超能力者化:Hyper Mode


 平穏とゲンゼを失ってからの時間は超能力者化の試行錯誤とともにあった。



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 新暦3054年 春一月


 いっこうにハイパーモードを操れるようにならない。

 エーラは最近俺に冷たくなってきた気がする。

 なんというか言う事を聞いてくれない。

 気のせいだろうか。

 

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 新暦3054年 春二月


 進展なし。

 そもそもなぜ肉体が伊介天成ではないのに超能力を使えるのだろうか。

 トレーニングとともに理由も考える日々がはじまった。


 アディが無事帰って来た。

 ちゃんと三式の属性式魔術の本を抱えていた。

 魔術の勉強も並行して進めて行こうと思う。

 

 魔法魔術大学は10歳から入学できるらしい。

 王都まで赴いてくれていたらしく、学校にも行って来たようだ。

 アディの母校なので、学生時代の恩師に挨拶したとかでなんだか嬉しそうだった。

 ちなまに、その恩師に「天才がレトレシアにやってきますよ」と宣戦布告をしたとか。

 恥ずかしいから本当にやめて欲しい。



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 新暦3054年 春三月


 部屋でゲンゼの手紙を読み返していた。

 別になにか発見があるわけじゃない。

 なんとなくだ。


 彼女がいなくなってから4カ月が経とうとしている。

 あの怒涛の出来事がはるか昔のことのようだ。


 だが、俺が異世界転移船に行くたびに、あれが夢などではなかったのだと何度でも思い出させてくる。



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 新暦3054年 夏二月


 やっぱり、エーラが俺の言う事を聞いてくれなくなった。

 なにをお願いしても「やだっ!」と言ってそっぽを向かれる。

 数カ月前から兆候はあったが、最近は本当にひどい。


 ハイパーモードの掌握は上手くいかない。

 魔力がもったいない。

 ハイパーモードのトレーニングのせいで、本来練習できるはずの三式魔術の訓練がおろそかになっている。

 これでは本末転倒だ。

 超能力のコントロールを諦めるべきだろうか?



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 新暦3055年 冬二月


 ゲンゼが姿を消して1年が経過する。

 俺は8歳になり、彼女との記憶はもはや過去の出来事としか認識できなくなりつつある。


 君の勝ちかもしれない。

 俺はきっと何もかも忘れてしまう。

 それがたまらず恐ろしい。



 ───



 新暦3055年 春二月



 ハイパーモードの習得を諦めた。

 魔力の無駄遣いだ。

 

 今朝、アリスがエーラを叩いていた。

 やだやだ言うのが気に食わないらしい。

 「お兄さまに失礼でしょ!」「やだやだ!」

 ずっとそんなやりとりが続いている。

 エーラがお姉ちゃんなのに、すっかりおかしな関係性になってきてる。


 アディの論文は魔術協会で高い評価を受けたらしい。

 近いうちに魔術協会の本部のある隣国アーケストレス魔術王国の学会にでるようだ。

 我が父が順調そうでなによりである。

 

 

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 新暦3056年 冬一月


 俺は9歳になった。

 時々、ゲンゼの手紙を読み返す。

 彼女はいまどこにいるのだろうか。

 それを知ってどうするのだろうか。

 彼女は俺を拒絶しているというのに。

 未練がましいことだ。

 

 

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 新暦3056年 冬二月


 三式魔術を火属性、水属性、風属性で習得した。

 アディに報告したらめっちゃ誇らしげに「流石は俺の息子だ」と頭を撫でられた。

 『風と水と火の三式魔術師』を名乗れるようになった。

 

 エーラが俺に仲良くしてくれるようになった。

 のちに知ったのだが、やだやだ季なるものが子どもにはあるらしい。

 俺はやだやだ季の犠牲者になっていたようだ。

 最近はアリスとの姉妹喧嘩もしてない気がする。

 エヴァの心労も無くなりつつあるようだ。


 魔術の勉強がひと段落着いたので、新しい力を求めて剣術に手を出してみた。

 エヴァはクルクマの騎士貴族当主だ。

 はじめて知ったのだが、狩人流かりうど剣術三段のめちゃくちゃ強い剣士らしい。

 

 剣術は初段にはじまり、二段、三段、四段、五段とつづく。

 そして、六段にて剣の究極にたどり着く。


 すると、エヴァは三式の魔術師とおなじくらい尊敬されるえげつない実力者なのではないだろうか?


 俺は恵まれている。

 今日からエヴァに剣を教えてもらうことにしよう。



 ───

 

 

 新暦3056年 春一月


 エヴァが泣きながらアディに抱き着いた。

 俺は「稀代の天才剣士だわっ!! アークは世界最高の天才よ!!」と絶賛されるくらい剣のセンスがあるらしい。


 俺はすでに狩人流の初段をもらっている。

 だいたい2か月。80日程度で習得した。

 だが、本来は段位獲得には3年の修業が必要とされている。


 おかしい。

 何かがおかしい。

 流石に俺天才すぎる。

 俺の才能にはなにか理由があると考えるべき段階だろう。

 

 原因を調べる必要がある。



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 新暦3056年 春二月


 俺は剣術の理を知るとともに、ある感覚に目覚めていた。

 自分の感情をコントロールする方法と言うべきだろうか。


 剣での超近接戦に身を投じると、恐怖をコントロールする必要が出てくる。

 それゆえの気づきだ。


 もしかしたら、ハイパーモードを御することができるかもしれない。



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 新暦3056年 秋三月


 年末の風のなか、俺は狩人流剣術二段を取得した。

 同時にハイパーモードの制御にもはじめて成功した。


 剣術の精神洗練こそが暴走する破壊衝動を操るカギだったのだ。

 

 

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 新暦3057年 冬一月


 10歳になった。

 日々、ハイパーモードの制御の練習をしている。

 現状、フィンガースナップによるサイコキネシス発動は全体魔力量の20%を勝手に放出する程度まで抑えることができた。


 だが、ハイパーモードの真価はサイコキネシスにはない。


 ・自分の体を念動力で覆うことによる絶対防御力

 ・体内に念動力を流し疑似筋肉を作り出すことで得られる驚異的身体能力。


 簡単に言えば、無双状態だ。

 あの状態になればもはや何にも負ける気がしない。


 俺は超能力を完全に支配した。

 長い戦いはここに終結を迎えたのだ。

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