楽しげなエレナさん

「なにしてんすかエレナさん!?」

「お姉ちゃんは超能力者の危険性がわかってないよ!」


 俺とアンナは合わせて声を荒げた。

 すでに杖は抜かれてしまった。

 バラバラの身体がくっつくのを阻害していたサイコキネシスが解除された。

 

 まずい出て来る──そう覚悟をした直後、強力な衝撃波を察知、アイコンコンタクトでアンナに指示をだし、その場を飛び退いた。

 飛び退きながら俺が風属性式魔術を全身に展開し、嵐の鎧を着ておく。これで基本的な防御力強化と機動力強化はなされた。


 金属の棺が破裂する。

 内側から外側で破片が飛び散った。


「戻ったぞォォ! ああッ! ようやくだッ! ようやくくっついたァア!」


 飛び出した全裸の変態は高笑いをして周囲を睥睨、俺を見つけるとハッとして手のひらを向けて来た。

 お告げはサイコキネシスでの波状攻撃を伝えている。


「舐めんな」


 俺は氷の魔力を一気に展開し氷の壁のなかに閉こもった。

 サイコキネシスは氷殻の外側をわずかに破壊したが、それ以上の効果は及ぼさない。


「ッ、超粒子運動の低下……!?」


 俺が氷の殻のなかから魔氷砲弾を生成、即座に反撃、サイコキネシスの多重展開でガードを固めて来るが、緒方自身がハッとしてミスに気が付く。

 わかってはいても咄嗟の反応や、手癖のようなものは消えない。


 氷の砲弾は緒方の肩に風穴を穿ち、左腕をふっとばした。

 

「ぐぅッ! 念動力を無力化するだと……! だったらパイロキネシスでもろとも──」

「はい、そこまで全裸くん」


 緒方の胴体へ真っ赤な軌跡が走り、続く刃が頭部を細切れに破壊。

 一瞬のうちに超能力者は一時的な無力化状態にされた。


 エレナは手に刃渡り20cmほどの深紅の短剣を持っていた。

 いつ抜いたのか見てなかったのでわからないが、アレで緒方を始末したのは間違いない。恐るべき戦闘能力に戦慄せざるを得ない。同時に安堵する。


「カテゴリー4じゃ筆頭狩人の敵じゃないか……」

「へえ本当に生きてるなんてね。ずいぶん長いこと放置してたんでしょう?」

「5年、いえもう6年になりますね。生きてるとは思ってましたけど、いざ本当に元気に出て来られると焦ります」

「見て見て、本当に再生してる」


 エレナは楽しそうに足元に散らばった肉塊を指差す。


「ぐ、ぅう! い、いったい何が──」


 緒方が頭部と体をくっつけ思考力を回復させた瞬間、エレナはスパパパッ!っと物凄い剣裁きで短剣を乱舞させ、緒方を切り刻んでしまった。 圧倒的リスキルだ。


「再生速度は速いね。本当にね。吸血鬼並みかな。吸魂状態の人狼の標準的な個体より速いのは確定的だよ」

「ウッ! な、なにが起こって──」


 スパパパ。

 またしても細切れにされる緒方さん。 

 ああ、なんて残酷な世の中なんだ。

 あれほど苦労して封印した緒方がこうも封殺されるなんて。


「本当に死なないんだね。銀を試してみようかな」


 言ってエレナは短剣をぶんっと払う。

 血の刃がばしゃっと液体になって斬り払われ、銀色の刀身が現れた。

 今度は銀の刀身で緒方をザクザク。

 

 俺とアンナはそのさまを少し離れたところで傍観していた。

 あまりにも圧倒的すぎるリスキルに身の危険はまったく感じなかった。


「心臓の破壊でも特に効果はなし。銀の効果も認められない。頭部への攻撃が一番有効かな? どうやら吸血鬼と違って心臓に刻まれた本能じゃなくて、脳みそで思考した理性が超常的なパワーを生み出してるらしいね。あっでも、再生止まったよ? どういうことかな。アーカムくん、この生物に関することを教えてくれるかな?」


 エレナの足元でリスキルされすぎた緒方がでろでろになっている。

 肉塊は胎動しているので生きてはいるが、架空機関がオーバーヒートしたせいでしばらく肉体の再生はできないだろう。

 

 俺はエレナに超能力者に関して知っていることを話した。

 彼らが備えている標準的なパワーレベル、超能力、また固有の能力など──俺の知る限り可能だと思われるもの──を教えた。


「その超能力者の名前は緒方っていいます」

「個体名:オガタ、だね」

「パイロキネシスは強力な火炎の超能力です。緒方が得意とする能力なので気をつけて」

「ふむふむ」

「サイコキネシスは不可視の念動力とでもいいましょうか。掴まれたら自力で脱出するのはかなり難しいと思います」


 エレナが油断しないように細心の注意をうながす。

 

「だいたいわかったよ。それじゃあもう行っていいよ」

「どういう意味ですか」

「そのまんまだよね。本当にね」

「いや、行っていいよって……緒方を封印しないと」

「あーいいよいいよ、まだ。経験上さ完全なる不死身の生物なんていないと思ってるんだ、私ね。だからまだ信じてない。だから満足するまで確かめさせてもらうよ。ほかにもどんだけ戦闘力があるのか見てみたいしね。本当にね」


 言ってエレナは緒方の肉塊をまた攻撃する。


「さっきの缶詰と水をあとで持って来てよ、あれがあれば仕事ができそうだからね」


 俺たちはエレナを信じてその場をあとにした。

 缶詰と水……?

 あの人、いったいどれだけリスキルを続けるつもりなんだ?

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