10
ブーブーブー携帯の振動で目を覚ました。
んーん誰?眠たい目を擦りながら携帯の画面を見ると、葵先輩からの電話だった。
「もしもし……」
寝起きの掠れた声で通話のボタンを押した。
「奏ちゃん今起きたの?もう8時だよ」
「えっ!やばい遅刻する」
「嘘嘘。まだ7時だから大丈夫。ちょっと早めに学校来れる?」
「あぁ〜わかりました。私も昨日作った曲聴いてもらいたいです」
「それじゃあ第2音楽室で待ってるね」
「わかりました」
通話を切ると急いで登校する準備をする。
私が早起きしたことに母は驚いていたが、すでにお弁当はできていた。
母に感謝して家を出るとコウくんに先に登校する旨メッセージを送った。
下駄箱で靴を履き替え、第2音楽室へそのまま向かう。
音楽室に近づくに連れ、何やらピアノのメロディが漏れ聞こえてきた。
知らない曲だけど、少し切なくなる曲だなぁ〜。
第2音楽室に到着し中を覗くとやはり葵先輩がピアノを弾いていた。
ノックをするのを躊躇っていると、急にピアノが止んで葵先輩がこちらを見ていた。
「奏ちゃんおはよー」
先程のピアノを弾いてたテンションとは思えないくらい明るく挨拶された。
「おはようございます先輩。先輩ピアノも弾けるんですね。」
葵先輩はピアノを一瞬愛おしそうに眺めてから答えた。
「うん。元々小さい頃はピアノをずっとやってたからね」
「そうなんですね。なんでギター始めたんですか」
「あぁ元々は父がやってて先に兄が始めて。俺も一緒に教わり始めた感じ」
「そうなんですね。葵先輩の家は音楽一家なんですね。あのそれでこんなに朝からどうしたんですか?」
「……あぁごめんね。先に奏ちゃんがこの前作ったって言ってた新曲を聞かせてよ」
そう言うと先輩は座っていた椅子から立ち上がり席を譲ってくれた。朝から呼び出すくらいだから何か真面目な話があるのかとドキドキしていたが、少し拍子抜けした。
「いいですよ。私も葵先輩に聴いてもらいたかったんです」
私は椅子に腰を下ろし鍵盤に指を添える。
この曲は恋愛をしたことがない私自身の不安や寂しさを曲にしたものだ。
曲を弾き終え葵先輩の方を向く。
「あの葵先輩何かあったんですか?」
先輩の頬には涙がスーッと伝っていた。
「えっ?あっごめん……」
謝る先輩の目元から一筋の涙が頬を伝った。
「あれ?おかしいな……。こんなはずじゃないのに……」
私は先輩の元に近づくと優しく頭を撫でてあげた。
「大丈夫ですよ、先輩。泣きたい時は泣くのが1番です」
私はもう一度ピアノに腰をかけると、優しめのバラードを弾き始めた。
葵先輩の様子を伺いながら何曲か曲を弾き、落ち着いたタイミングで一旦演奏を止める。
「ありがとう」
葵先輩が小さく呟いた。
「いえいえ。葵先輩お忙しいと思うのでたまには甘えてもいいと思いますよ。私に何か言いたいことがあったのかも知れませんが、無理に言わなくてもいいですし、曲が必要になったらいつでも私を呼んでください」
「そろそろ始業時間になりますが葵先輩はどうしますか」
教室の時計を見るともう間も無く始業のチャイムがなる時間だった。
「僕はこのあと仕事だから、大丈夫」
「このあとお仕事なんですね」
先程泣いていたので大丈夫だろうかと心配になったものの、すでに立ち上がった先輩の表情は先程までとは違い仕事モードの顔になっていた。
「頑張ってください」
私は葵先輩にエールを送ると、葵先輩は「ありがとう」と微笑んだ。
音楽室を後にするため出入り口に向かうと、急に後ろから抱きしめられた。
えっ?急な出来事に戸惑っていると葵先輩が耳元で囁いた。
「本当にありがとう」
そう言って手を離した葵先輩からふわっと石鹸の香りがした。
あれこの匂いどこかでと思ったものの、抱きしめられたという事実に頭が追いつかずそれどころではなかった。
「それじゃあ奏ちゃん」
そう言って葵先輩は去っていった。
私はその後どうやって教室に戻ったのかも記憶がないくらい上の空だった。
お昼になりやっと落ち着いたが、まだ抱きしめられた感覚を思い出すとドキドキした。
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