第58話 セーラー服の日

眠気が解決した金曜日に、明日久しぶりにセーラー服でお出かけしようと友人が提案してくれた。午前中の学校が終わってから、電車でそのまま都心へと向かう。

翌日はいつもと違い、自転車で向かった先は私たちの地域の最寄り駅だった。本当はスクールバッグを持っていかなければならないが、この日は何とか誤魔化してリュックだけで通学した。

午前中の授業が終わると足早に学校の最寄り駅へ向かい、広めのトイレで着替えた。茶色のローファーは合わないので、わざわざ中学生っぽい白基調のスニーカーに履き替えまでした。

セーラー服が5人揃ったところで、電車で都心の駅を目指した。やはり高校の制服よりも多く視線を集めている気がする。セーラー服とはそういう洋服なのだろうか。

電車で同じクラスの友人達に会うと、懐かしい、私も今度着て遊びに行こ、と目を輝かせていた。


いわゆる駅ビルが豪華な駅に着いた。市内でも最大の規模を誇るこの駅ビルでは1日遊ぶことができる。私たちはこれまで何度もここを訪れている。

電車を降りて改札を抜ける。定期を持たない私たちはみんな切符を買っている。私の前を歩く友人のスカートがリュックに引っかかって無惨にもめくれ、スパッツが丸見えだったのでこっそり指摘した。うそ、恥ずかしい、と顔を赤くしていたが、恐らくそこまで目立っていなかったはずだから安心してほしい。

なぜだか分からないが、みんな随分とセーラー服に着られている感じがする。スカート丈以外はまるで新1年生が初めて着る制服のようにブカブカになっていた。

私が口に出すとみんなもやはり気になっていたようで、痩せたということにしておこうというポジティブな結論に落ち着いた。

みんな笑っていたが実際それが正しいのではないだろうか。


昼食は私たちがギリギリ出し渋らない程度のやや高めの金額になるハンバーグのお店へと向かった。

油が飛ぶのでスカーフを襟から外して、胸の小さなポケットに折りたたんで入れた。高校の制服はクリップ付きのリボンなので基本外さないが、スカーフは本当に大きいのでこういう時は不便だ。

スカーフを入れる私を何気なく見た友人から、今気付いたけどかなり大きくなったね、と小声で言われた。

少し恥ずかしかったが、実際私も自覚があった。そうだね、と答え顔を若干赤くした私の胸を、友人がわざとらしく撫でて成長してるーといじってきた。やったなーと笑顔で頭のてっぺんを鷲掴みにして反撃した。

そんな中で食べるハンバーグの味は何倍にも美味しく感じた。人参が嫌いだったはずの友人がいつの間にか食べられるようになっていて、4人で思わず拍手した。


昼食後はひたすらショッピングへ。期間限定で出展されているお店や百貨店をひたすら回った。途中で気が付いたのだが、ハンバーグの店で外したスカーフをつけ忘れていた。

スカーフが着いていなければかなり印象が変になってしまうのですぐに装着した。

久しぶりにセーラー服姿でプリクラを撮ってからカフェで一息ついて、話題は今まさに着ているセーラー服になった。

私たちがここまでセーラー服にこだわるのには理由がある。それは、全員志望校の公立高校の制服がセーラー服だったことだ。

だからこそセーラー服の女子高生でありたかったという想いは今でも持っているし、こうしてたまにセーラー服で遊びに行く。そんな私たちはセーラー服症候群とでも呼ばれるべきであろう。


そんな半分コスプレのようなことをしても、この服を着れば私はいつでもいろんなことを思い出すことが出来る。

中学入学後3週目に急にセーラー服を着て登校した男子生徒を受け入れてくれたみんな。積極的に声をかけてくれたし、その姿を可愛いと褒めてくれたみんな。男子生徒と知りながら女子のグループに混ぜてくれたみんな。

確かにこの服を着て1ヶ月くらいはほんの少し孤独を感じていたし、ずっと恥ずかしかった。髪が女の子らしく長めになるまでもずっと不安だった。でも、みんなが支えてくれたし、それが今も続いている。

そんな計り知れないほどの思い出が、この重たい女の子の鎧には詰まっている。

目の前にあるフラペチーノを飲みながらそう考えると、目から涙がこぼれていた。

それを見た友人が心を見透かしたかのように、いろいろ思い出しちゃったか。懐かしいよね。ここ初めて一緒に来たところだけど覚えてるかな。と言った。

思い返せばここは、中1の合唱コンクール後に初めてみんなに誘われて来た場所だ。私は私としてここから始まったと言っても過言ではない。

友人達は、最近私が悩んでいるために今日のプランを提案したと打ち明けてくれた。最近の私が女性としての意識に押しつぶされていると、友人達はずっと心配してくれていた。だからこそ中学の頃のような純粋さを取り戻してほしいと、真剣に語ってくれた。

優しさに再び涙を流す私の、ちょうどセーラーの後襟あたりを撫でる4人分の擦りは暖かく感じた。


今日は色々気付かされた1日だったと思う。何も不安がらずにもっと楽しく、もっと明るく生きていこうと思えた。そんなセーラー服の日だった。

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