかけてくださったのですが、男性とあまりお話ししたことがなかったのでどうしていいのか困っていたのです。そしたら臣様が優しく助けてくださって、それから私は臣様に好意を抱いております」

そういって少し照れてしまう彼女の表情は恋する女の子という感じでとても可愛らしかった。

「連絡先は交換できませんでしたので、その時一緒にいたクラスメイトの子に頼んで何度か臣様にお会いしたい旨伝えて頂いたのですが、お忙しくて難しいと言われましてお会いする機会が全然ありませんでした。先日臣様を拝みたいと学校で臣様を待っていたのですが、そしたらあなたと一緒に下校されておりました。気になってあなたのお家までストーキングしてしまいました。その時は勇気が出なくてそのまま家に帰り改めて今日お伺いしたまでです」

あれれ?やっぱりこの子コウくんが言ってた子と少し違うのでは?

「あのちなみになんですが、来栖さんが相談していたお友達はなんていうお名前なんでしょうか」

「友達の名前ですか?とどろき小鞠こまりさんです」

来栖さんはなんで友達の名前が知りたいのかと少し不思議そうな表情をしたものの答えてくれた。

「ありがとうございます。ちなみにその子って白金にある塾に通ってますか?」

「えぇ確かそうだったと思うわ」

あぁその轟さんがこの子を嵌めてるのか……。

「あの1つ確認したいんですけど、学校で私の悪口とか言ってないですよね?」

「学校で?そんなことしないわ。その子には臣様が女の子と一緒に登下校してることを伝えたけど、それだけよ。むしろ私はあなたとお話をしてみたかったのよ。だから今日お家までお伺いさせて頂いたの」

そう言って嬉しそうな表情を浮かべる。

「そうなんですね。よかったら今度コウくんに直接会ってお話しする機会作りましょうか?」

こんなにも純粋な女の子が悪い子だと思われるのは流石にモヤモヤするので、実際に話す機会を作れば誤解も解けるだろうと思った。

しかし彼女は首を横に振った。

「いえ、いいのです。私は本当は恋をしていい人間ではないのです。将来は会社のために両親が選んだ方と結婚させられてしまうので、ひっそりと臣様のことを眺められればいいのです。それに私に親しい異性の方がいたらお父様に激怒されてしまいそうなので」

そう言った彼女の表情はどこか寂しげだった。

「大丈夫。それなら私も一緒にいれば問題ないでしょ」

私は短時間しか話してはいないが、彼女と仲良くなりたいと思った。

そして彼女の恋の話を聞くのもとてもいいのかなと思った。

「ありがとうございます。あっ……一応確認したいのですが奏さんは臣さんのことお慕いしていらっしゃるのでしょうか?」

彼女に改めて質問をされて彼女が気になっていた質問に対して答えていないことに気づいた。

「私は今は音楽のことしか考えてないので恋愛対象かどうかと聞かれてもその感じがよくわからないんですけど……頼れるお兄ちゃんって感じです」

「そうなのですね」

そう言って彼女はどこかほっとした表情を浮かべたのだった。

「あのよかったら日を改めてお話ししませんか。私来栖さんともっと話してみたいです」

「あらまたお会いしてくださるのですか。嬉しいです」

彼女とのアフタヌーンティが終わり、車で家まで送り届けてもらう。

去って行く彼女はとってもスッキリした表情だった。

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