第52話 祖父の偏見
この年のお盆には3年ぶりに母方の祖父に会いに行った。3年ぶりになってしまったのには訳があった。その時期はというと、私が男子生徒でありながら女子の制服で学校に通い始めた中学1年生にあたる。
あらゆることに偏見を持つ昭和気質な祖父は、当時男の子だった私が女子学生服を着ていることに大反対していた。だから今日まで、私は祖父に会いに行かなかった。というより行けなかった。
父方の祖父母はというと、それがいいと思うのなら自由だと私を受け入れてくれていた。
これまで私の女子学生ライフは、いつもの友人を含め、中高のクラスメイトや先生方が理解し、受け入れてくれていたことで順風満帆だった。唯一異論を直接的に言っていたのが祖父だったのだ。
しかし先日のクリニック受診で事態は大きく揺らいだ。私が女性であったことが判明したからだ。そうと分かった以上、それを真実として伝えて認めてもらうしかないと私も母も思い切ったのだ。
家族で揃って会いに行って、まずはそのことを話す。一連の話を母と私が交互に、事細かに話した。すると祖父はそれまでの態度とは正反対の様子をみせ、ようやく私を私として認めてくれた。正直性差に対する偏見がなくなったわけではないと思うが、今の私を受け入れてくれただけでありがたかった。
私は車に戻り、内緒で積んでおいた制服に着替えた。祖父は写真ですら私の制服姿を見たことがないので、絶対この機会に見せなければならないと思っていた。
真夏の猛暑日だが、せっかくなら中学高校の夏冬どちらも見てもらおうと、リュックに全て詰めてきた。
暑いのをこらえて、まずは中学のセーラー服からだ。今となっては半分コスプレだが、つい5か月前まで愛用していたものだ。家で勉強する際などに時々着ていたし、5人で中学の制服で遊びに行くことがあったので現役のような美しさが保たれていた。
祖父はたまらなく嬉しそうな顔をしていた。孫の制服姿はやはり見たかったのだろう。
続いて中学の夏服、高校の冬服、高校の夏服を披露した。高校の夏服は事件後の新調したてのド新品だ。
結局季節感を無視し、全制服で祖父母と記念撮影した。冬服は地獄だったのでさっさと撮影を済ませてもらった。
撮影が終わると高校の夏服以外は全てカバンに詰め直した。この格好のまま食事に行くことになったのだ。幸いローファーも靴下もしっかり持ってきていたので上から下まで完璧だ。
昼食は私の大好きな海鮮系の料亭に連れて行ってくれた。白い制服に刺身の醤油が飛ばないように慎重に食べた。
こうして祖父の理解も得られたことで、私の気分は今日の天気のような快晴だ。
この夏休み中に解決できてよかったと思うし、これでまた堂々と女子高生の私でいられる気がした。
お盆を含めた実質的な夏休みももう終わり。明後日にはまた授業が始まる。いつものようにこの服で、同じような日常と友人が私を待っている。
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