第68話 大雪

年が明けてからはひたすら寒い日々が続いた。そんな中でも防寒に務めながらの自転車通学を毎日欠かさずに続けていた。

ストッキングは厚手、ブレザーの中にはセーターを着て、下着にも暖かいインナーを着る。通学中は手袋とマフラーも忘れずに装着した。


そんなある日、大寒波が押し寄せた。ただ寒いだけなら良かったが、この寒波は積もるレベルの雪を降らせた。私たちの住む地域は滅多に雪が積もらないので、少し積もるだけでも大雪というレベルになる。

家の窓から見える白い路面を見渡しながら学校があるのかどうか確認したが、どうやら休みにはならないようなのでいつも通りに準備した。

母には止められたが、こんな日でも自転車通学を押し通した。いつもの集合場所にはやはりと言うべきか全員揃っていた。

白い道をゆく車がチェーンを装着し、そうではない車が何台かスリップしている。そんな中をノーマルタイヤの自転車で走り抜け、なんとか学校に到達した。


学校に着くと、授業前だというのに私たちを含めて10人もいなかった。ほとんどの生徒が遅れを繰り返す電車に翻弄されて間に合わなかったようだ。

それどころか、私たちが出たあとに今日は休んでも欠席にしないという決定がなされたのだった。その結果行くのをやめて家に引き返した生徒が多数いたようだ。

そんな中でも授業は驚くほどいつも通りに行われた。噂では誰も生徒が来ていないクラスもあったらしいが。

3限目は先生が到着していなかったことから自習と宣言された。しかしこの自習時間、普段勉強漬けの私たちに対する担任の粋な計らいにより、隣のクラスも巻き込んで外で遊ぶことになった。


さすがに誰か1人は教室に残るだろうと思っていたが、意外にも全員がノリノリで外にやってきた。もちろんやることは1つしかない。数センチ積もった雪を丸めて投げつける、雪合戦だ。制服が汚れることなんて何も気にせず、丸めた雪を同じクラスの男子や友人目掛けて投げつけた。私たちはきっと高校生とは思えないほどはしゃいでいたはずだ。

辺りの雪も無くなって少し早めに撤退すると、担任の先生が見計らったかのように自販機で待っていた。1人1本ホットドリンクを買ってくれたのだ。私の悴んだ手と、寒さに耐えしのいだ身体は温かい紅茶によって癒された。だがドリンクよりも暖かかったのは担任の先生の優しさだった。

担任の先生は、今日来てくれたご褒美だよと微笑みながら、自販機に次から次へとお札を投入していた。


4限目からは授業が行なわれた。今日に限っては少人数なこともあり、授業はサクサク進みながら細かい質問もできた。

なんだかんだで昼休みになったが、いつもの学食ダッシュの足音がほとんど聞こえなかった。どれだけ多くの生徒が休んでいたかを改めて思い知ったのだった。

こんなイレギュラーな日もあっという間に過ぎ去った。授業が終わる頃には白銀の世界はほとんど姿を消し、黒い氷ばかりが残っていた。そんな明らかに滑りやすい道を、私たちは自転車で突き進んだ。

まさかの一日だったし、クラスメイトが少なかったのは寂しかったが、本当に楽しい1日だった。家に帰りついてからは雪で汚れたスカートとブレザーを、母に見つからぬようにこっそり手洗いした。


明日も雪降っていいよ。そう空に願ってみたが、次の日は快晴でいつも通りの生活に戻っていた。やはりクラスメイトが揃う教室は楽しかった。

それでも、また雪積もらないかなと、心のどこかで期待している。

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