反撃開始
アンナとキサラギを連れて宿屋地下隠れ家に戻る。
ヘンリックの姿はなく、かわりに謎の梟がいた。カラフルな見た目で南国の島とかにいそうな刺激色の梟である。
「エフィーリア王女殿下、戻りました」
「まあ! アーカムの仲間たちですね!」
フクロウに関しては何の説明もない。
ごく自然とホーホーっと鳴いている。
なんですそれ。
「私はアンナ・エースカロリです。王女殿下のために剣を握ること誠光栄に思います」
アンナさん普段の素行の悪さをまるで思わせないお淑やかな笑みを浮かべてます。これが貴族。完全なる猫被り。王女様、この子の本性はもっと凶暴です。騙されちゃだめですよ。
次にキサラギも自己紹介。
「キサラギです。お兄様の妹です。よろしくお願いします。レボリューション!」
「変わったお方ですね。ん、でもおかしいですよ? アーカムの妹さんたちは……」
「こほん。いろいろ複雑なんです。キサラギとの関係性については一旦忘れてください。ただ妹なのは本当なので、まあ、強力だけどミステリアスな助っ人くらいに思っていただければと」
「アーカムがそう言うのなら……」
納得してくれるんかい。
自分で言うのもアレだけどこんな怪しい子ほかにいませんよ。
「レボリューションです。キサラギはレボリューションを起こします」
「はいはい、キサラギちゃん、今はレボリューションされてる側だからね。ちょっと静かにね」
「では、アーカム、そちらのお二人を連れて移動しましょう」
「移動ですか」
エフィーリアは梟を腕に乗せ「ええ」とうなづく。
「騎士団本部に残っていた騎士と訓練兵合わせて170名をいまヘンリックが集めている最中です。じきに反撃の体制は整うでしょう」
「170名ですか……相手は1,041名、数的アドバンテージではかなり見劣りしますね」
「どうして敵勢力が1,041名だとわかるのですか?」
「……勘です」
ボロが出た裏切り者が下手くそな言い訳してるみたいになっちゃった。
「流石はアーカムです。敵戦力を知ることができれば、作戦もたてやすいでしょう。ヘンリックが喜びます」
王女殿下、本当にそれでいいんですか。
俺、現状クソ怪しい野郎ですけど。
騎士団本部へ赴けば、ヘンリックが騎士たちの編成を終えたらしく、5人小隊全34小隊が出来上がっていた。
「流石はアーカム様、明晰な推理能力で数少ない情報から敵勢力を割り出すとは。皆、聞いたか、反逆者は1,041名だ! 決して逃すな!」
ヘンリック君、それでいいんですか。
俺のこと過大評価しすぎなのではないですか。
「皆の者、お聞きなさい!」
エフィーリアは勇ましく戦士たちを鼓舞し、指導者にふさわしい立派な演説でこれから王城を取り戻そうと言う彼らを励ます。
王城周辺住民は事態を知らされ、ゆっくりと避難を始めている。
敵も市民の虐殺が目的ではないので、殺される心配こそないが戦闘に巻き込まれる可能性は常にあるからだ。特に魔法の撃ち合いになれば流れ弾甚大な被害をもたらす。
「騎士団本部の勢力を制圧できれば王都内の全反抗勢力を制圧されることになります! それは我々の負けを意味します! あなた方こそが王都防衛の要なのです! どうか魔法王国のためにその剣を捧げてください!」
演説が終わり騎士たちは高らかに応じた。
エフィーリア。なんだかんだ文句をつけられることの多い王女様というイメージであるが、思ったよりずっと人望ありそうである。
「酷いもんだね。こっちは訓練兵140名込みの170名編成だって言うのに、相手は十傑率いる騎士団本体なんだから。こんな雑兵意味ないよ」
「そうでもないです。むしろ一番重要かも」
「どういうこと?」
アンナはエフィーリアの背後でピンっと背筋を張って倣いながら、隣の俺へ訊いてきた。
戦力的には並の騎士なぞ10人、20人いようが俺やアンナの敵ではないと思う。それどころか屋内戦で数人がかりで掛かってくるならば、俺は魔力が尽きるまでウィンダで気絶させつづけることはさほど難しくない。
アンナも同様で彼女の剣気圧を攻略できなければ、有象無象がどれほど束になっても敵いはしないだろう。
ゆえに訓練兵は一見不要なように思える。
が、彼らには数的制圧能力と制圧エリア維持能力がある。一度奪取した城を維持するには俺やアンナだけではシンプルに数が足りない。
ゆえにこの戦いは俺たちがいかに敵を迅速に殲滅し、獲得したエリアに訓練兵を含んだ170名を配置できるかという電撃戦になる。
「彼こそは『三重属性詠唱者』にして『ウィザード』、『無詠唱魔術師』アーカム・アルドレアですわ! わたくしの自慢の友であり、稀代の大天才魔術師!」
「ん?」
考えふけっていたら、エフィーリアに凄い感じで紹介されてた。騎士たちから「おぉぉ!」と感嘆の声があがっている。
「三重属性だと……? 人間のやっていい魔術領域じゃないだろ……」
「いやいや、それよりも無詠唱って言ったぞ? どういうことだよ?」
「不可能だ。なんで一般魔術法則を操るのに詠唱しない」
「しかもなんだあの若さ、まだ子供じゃないか」
「ウィザードの勲章まで受けているとは、それほどの実績も持っているのか」
なんともむず痒い思いだ。
三重属性は生まれつきだし、みんなが思ってるほど俺は若くないし、ウィザードの勲章もわりと成り行きで手に入れたものである。
詳しく経緯を話せば、きっと失望されるこの感じね。微妙に嘘ついてるというか。いや、嘘はついてないんだけどね。
そこまで頑張って手に入れてないから、後ろめたい称号ばかりというかね。
でも、時にはわかりやすい肩書きが人を勇気付けることもあるか。
「僕にお任せください。なにも心配は入りません」
言って俺は火と水と風の魔力を混合させた魔力塊を出現させた。
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