第38話 女子校を体験しよう

いよいよ当日がやってきた。私はいつも通りセーラー服に袖を通して、バスに乗って女子校へ登校した。

学園祭、オープンスクールと合わせて今回で3回目なので、場所は完璧に覚えていた。

深呼吸をして門をくぐり、受付へと向かう。集合時間が早めに指定されていたので、まだ在校生はほとんど居ない。

受付で少し待つと、あの先生がやってきて笑顔で出迎えてくれた。まずは応接室に案内されて今日のスケジュールを説明される。どうやら在校生のいる普通の教室に入って授業に参加する時間があるらしい。

予定を聞き終わって早速どこかに向かうのかと思いきや先生は、今日一日あなたは本校の生徒です。だったら服装が違うよね、早く着替えなさい。と言って笑顔で制服一式を隣の控え室から持ってきた。ローファーと靴下、更にはバッグまで学校指定のものが用意されていていた。

私は言われるがままに着替えて、バッグの中身を積み替えた。

空いた中学校のバッグに今着てきたセーラー服を綺麗に折り畳んで収納した。


以前学園祭で着たことのあるオフホワイトのセーラー服。胸当てはなく、曲線を描くような紺の襟には三本の平線。胸元には綺麗な青のリボンを着ける。

ジャンパースカートの裾にはあまり目立たない学校名の刺繍が入る。手渡されていたカーデガンはいつものようにこの下に着た。

学園祭でコスプレのように着た時とはまるで違い、独特の緊張感に包まれた。これは制服というより、女子高生を華やかに彩る白い女の子の鎧だ。


着替えも終わりいよいよ動き出すと思いきや、想定外の指示が飛んだ。なんと、先程バスを降りたバス停まで行って折り返してこいとの事。少し面倒だったが思い切って行くことにした。

バス停に着くと、ちょうど着いたバスから同じ服を着た人が10人ほど降りてきた。ちょうど登校ラッシュなのだ。その姿を追うように学校へ戻る。気にしたことは無かったが、そばにある公園には噴水があるらしい。夏場なら聞けば涼しくなるような水の音がする。

さっきも通った同じ道なのに特別な風景だった気がした。

門を入る手前で在校生の方が立ち止まって一礼していたので見よう見まねでやってみた。この学校独自のルールのようだ。学校に入るなり先生からよくできましたと褒められた。


1限目の時間は空き教室で学校紹介を受ける。パンフレットなんかには載っていない学校生活や、進路関連の話、更には入試の日程まで細かく説明された。

この学校は中高一貫ながら中学卒業後の進路が自由であり、4割程度が内部進学を選ぶらしい。グラウンドの向こうの中学校で、今まさに勉強している私と同じ歳の子もいるようだ。

2限目の時間はこの学校の商業科の紹介と、そこが実際にプロデュースして販売している商品の紹介をされた。これらは在校生以外でも簡単に買えるらしいが、今回は記念にいくつかの商品をくれた。食品から美容品まで本格的な品ばかりで愛用できそうである。

3.4限目は実際の授業にお邪魔して高校生と一緒に授業を受けた。難しい勉強ではなく、いわゆる道徳的な授業であった。休み時間になるなり、クラスの在校生達は私に興味津々で話しかけてくれた。良くも悪くも女子しかいないし、全員私を本当に女子だと思っているようである意味安心感があった。

昼食は学食の好きなものを無料で提供してくれるとの事で、女子校らしからぬステーキランチなるメニューを迷わずに選んだ。

5限目には赤い体操服を貸し出されて体育の授業に参加した。真冬の外でフットサルだったが、私は普段の運動の成果を発揮し、現役の高校生に負けない機敏な動きで点をもぎとった。

ラスト6限目には学校探検をした。オープンスクールでは立ち入れないような教室や屋上まで連れていってくれた。


楽しかった特別体験入学もいよいよ終わり。普通の学校生活と同じように時が流れるのをかなり早く感じた日だった。

今日の体験入学を終わりますと宣言され、その場で礼をした。まるで帰りのHRだ。

そのまま帰ろうとした私を先生が忘れ物だよと引き止める。そう、私は着替えるのをすっかり忘れていた。むしろ高校の制服に着替えていたことなんて忘れていたのかもしれないし、自分が中学生であることも忘れていたかもしれない。

すぐにカバンを下ろし、本来の自分のバッグを取る。直ぐに着替えて貸してもらったカバンから荷物を移し、貸してもらった制服を綺麗に折り畳んで台に置く。これをもって正式に終了した。

記念といって今日一日着ていた制服のリボンを手渡された。入学することになったらそれを使ってねと言われた。


この話を持ちかけてくれた女子校には感謝しかないし、この学校に詳しくなっただけでなく自分の姿を知ることができた気さえした貴重な一日だった。

私が女子校、有り得ない話じゃないんだなと思えた。

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