265話「レースの行方」

 この体育祭の最終種目、クラス対抗リレーがいよいよ始まった。

 一年生から順に行われるが、やはり目玉種目なだけありみんなの声援も強まり熱が籠っていく。


 一年生の代表の中には早乙女さんの姿もあり、他の女子達をグイグイと抜き去って行くその姿は、本当にカッコよかった。

 アイドルだけれど、運動神経も抜群。

 そんな早乙女さんには、「リンリーン!」という掛け声が多くかけられており、それだけで早乙女さんの人気が窺えた。


 そんな早乙女さんの活躍もあり、一年生は早乙女さんのクラスが見事一位となり、無事勝利出来たことをクラスみんなで喜びを分かち合っていた。

 そんな風に、アイドルだけれど早乙女さんもまた普通の女子高生として、この学校生活を楽しんでいる。

 そんな姿が見られただけでも、俺は満足するとともに良い刺激を貰うことができた。


 ――俺もここは、頑張らないとだな!


 そう気合を入れると、次はいよいよ自分達二年生の番となる。



「位置についてー、よーい!」


 その掛け声とともに、開始の発砲音が鳴り響く。

 それと同時に、全八クラスの代表の女子達がスタートを切る。


 どのクラスも選抜者なだけあり、みんな目に見えて足が速い。

 そんな中でも、孝之達のクラスの陸上部の女子が一歩前に出る。

 その差は徐々に広がり、五組がリードで第二走者へバトンが繋がれる。


 しかし、第二走者は一組が五組を追い抜き順位が入れ替わる。

 かといって、他のクラスが遅れているわけでもなく、先頭から最後尾までの差はほとんどない接戦だった。


 そして第三、第四とバトンが繋がれていくと、徐々にその差も広がっていく。

 現在、一位が五組で二位が六組、そして三位が二組と続いてその後ろが我らが四組だった。


 一位とは少し差も開いており、このままではこの体育祭、五組が優勝となってしまう。

 だが、その差はあまり変わらないまま、第五走者へバトンが渡される――。



「うぉりゃぁあああ!」


 しかし、そこでうちのクラスが巻き返しを見せる。

 うちのクラスの米田さんが、大きな声と共に物凄いスピードで二組を抜き去り、そして二位の六組にも迫っていくのであった。


 米田さんと言えば、バレー部で二年生ながらエース級の活躍をしていると聞くが、気合の籠った声を発しながら爆走するその姿に、他の学年からも大きな歓声が上がる。


 そして終盤、見事六組も僅かに抜き去り、ついに俺へとバトンが渡ってくるのであった。



「一条くん!!」

「任せて!!」


 米田さんから、しっかりとバトンを受け取る。

 そして俺は、ただ前を向いて一気に全力で駆け出す。


 三歩ほど前の位置に、孝之の背中が見える。

 高身長で、現役バスケ部。

 オマケに、昔から足の速い孝之は力強い足取りで俺の前を走る。


 ――でも、俺だって負けてられない!


 その強い意志と共に、俺は足にグッと力を籠めて大地を蹴る。

 そして一歩踏み出すごとに、身体が押し出されるように前進していく感覚が生まれる。


 身体が軽くなるような、懐かしいこの感覚――。

 これは陸上部時代、短距離走を走っていた時と同じ感覚だった。


 自分の身体が、どんどん加速していくのが分かる。

 前を向けば、確実に孝之の背中も近付いているのが分かった。


 ――負けられないんだ!


 溢れ出す気持ちを、踏み出す力に変える――。

 残りは五十メートルを少し切ったぐらいだろうか、ゴール付近にある自分のクラスのみんなが、一生懸命声を出して応援してくれているのが分かる。





「たっくん! 行けぇー!!」





 そしてその手前、しっかりと俺から見える位置に立つしーちゃんの、気持ちの籠った声援がはっきりと俺の耳に聞こえてくる。


 ――ちゃんと届いてるよ、しーちゃん! だからそこで見ててね!


 俺は更に、強く踏み出す――。

 残りの直線、孝之とはほぼ横並びのところまできた。


 残りあと数歩の世界、俺はただ少しでも速く足を踏み出し、ゴールテープの向こうまで駆け抜けるつもりで、強く、強く大地を蹴り上げる――。


 パァーン!


 そして、ゴールの発砲音が聞こえてくる――。


 無我夢中で駆け抜けた俺は、ゴールしてすぐに止まることが出来ず、そのままバランスを崩してゴールの先で倒れてしまう。

 すると、そんな俺の元にクラスのみんなが駆け寄ってきた。



「やったな! 一条!」

「すごいよ一条くん!」

「わたし、ちょっと感動しちゃった」


 クラスのみんなが、口々に俺にそんな声をかけてくれる。

 そして手を引いて起こされると、どうやらレースも終了しているようだった。


 結果が気になった俺は、自分が何位だったのか確認しようにも、目に見える形で順位は発表されてはいなかった。



「――ったく、卓也には敵わねーな」

「え? それって……」


 一緒にアンカーを走った孝之が、やれやれと笑いながら肩を組んでくる。

 その言葉から察するに……もしかして……、



「一位は、二年四組です!」



 そのアナウンスと共に、自分が無事一位でゴール出来たことを確認する。

 すると、クラスのみんなも改めて喜びを分かち合い、よくやったとみんなからバシバシと叩かれるのであった。

 それが嬉しくて俺も、クラスのみんなと一緒に笑い合った。


 こうしてこの体育祭、うちのクラスは見事一位で終えることが出来たのであった――。


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