第69話 可愛い子には旅を

今日は金曜日だというのに学校が休みだ。別に祝日でもなんでもない。正確に言うなら近辺の私立高校はどこも休み。

そう、私立高校一般入試の日なのだ。私たちの高校は元より人数が多いがゆえ、受験者もかなり多い。並行して授業できるほどの教室もなければ教員の人手も足りないのだ。この日は部活動すら行われないようだ。

加えて普段なら授業のある土曜日も、採点のために休みになる。

この休日を最大限に生かして、私たちは旅に出た。


早朝、入試に向かう中学生の波が起きる前に特急列車に乗って遠くへ出かけた。最初は母に付き添ってもらう予定だったが、高校生なんだし自分達だけで行ってきなさいと言われたことから1泊2日の5人だけでの旅になった。当然リスクがあったので、私たちは行きたいところやそこが空いている時間、料金などを全て調べ尽くした。

今回乗った特急列車は座席の自由度が高く、新幹線のように快適に過ごすことができた。


特急列車を降り、私たちはまずテーマパークへ向かった。ここは海外のような街並みを楽しむタイプのテーマパークだ。

ゲートをくぐってから少し歩くだけで異世界のような感じがした。

とにかく綺麗な花畑がたくさんあり、その花たちに癒されている私たちがいた。普段この時間は必死に机に向かっているのだ。だから今日は勉強なんて全て忘れ去って楽しみたい。


遊べる施設もあるので、私たちは真っ先にお化け屋敷へと向かった。

私は怖いものが平気なため当然のように先頭になった。みんなで前の人の肩を掴んで列で回った。ところどころに脅かす仕掛けがあり、びっくりはするが平気で余裕を持って進んだ。

5分ほど進んだだろうか、出口のマークが出てきたので私はそれを目掛けて歩き出した。

とその時、頭上から急に生首が降ってきて私の目の前に現れた。これにはさすがの私もかなり驚いて、悲鳴をあげながら出口へと走った。勢いがよすぎたせいか、私の肩に置いてあった友人の手は外れており、2秒後くらいにみんなが出てきた。

平気って言ったくせに一番叫んでたじゃん、と笑いながらからかわれたが、あれは予想外だったよ、と苦笑いしながら答えた。


お化け屋敷を出て、またまたオシャレな街を歩いた。運河沿いのカフェに入り、お昼ご飯のハンバーガーを食べ、豪華にメロンフロートまで付けた。

お店まで本物の異国のような造りで本当にオシャレだったので、そこで食べるランチは新鮮で何倍も美味しかった。

それからステージショーにも行った。オーケストラやオペラ歌手、ダンサーやサーカスが入れ代わり立ち代わり、1時間もの愉快なショーだった。


夢のような時間もあっという間に夕方になり、私たちは最後のお土産屋さんで買い物してからテーマパークをあとにした。

バスに30分ほど揺られて、ホテルへと到達した。

広めの部屋に入り、歩き疲れた体を癒してからまずは大浴場に向かった。


今回私は、初めてみんなと大浴場に行く。

脱衣所では、みんな私の身体に注目していた。まだ若干手術痕はあるが、完全に除去された上に綺麗に女の子の身体が出来上がっていてみんな驚いていた。

初めての女湯、一瞬入口で立ち止まりそうになった私の手を友人が引いてくれた。迎えてくれたようで嬉しかった。

中には本当に女の人しかいない。今まで大浴場では、胸もくびれも長い髪もある身体で男性に囲まれていたのだ。

女湯は本当に安心する。そう思うようになるなんて、私もすっかり女の子になっちゃったなと考えていると、友人みんなが体を洗い終わって立ち上がろうとしていた。

待ってーと言い、慌てて体を洗ってみんなに混ざった。


露天風呂に5人並んで、綺麗な冬の夜空を見上げながら去年の話になった。ちょうど1年前の今頃、私たちは解答用紙とにらめっこしていたのだ。あの時は本当にこんな運命で結ばれるとは思っていなかった。女子校への思いも、公立高校への未練も、みんなとのハードで楽しい高校生活のおかげでさっぱり無くなった。

ぼーっとしていると、上から滝のようにお湯が降ってきた。やったなーと笑いながら、イタズラしてきた友人に倍以上のお湯をかけ返してみた。


昼間の異国のような空間でのランチから一転、和風の食事処で美味しい和食を食べた。私は湯葉がお気に入りだった。

野菜が多く健康的な一方、ちゃんと肉やスープもあり、全員米粒1粒もスープ一滴も残さないで完食した。

食事中も受験生期間を懐かしむ話が絶えなかった。それもそのはず、今まさにみんなで中学校のセーラー服を着ている。相変わらずセーラー服に取り憑かれている私たちは、わざわざパジャマ代わりに持ってきていた。大浴場からずっとこの格好だ。この服を見て受験期の話にならないわけがない。

1年前の今頃、共に戦っていた可愛い可愛い戦闘服を、今はこうしてコスプレのように着て遊んでいると思うと面白い。もちろん食事中なので、スカーフは折りたたんでポケットに差している。

心做しか、たまに塾で食べていた晩御飯のような感覚になった。


食後はまず売店を散策した。この格好のせいで明らかに視線を集めていた気がしたが、気にせずにお土産と今から食べるスナックを買い漁った。

部屋に戻り、変わらずセーラー服のままゲームとお菓子で夜を楽しみ、疲れた頃にその格好のまま就寝した。


決してパジャマにはなり得ない大好きな洋服での眠りは気持ちの良いものだった。

翌朝7時には5人のセーラー服の女の子がほぼ同時に目を覚ました。やはり、高校生活の早起き癖は旅でも抜けていなかった。

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