第40話 勝負の時

出願する時がきた。

私立は2月頭に入試があり、1月中には出願を済ませなければならない。忘れないように、やや高額な試験料と願書を提出した。

本命の公立は入試自体が3月になるのでまだ出願はできない。


前期入試で市内屈指のマンモス校に出願し、私立はそこだけに絞る予定であった。

しかし、母からお金はいいから受けたいなら受けなさいと核心を突かれ、迷った挙句親切にしてくれたあの女子校にも出願した。

もちろん普通の出願とは事情が異なるので、学校に直接問い合わせて後期入試に特別枠で出願したのだった。出願の際の電話口では、私を担当してくれた先生がありがとうと言ってくれた。

後期入試には面接がある。立ち姿や作法はすっかり女性らしく身に付いていたが、改めて練習を何度かやって完璧に仕上げた。


いよいよ前期入試の当日を迎えた。ひたすら人が多かった印象しか残っていない。レベルが高くはないので合格は確信していたが、問題は上のクラスに入れるかどうかだ。私は少しでも上に入りたかったので全力で解いた。根本的に分からない問題は一切なく、空白なしで五教科全ての試験を終えた。合格は間違いないので、あとはひたすら良い点数であることを祈るだけだ。


息つく間も無く、1週間後の土曜日に後期試験は行われた。後期試験はもともと受ける人数も少ないし、ましてや女子校なので受験生用には2教室ほどしか用意されていなかった。

学力試験は国数英だけで終われば面接に入る。学力試験の方は前期よりも多少難しかったが、こちらも空白なしで終えた。

面接は集団で行われた。名前と出身校、志望動機と将来の夢を聞かれた。私の将来の夢は特に決まっていなかったので、女性教育を通して素敵な女性になりたいと言ってみた。

本来ならここで終わりなのだが、私はこの後個人面接を行う。

個人面接は、校長と先程の面接官の1人と、お世話になっていた先生の3人と私ひとりで行われた。面接と言っても軽い話し合いみたいなものだった。

まず、このまま行けば私は間違いなく合格だと伝えられた。筆記試験も面接も高得点だったようだ。これは素直に嬉しかったが、大事な話はそこからだった。

私の戸籍は男性だ。学校でこそ女子として過ごしているが、本当にこれから女子校に入るのならば公的に女子としての認定を受けなければならない。つまりは性同一性障害などの診断が必要になるのだ。

時間もないので入学までに至急やらなくても良いが、それが条件のひとつだと突きつけられた。

コレに関してはある程度覚悟していたし、いずれ必要になってくるとは思っていたので特に悩む事などなかった。それよりも今は1ヶ月を切った公立入試に備えなければならない。

程なくして両校から合格通知を受け取った。マンモス校の方は何とか上の方のクラスに入れていたし、女子校の方も上の方のクラスに合格していた。公立入試前の発表なので少しだが安堵した。


勉強を続けること1ヶ月、いよいよ公立入試の日が来た。今日もセーラー服をバッチリ着こなして高校へ向かった。

これまで以上に集中した。当然だがレベルは私立入試とは比べ物にならない。得意の数学ではかなり稼げた気がしていたので多少なりとも気が楽であった。

全ての科目が終わり、同時に私の受験生も終わった。私はその足で塾に向かい自己採点会に参加した。結果はボーダーより少し上だった。正直どちらに転ぶか、神様でも分からない。ひたすら祈るしかなかったのだ。


塾の受験生お疲れ様パーティーに少し参加しつつ、すぐに帰って母に終わったことを報告した。本当によくやったと言われた。どんな一言よりも嬉しかった。

ゆっくりする暇もなく、約束の公園に向かう。自転車でダッシュして公園に行くと、4人がもう既に待っていた。遅いよーと笑われながら、私たちはお互いの激闘を讃え合いながら自転車でショッピングモールに出かけた。

数ヶ月ぶりにプリクラも撮ったし、結局晩御飯まで食べて来た上で、明日以降の学校に備えて早めに帰った。

明日が卒業式の最後の練習、明後日はいよいよ卒業式だ。女子中学生としての私のカウントダウンはもう最終盤だ。

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