第八章

267話「期末テスト」

 体育祭も終わり、またこれまでの日常へと戻っていた。

 そんな、六月も終わり七月へ差し掛かった今、クラスのみんなの話題も体育祭から夏休みへとシフトしているのであった。



「んーとねー、あとは、またプールにも行きたいなぁー」


 そしてそれは、今朝も一緒に登校しているしーちゃんも同じだった。

 なんなら、既に気持ちは完全に夏休みモードのしーちゃんは、歩きながらこの夏やりたいこととかを色々と楽しそうに語ってくれている。


 そんな風に、これから一緒に過ごす夏休みを嬉しそうに話してくれるというのは、俺としても嬉しいことだし、俺だって今年は去年以上に色々出来たらいいなと考えている。

 だから、今語ってくれたことは全部叶えてあげたいし、新たな楽しみも与えてあげられたらいいなと思いながら、今日も一緒に学校へと向かうのであった。



 ◇



「はーい、じゃあ期末テストまで残り二週間です。来年はみなさんも受験生ですからね、夏休み気分で浮かれ過ぎないように!」


 担任の伊藤先生の一言に、教室内はゲンナリとする。

 そう、みんな気分は夏休みモードであるものの、その前に一学期最後の壁が控えているのだ。


 期末テスト――。

 二年生にもなると、各教科の内容も難しくなってきているため、赤点を取るような人も増えてきているとか何とか。

 でもまぁ、一年生の頃から勉強を欠かしたことのない俺にとっては、内容が難しくなってきたと言ってもさすがに赤点を取る心配はなかった。


 ただ俺には、しーちゃんに相応しい男になるため、去年の夏休みに己へ課した三か条がある。

 俺はこの三か条を掲げて以降、これまでずっと継続させ続けてきたのだ。


 その掲げた三か条のうちの一つが、『勉学を怠るな』だ。

 その成果もあってか、前回の中間テストでは学年五位と上位の成績を収めることができた。


 ただ、その中間テストもしーちゃんは学年一位で、その才色兼備っぷりは健在だった。

 だから、まだまだしーちゃんとの差は埋められてはいないものの、それでも成績はじわじわではあるが上がってきていることに、俺は確かな手応えみたいなものを感じているのであった。


 ――でも、そろそろ追い付かないとだよなぁ。


 順位が上がってはいるものの、このままで良いわけでもない。

 そのあとに控えている夏休みを気持ちよく迎えるためにも、俺はこの期末テストは更なる順位アップを目指して毎日勉強を積み重ねているのであった。


 そんなわけで、今日も一日授業を受け終えた俺は、しーちゃんと一緒に図書室へと向かうのであった。

 付き合って以降、毎回テスト前はこうして図書室で一緒に勉強するのが俺達のお決まりとなっているのだ。


 そしてこの勉強会を通じて、俺は毎回しーちゃんの凄さを思い知らされる。

 最初に勉強会をした時にも驚いたが、最早分からないことなんてないんじゃないかってぐらい、しーちゃんに質問すれば全て教えてくれるし、何よりその教え方も分かりやすく上手なのだ。

 それはきっと、例えば数学ならただ解を求められるだけではなく、その問題の成り立ちや意味を全て理解しているからこそできることだろう。

 だからしーちゃんは、きっと今回のテスト範囲も既に熟知した上で、その先の内容まで予習しているのだろう。

 決して口にはしないが、そういうレベルの違いが順位にも現れているのだと実感させられるのであった。


 じゃあそれを見習おうにも、簡単に真似ることなどできなかった。

 何故なら、先の内容以前に、今の範囲を理解することで手一杯なのだ。

 急がば回れという言葉があるように、もしかしたら先の内容を知ることで今の範囲の理解が深まるものなのかもしれない。


 けれど、そんな賭けに時間を割ける余裕なんて、残念ながら今の俺にはなかった。

 今の順位を上げたいのはもちろん、順位を落とすわけにはいかないのだ。


 そんなわけで、今はまだしーちゃんに教えて貰いながら、今日もこれからテスト対策に勤しむのであった。



 ◇



「ねぇたっくん、ポッキー食べる?」

「え? あ、うん。じゃあ貰おうかな」

「はい、じゃあアーン」


 今日は二人での勉強会を開始して十分ぐらい経っただろうか。

 まだ始めたばかりだというのに、しーちゃんは鞄からお菓子を取り出すと楽しそうに食べ出すのであった。

 そして、ポッキーを一本取り出したしーちゃんは、それをアーンと差し出してくる。


 俺は周囲の目を気にしつつも、若干の恥ずかしさとともにそっとそのポッキーを咥える。

 そして、再び勉強に集中しようとしたところで、しーちゃんから二本目のアーンが迫ってくるのであった。


 結局、ひと箱なくなるまでずっとアーンで餌付けされ続けた俺は、今度こそ集中しようと教科書と向き合う。



「たっくんは、真面目だねぇ」

「そういうしーちゃんは、今回も余裕そうだね」

「そんなことないけどね」


 そう言ってしーちゃんは、俺の肩へ頭を預けてくる。



「――たっくんに良いところを見せようと、裏ではそれなりに頑張っているのです」

「なるほど」

「だから、分からないところとかあったら何でも聞いてね。聞かれて答えるのも、勉強になるから」


 そう言ってしーちゃんは、身を寄せながら隣で一緒に俺の教科書を覗き込む。

 それからはその言葉通り、時折り分からないところがあれば、聞けば何でも教えてくれるしーちゃん。

 そんな、今回も余裕綽々なしーちゃんと自分とでは、やはりまだまだ差があることを痛感しつつも、しーちゃんのおかげで今回も勉強はかなり捗った。

 そして、それから二時間ちょっと集中して勉強した俺達は、日が落ちる前に帰ることにした。



 ◇



「んー! 今日も沢山勉強したねー!」


 歩きながら、気持ち良さそうにぐっと伸びをするしーちゃん。



「あはは、俺が教えて貰う一方だったけどね」

「そんなことないよ。あっ! ねぇたっくん、週末はどうする?」

「週末? えっと、日曜日はバイトだから、土曜日なら空いてるけど」

「じゃ、じゃあ! またうちで勉強会しない?」

「あー、うん。そうだね」


 しーちゃんからのせっかくのお誘いなのだ。

 その誘いを断る理由なんて、どこにもなかった。


 だが、何故かやる気に満ち溢れた様子のしーちゃんはどこか挙動不審で、きっとまた何か企んでいるのだろう。


 でもまぁ、そんなところも可愛いで片付くのがしーちゃんクオリティーだった。


 こうして、今週末はしーちゃんの家で勉強会をすることとなったのであった。



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