サイコウィップ


 老人が展開した奇怪な武器を、アンナは観察する。

 念動力を束ね、半ば物質化したそれには、反射の能力が付与されている。

 そのため──


「はっ!」


 サイコウィップが遺跡を舐めるように放たれた。

 鞭が触れた地面も壁も、砂塵と化してしまっている。


 そのため──鞭は触れたら最後の致命的破壊力を持っていた。


 アンナは身をひねって鞭をかわす。

 鎧圧にふれれば、削り取られ、亀裂が入る。


(まるで絶滅指導者の赫糸)


 狭い通路なのに、意のままに鞭を操る姿はどこか達人めいている。

 

 アンナはキリっと眉根をほそめ、全身の圧を増幅させた。

 圧に呼応して、涼しげな剣がなお一層水色に輝く。

 駆けだすアンナ。


「遅いよ、そんなじゃあ簡単に捕まえられるよ」


 サイコウィップがぐわんっと曲がり、その先端でアンナの首を刎ね飛ばしにかかる。鞭というより、触手と形容した方が機動力は納得できる。


 獲った。

 老人は確信した。

 アンナは確信を裏切るように、剣で斬り返す。


(馬鹿なことを、斬れるわけがない。斬れば剣なぞ粉々になってしますだろう)


 だが、結果として、カトレアの剣はサイコウィップを跳ね返すことに成功していた。


「っ」

「ちょっと良い剣なんだ、ふふん」

「小癪だよ、伊介天成、そんなのサイコウィップの出力をあげれば簡単にねじふせられる」


(出力解放、80%。もう省エネを意識しない。これでいいい)


「はっ!!」


 くねり、波打ち、曲線を描いて、黒紫の輝線がホーミングしてくる。

 アンナはそれを斬った。

 たやすく斬り飛ばした。

 念動力が本体から切り離されて、マナニウムが霧散して世界に還っていく。


「ありえないッ! なんでだね! 物理学を否定するつもりか!」


(わっちの反射設定は、運動エネルギーの暴発を引き起こす。どんな物質だろうと、これに対抗できるものはない。それこそ、サイコキネシスの物理超越の装甲でもないかぎり。だが、伊介天成はサイコキネシスを使ってはいない──)


「っ、いいや、違う。代替品か。そうか……そういうことだったのか」


 老人はひとつの解答を得た。


 一方、その時にはすでにアンナを剣の間合いに近づけさせてしまっていた。

 振りぬかれる剣。

 老人はサイコアーマーで防御する。

 カテゴリー5の神の盾は堅牢だ。

 しかし、アンナの剣をしのげるほどではなかった。

 剣が老人の肩に到達。鮮血があふれだす。

 老人は驚愕しながらも念力で体を押し出して、背後へ緊急回避。

 剣をめいいっぱい振り抜くアンナ。

 腕が宙を舞う。血が尾をひって、弧を描いた。


「わっちのサイコアーマーを……100%でガードしたはずなのに……」


 アンナは剣を斬り払い、血糊を落とす。

 血糊は結晶化しており、バキパキと音を立てて砕け、はらはらと落ちていく。

 そのさまはさながら、赤い氷の結晶のようで、不気味な美しさをもっていた。


(伊介天成め……超能力以外の異世界産の戦術を身に着けているな。魔術に対して、こっちは剣術といったところかい? わっちの反射に対抗したのは、おそらくサイコキネシスの代替品となりえる、オーラのようなもの……目を凝らせば、たしかに、なにか不思議な気を纏っているのがわかるね……それにあの剣……)


「冷たい……なんということだ。まさか原子と運動の概念を使われてしまうとは」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る