第70話 仲が良すぎる件
旅行2日目、示し合わせた訳でもないのに相変わらず早起きした私たちは、30分ほど宿の近くの海岸沿いを散歩してから朝食へと向かった。
朝食はバイキングだが、周りの宿泊客が驚く程の量を食べた。さすがに制服では目立ってしまうので全員で高校のジャージを着ていた。そのため周りから見れば、部活動で遠征してきた、朝からよく食べる女子高生だったに違いない。
朝食で満腹になった私たちは、8時半にはチェックアウトして今日の目的地へと向かった。
今日は水族館を楽しんでから海鮮料理を食べて、昼過ぎには帰路に就く。まさに海沿いの街ならではのプランだ。
思えば、何度もこの5人で一緒に水族館に行っている。私の好きな魚はやっぱりカクレクマノミだし、イルカショーは相変わらず濡らされてしまう。大水槽は、まるで海の中を覗いているようで幻想的だ。
私たちはその生命のひとつひとつを思う存分観察した。
それだけに、その後に食べる海鮮料理は若干罪の意識を覚える。海鮮料理と言えばやはり海鮮丼は外せない。中学校の修学旅行で食べたものを思い出すような値段とボリュームの海鮮丼をみんなで囲んだ。
ランチが終わり、バスで15分ほどの駅までわざわざ歩いてから帰路に就いた。
短めだったが、誰にも頼らず私たちだけで巡った大冒険だった。帰りの特急では撮った写真の数々を見返した。どの写真に映る顔も笑顔だった。
駅に着いたが、迅速なプランのおかげでまだ随分と早い時間だった。私たちは迷わず駅ビル内へショッピングに行って旅の続きを楽しんだ。そこで、中二から愛用して年季の入っていたマフラーを友人が新しく選んでくれた。
本来春が近づく頃はマフラーなどしなかった。男の子だった頃の暑がりが少し残っていた影響があったが、その暑がりもいつの日からかなくなっていた気がする。
またまた色は白で変わらないが、素材が軽くて薄手なのに暖かい、機能性と美しさを両立したマフラーを手に入れた。
そうこうして遊んでいる間に夕方になり、私たちは地下にある焼肉の食べ放題へと向かった。お互いに長旅を労い、烏龍茶で乾杯したあとは店員さんも驚くペースで各々好きなように肉を口に運んだ。
こんな楽しい旅の終わった明日も休みだと思うだけで気が楽だったのに、友人の1人がもうすぐ模試だし頑張らなきゃねと不意に発言した。そう、2週間後に模試が迫っている、それは事実だ。
でも今はそんなことを思い出したくなかったので、それ今言わないでよーと、友人の髪をぐしゃぐしゃにしながら笑顔でクレームをつけた。それを受けてあーごめんごめんと謝る友人も笑顔だ。
女子高生らしからぬ量を食べきった私たちはようやく家に帰る電車に乗った。家に連絡はしたが、この晩御飯ははっきり言って予定外だったのだ。だがそれだけに一層楽しかった。
翌日、友人とのジョギングの約束があるので準備をしていると、ホテルからなにやら荷物が届いた。少し重いダンボールの中にはセーラー服が5着入っていた。私たちは布団の中にセーラー服を忘れてきていたらしい。
すぐさま友人に連絡を入れ、1軒ずつ友人宅を回って袋に包装された紺の塊を届けた。
揃いも揃って同じ忘れ物をする、私たちは仲がよすぎるのではないか。
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