2人なら



「アーカムどうすればいい?」

「どうしますかね」


『とりあえず殴ってみればいいじゃないか、アーカムッ!』

 

(超直観くんがこう言ってるのでまあ殴ってみますか)


 アーカムはアンナの顔をちらりと見て「攻撃あるのみです」とつぶやいた。

 アンナはうなづく「2人なら何とでもなるよ」表情には強い信頼が宿っている。


「なにをこそこそと──」


 荒垣が肩をすくめて、余裕ぶってそう言おうとした瞬間、アンナは駆けだしていた。

 同時にアーカムは《イルト・ポーラー》の詠唱を開始した。


 アンナは素早く斬りこむ。

 サイコウィップが迎撃せんと襲い掛かる。

 斬り返し、なお突撃するアンナ。

 

 荒垣は眉根をひそめる。


(ダブルのせいで、ストレージの圧迫が続いてる。脳も熱くなってきた……慣れないクリオキネシスは、氷魔術で攻撃された際の防御に使うことしかできない……コストの計算を厳密にした方がいいね──ただ、とにかく今はダブルとサイコウィップで伊介天成本体アンナを無力化するのみに思考を割くべきだね)


 2人の荒垣は優先順に敵を片付けることにした。

 それぞれがサイコウィップを展開し、4つの変幻自在の鞭で攻撃をはじめる。


 アンナは短く息を吐き、集中力を高める。さあ勝負だ。

 一撃、二撃、火花を散らし、カトレアの祝福で迎撃した。

 先ほどよりもはるかに洗練された、正確無比かつ、キレのある剣裁きだ。

 

 天才アンナ・エースカロリは、攻撃を見るたびに、敵へ適切にアジャストすることができるのだ。

 しかし、いま相手しているのは遥かなる超越者だ。

 サイコウィップの三撃目で足がとまり、四撃目で体勢がくずされてしまった。

 この間、1秒にも満たない。


「チッ」


 顔をしかめるアンナ。

 1人の時でさえ、接近が精一杯だったアンナにとって、ダブルの荒垣は手に余る敵であった。


 だが、アンナが大勢を崩すと同時に、アーカムの高速詠唱も完了する。


「白の星よ、氷雪の力をここに

  あまねく神秘を、聖獣の御手へ還せ

   彼が目を覚まさぬうちに、世界を零へ導きたまへ

    ──《イルト・ポーラー》」


 放たれる氷雪の輝線。 

 光を乱反射し、まばゆい奔流がダブル荒垣を襲う。


「二度も同じ手を喰らうものか」


 荒垣の片方はニヤリと笑い、片割れが一歩前へでて、手をかざす。


(やつの氷の放射に対して、サイコキネシスでの受けはコストパフォーマンスが悪い。同時に低温によるマナニウムの運動力の低下が、念力層の著しい弱化を引き起こす。だからサイコキネシスではいけない。となると、やはり、クリオキネシスしかあるまい)


「砕けろ──クリオキネシス」


 アーカムの放った《イルト・ポーラー》は、飛翔するさなか、もつれるようにエネルギーを分散させてしまった。


 アーカムは思う「どうやら本当にパワーで行くしかないみたいだ」──と。


 そこからのアーカムは弾幕係に徹することにした。


(《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》《ウィンダ》)


『《ウィンダ》《ウィンダ》ッ!』


(超直観くんッ?!)


 どうやらアーカムの超直観が詠唱した分も、ちゃんと魔術を撃てるらしく、アーカムの連射速度は秒間8発にも及ぶようになっていた。直観とは。


「っ、なんて連射速度だ……」


 荒垣はちょっと気圧されることになった。

 体勢を崩していたアンナはその隙に持ち直す。

 相棒の弾幕を背負って突進する彼女の瞳には、不機嫌と赤い血の香りが漂っていた。

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