第67話

ボロボロの体に鞭を打って立ち上がる


詠唱は覚えてる

勿論使ったことはない

使えるかも分からない


仮に使えたとしても、とんでもなく霊力を消費するかもしれない

霊力が枯渇して死ぬかもしれない


でも不思議と自信があった


「真の力をもってして、大願を成就なさしめ給へとかしこみかしこみ申す…真装」


この土壇場でやるなら真装、仮に使えても大した事はないかもしれない

でも今の俺に出来る事で可能性があるとすればこれしかない…


………


だが何も起きない

どころか霊力すら減っていない

詠唱を間違えた?

やはり俺には使えない?

だとすればもう…


バチン


言葉で表現し辛いが体がズレた?感覚になった

それで何か変わったかと言われれば何も変わっていない


立ち上がった俺に気付いた武本がこちらに向かってくる

その動きが先程と違いかなりゆっくりに見える

でも体は動かない、なんなら力も入らない

ヤバい。今度こそ殺される

ゆっくり動く世界で自分の体が離れていく

何を言ってるか分からないかもしれないが、俺の意識はあるのに体がそこにあるのだ

まるで幽体離脱のような…

いや、経験した事はないんだけど


ただ幽体離脱と違うのは魂?が抜けたはずの自分の体が動いているのだ

武本と同じ様にゆっくり動く俺の体

武本は先程と同じ様にパンチを繰り出す

俺の体はバックステップでそれを躱す、だけでなく霊弾を武本の顔にぶつけた

あぁ、もう大丈夫なんだ

なんの根拠もない安心感が湧き上がり俺の意識はそこで途絶えた



久しぶりにこっちに出たと思ったら目の前に拳があった

しかも得体の知れない怪異

取り敢えず避けてから霊弾を当てといた

この霊弾、普通とはちょっと違い当たった相手は5分ほど動けなくなる

この5分で頭の中を少し整理しよう


色々あるがまずは目の前のこいつだ

あの頃だって人間が怪異になるなんて事は無かったはず


阿部?「おい」


武本「グオオオオォォォォ!」


阿部?「会話すら出来なくなったのか」


えげつない事しやがるぜ

さっきの奴、救世の宵闇の構成員か

俺のだと奴らは宗教じみたことをする程度だったんだがな

時間ってのは恐ろしいもんだぜ


次に真装、色々思う所はあるが俺が引っ張り出された

そのお陰で前回とは違って少しだけ時間に余裕がある

霊装もそうだが、この時代の陰陽師はほんとに色々考えてる

全体のレベルは下がってるのにそれを補って余りある技術力と発想の転換だ


いろんな事があべこべになってる

誰かが糸を引いてるのかもしれないし、自然とそうなったのかもしれない


何にせよ取り敢えず目の前にいるクラスメイトを救うのが先決だ


その為には…


校長へと軽く霊力を飛ばしながら視線を送る

気付いた校長は生徒達の避難を他の先生へと引き継ぎこちらへ飛んでくる


校長「やはり、貴方様は…」


校長が俺の前へやってきて跪く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る