268話「週末の勉強会」

 週末がやってきた。

 つまりは、今日はしーちゃん家で一緒にテスト勉強をする日である。


 朝目覚めた俺は、筆記用具を鞄へとしまい、それから身嗜みを整える。

 一応これから彼女の家へ遊びに行くのだ。

 しーちゃんならばどんな格好でも受け入れてくれそうなものではあるが、そこはちゃんと彼氏としてしっかりしておくべきところだと思っている。


 そして、家族で朝食を済ませると俺は家を出る。

 今日は何時に行くかなど細かい時間までは決めておらず、所謂場面というやつで細かいことはLimeでやり取りすればいいだろうと、事前に話はしている。


 とは言っても、既にしーちゃんからLimeで起きた報告が入っているため、俺は手土産というほどでもないが、コンビニでお菓子と飲み物を適当に買ってしーちゃんの家へと向かった。


 ちなみに今日は、孝之と清水さんは参加せず二人きりの勉強会だ。

 これは孝之達に予定があったとかではなく、今回はしーちゃんの希望で二人きりとなった。

 それが何故かはよく分からないものの、しーちゃんが二人きりで会いたがってくれているのだ。悪い気などしない。


 だから俺は、今日は一日一緒にいられることにワクワクしながら、しーちゃんの家の呼び鈴を鳴らすのであった。



 ◇



「いらっしゃい! たっくん!」


 玄関を開けて、しーちゃんが家に招き入れてくれる。

 今日は家から出るつもりはないのだろうか、ピンク色をしたモコモコのセットアップになった部屋着を着ており、そのオフな感じは純粋に可愛かった。

 ただ、下のパンツの丈は結構短くその健康的な太ももが露わとなっており、俺はつい目を奪われてしまっていた。



「……もう、ちょっと見すぎだよ」

「え? あ、ごめん」

「えへへ、さっ、早く上がって!」


 こうして俺は、ちょっと恥ずかしさを抱きつつも、しーちゃんの家へと上がらせて貰うのであった。



 ◇



 今日はリビングではなく、しーちゃんの寝室で一緒に勉強することとなった。

 リビングのテーブルの方が大きいのだが、二人ならば寝室にある小ぶりなテーブルでも十分だった。

 何より、小さい方がより近くに感じられるところもあり、そんな密着感はちょっと嬉しかったりする。



「じゃ、勉強はじめよっか」

「そうだね」


 こうしてさっそく、今日の目的である勉強会を始めることとなった。

 俺は苦手な化学から勉強することにすると、しーちゃんも俺に合わせて化学の教科書を開いた。

 そして、俺を真似て同じページを開いたしーちゃんは、ワクワクとした様子で俺の顔を覗き込んでくるのであった。



「……あの、勉強は?」

「今、たっくんを勉強中です」

「はいはい。しーちゃんも勉強してくれないと、俺もやり辛いんだけど?」


 そんな期待するような顔を向けられても、今は駄目なのだ。

 何故なら、今日は勉強するために集まっているのだから。

 そりゃ俺だって、イチャイチャはしたい。

 だからこそまずは、やるべきことをやってからすべきことなのだ。


 ということで、ここは心を鬼にしてしーちゃんに勉強するように促す。

 するとしーちゃんは、えへへと反省の笑みを浮かべると、気持ちを切り替えて一緒に勉強を始めるのであった。



「……あれ、ここの化学反応式なんだっけな」

「はい」


 やはり苦手な化学。

 正直、記号の羅列にしか見えない難しい問題にぶち当たると、しーちゃんはすぐにその解答をノートに書いて教えてくれた。


 その速さたるや、有名牛丼チェーン店も真っ青なぐらいのスピードだった。



「ああ、そうだった。ありがとうしーちゃん」

「えへへ、構わんのだよ」


 感謝を伝えると、ドヤ顔で胸を張るしーちゃん。

 そんなしーちゃんに、やっぱり敵わないなぁと思いながらも、そんなドヤ顔を浮かべている姿はちょっと面白くて、つい笑ってしまうのであった。


 こうして、今日も分からないところはしーちゃんがすぐに教えてくれるため、午前中みっちりと勉強することができたのであった。



「もうそろそろ良い時間だね、わたしお昼ご飯用意してくるね!」


 時計を見ると、昼の十二時過ぎ。

 たしかに小腹も空いてきたし、一旦勉強は休憩することにした。


 ペンを置いた俺は、ぐっと伸びをする。

 そして、することもないから何となく部屋を見回すと、本棚に前はなかった漫画が並べられていることに気付く。


 最近しーちゃんは、漫画にハマっているという話は聞いていたため、どんな漫画か気になった俺は試しに読ませて貰うことにした。


 その漫画は少女漫画で、内容はラブコメだった。

 ずっと片思いしていた相手と再会して再び恋に落ちるお話で、どこか俺達の関係にも似ているような気がしなくもない内容だった。


 そして俺は、気が付くとその漫画に夢中になってしまっていたようで、ご飯できたよというしーちゃんの声で顔を上げた。



「あ、ごめん。漫画読ませてもらってたよ」

「全然いいよ。それ、面白いよね」

「そうだね、キュンキュンする感じだね」

「えへへ、そーなのですよ! えっとね、このタツキくんがたっくんで、こっちのシュリちゃんがわたしね!」


 漫画を読む俺の後ろから抱きついてきたしーちゃんは、そう言って漫画のキャラを指さす。

 どうやらしーちゃん的に、この漫画の主人公とヒロインが、俺としーちゃんらしい。



「あはは、こんな美男子じゃないけどね」

「そんなことないよ、たっくんは世界一かっこいいよ」


 そう言って、そのままぎゅっと抱きしめてくるしーちゃん。

 その言葉と温もりが嬉しくて、俺は暫くそのまま抱きしめられていることにした。


 こうして寄り添う俺達は、今読んでいるこの漫画の二人よりもラブコメしているような気さえしてくるのであった。





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