38:動く厄災


王都襲撃から一週間ほど経った頃…。


フォルトナールより更に西の様々なダンジョンが存在する魔境と呼ばれる地、その奥深くにあるダンジョン“名無しの墓地”最下層に一人の影とそれを光によって色濃くさせる魔石があった。


魔石は見上げる程の大きさになっており、鼓動の様に明滅を繰り返していた。


「…なんだ」


魔石を眺めていた影、ゼルシドが背後の暗闇にそう問い掛けるとアステラが現れた。


「えぇ、少々困った事になりましたわ」


アステラは無言で続きを促すゼルシドを見ながら話し続けた。


「王国は思ったよりも優秀な冒険者や兵士達が多かった様でして…陽動の為に別のダンジョンに忍ばせていた信徒達と幾つか連絡が取れなくなりました」


「潰されたか」


「えぇ、このままですとここも特定されるのは時間の問題でしょう、ですので…。


ウクブ・カキシュを目覚めさせようかと思います」


アステラの言葉にゼルシドは眉根を寄せる、何言ってんだこいつはと表情が物語っていた。


「復活にはあと半月は掛かるんじゃなかったのか?」


「完全に甦らせるならそうです、ですが封印が解けてダンジョンの魔力を吸収した今なら不完全とはいえ目覚めさせるのは可能ですわ」


アステラがにいっと口角を上げる。


「ウクブ・カキシュは生きたダンジョンとでも言うべき存在、復活さえさせてしまえば後は移動しながらでも大地の魔力を吸収しながら肉体を構成していくでしょう」


「…はっ、好きにしろや」


ゼルシドはそう言って魔石の前からどくとアステラが魔石の前に立ち、十字槍を地面に突き刺した。


十字槍からおぞましい気配が湧き出す、少しして部屋が、ダンジョン全体が揺れはじめた。


魔石の明滅が激しくなる、壁や地面が音を立てて動き、魔石に向けて管の様なものが幾つも突き刺さると魔石に込められた魔力が管を通してダンジョンを侵していった…。






―――――


魔境で地震が起きる、街に戻る予定だった冒険者やそれに紛れた軍の斥候がそれぞれ違う場所から原因であろうを見た。


揺れる地面を割りながら現れたのは腕だった、骨に皮の代わりに鉱物が貼りついたミイラの様な見た目だったがその余りの巨大さに見た者は夢を見てるのかと錯覚してしまった。


だが尚も揺れは治まらず、腕は掌を地面に叩きつけると一際揺れは大きくなって見る者全てが態勢を崩した。


地面を鳴動させながら地割れからは這い出してきた、山を削って作ったかの様な巨大な頭蓋は腕と同様に鉱物が貼りついており眼窩には炉の様な輝きが灯っている。


地割れから完全に這い出てきたそれは一見すればミイラやスケルトンの様だった、だが腰から下がなく腕で地面を掴んで動くそれは肋骨の部分だけで王城に匹敵する巨大さも相まって動く要塞と言っても過言ではなかった。


斥候は使い魔を呼び出すと目にしたものを記録させて最高速でフォルトナールに飛ばした、するとその直後にそれは起きた。


「――――――――――ッ!!!!!!」


這い出してきた、巨人は空に昇る太陽に向けて忌々しいとでも言う様に咆哮を上げた、それは魔境どころかフォルトナールを越えて王国全土に響き渡ったのではないかと錯覚する程に大気を揺らした。


「な、なんだこれは…!?」


「魔力が、失くなって…」


巨人を見ていた者は総じてその場に倒れ伏す、体から抜け出していく魔力は大地を通じて巨人の下へと向かっていった。


潰世の巨人ウクブ・カキシュはひとしきり咆哮を上げると周囲の魔力を吸収しながらフォルトナールに向けて進み出した…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る