大祭壇の修業
超能力者は聖獣フェンロレン・カトレアを支配するため、黒い巨人を連れてこの都市へやってきた。
同時に黒い巨人たちの包囲でもって、副次的な効果としてアーカムとアンナを都市に閉じ込めた。これはそのほか大勢のクリスト・カトレア市民たちにとっても大変に迷惑な話だ。
(超能力者の目的を挫く、同時にやつらが敵にまわした都市国家勢力と共闘し、あの老人を討つ。黒い巨人たちに聖獣が見つかると、どうやら王家だけが持っている聖獣との繋がりを奪われるらしい。そうなると、銀行に預けた超能力者2人のこともあの老人に知られかねない)
アーカムは書庫の机に肘をついて、ひとり思案にふけっていた。
急な邂逅から戦闘状態へ移行してしまった。
それゆえに俯瞰して現状を見直していたのだ。
(超能力者がナニを味方につけたかは知らないが、こっちだって聖獣の加護を得た。大丈夫。勝てるはずだ。アンナだって、カイロさんだっている)
「アーカム、準備ができたわん」
書庫に入って来たカイロの声で、アーカムはすぐに腰をあげた。
そのまま、白い異空間へともどってくる。
聖獣のいる大祭壇だ。
ここへ戻ってきたのには理由がある。
「この異空間は神秘のチカラに満ちている。ここでなら魔力の回復を早めることができる。おおよそ10倍~20倍の早さと言ったところだ。その分、精神への負担が大きいからくれぐれも無理はするな……。わん」
「ありがとうございます、カイロさん」
アーカムは祭壇の前に置かれたカーペットにあぐらをかいて座る。
カーペットには魔法陣が掛かれている。特別な染料で描かれたそれは古く、それゆえに貴重なものだ。
魔道具の類であることは自明である。
「この魔道具のうえに乗っていれば、長時間この空間にいても、修行者の精神の安定が保たれだろう。わん」
「なるほど、便利なものですね」
「古い時代に王族が修行に使った魔道具だ。我はもう行く。くれぐれも、無理はするなわん」
「わかってます。心配性なんですね、カイロさんは」
「開拓者との戦いの前に、同盟者が使い者にならなくなっては敵わないだけわん」
そう言って、そっけなくカイロは異空間の外へ行ってしまう。
アーカムはまず寒さをなんとかする為祭壇前に焚き火を起こした。
薪はたくさん持って来てある。
数冊の魔導書を手の届く範囲に積み、毛布を肩からかけて、熟読していく。
焚き火の灯りがたまに揺れる。
暖かい炎に浮かぶ文字を必死に追いかけた。
日々成長する超直観と、魔力の流れを完全に視認できる夜空の瞳をもったアーカムは、そこに書かれている知識の全てを、感覚的に、かつ論理的に高い領域で理解していった。
すぐに氷の神秘のイロハを自分の物に変えることが今のアーカムには可能となっていた。
「白の星よ、氷雪の力をここに
あまねく神秘を、聖獣の御手へ還せ
彼が目を覚まさぬうちに、
世界を零へ導きたまへ
──《イルト・ポーラー》」
周囲の空気がキラキラと輝き、淡い光を反射する。
パキパキと音を鳴らして、気体が凍って、氷の礫が生み出される。
アーカムはこの日、『氷の三式魔術師』となった。
「思ったより早く終わった」
アーカムは魔導書パタンっと閉じて、巨人を見上げる。
巨人──フェンロレン・カトレアはなにも語らず、じーっとアーカムを見つめてきている。
「大丈夫です。僕がやつらを倒します」
『……』
「そうだ、代わりにひとつ取引をしませんか。あなたの力で僕の魔力を95%くらい天引きしてる存在に口添えしてくれませんか。徳政令出してもいいんじゃないかって」
『……』
「無視ですか」
(声が聞こえているかも怪しいところだな……)
アーカムはそう言って、魔力の回復に専念するべく、ころんっと横になり毛布にくるまり、焚き火へ薪をくべて、眠りについた。
アーカムの身体に膨大な魔力が戻って来るのは、目覚めたあとの話だ。
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