264話「最終種目」
玉入れ対決が終了し、お次は各学年選抜者による男子千メートル走対決。
うちのクラスからは、野球部の体力自慢の野島くんが選出され、全八クラスの中で三位という高成績を収めてくれた。
陸上部の相手には敵わなかったものの、それでも終盤まで競り合っていたのはさすがの一言だった。
そして次の種目は、二人三脚リレー。
こちらもクラスの選抜者が二位と四位と七位に終わり、まずまずの結果で終えることができた。
その結果、うちのクラスは現在学年で二位となる。
一位の二組とは二ポイント差で、三位の五組とは一ポイント差となっている。
そして残す種目は、本体育祭の目玉種目でもあるクラス対抗選抜リレー。
男女共に三名ずつが選出され、一位が十ポイント、そして順位が一つ下がるごとに二ポイントずつ減っていく形となる。
従って、うちのクラスがこのリレーで一位になれれば、仮に二組が二位でも同率一位となる。
ただし、しーちゃんと孝之二人の宣言どおり、五組も一ポイントと迫ってきている。
この上位三クラスが三つ巴の状態となっており、全ては次のリレーで決するといった状況だ。
そして俺は、帰宅部だけれどこの選抜リレーに出場することになっているうえ、出走順はまさかのアンカー。
そのため、今日までランニングを続け準備をしてきたのである。
「一条くん、頑張ってね!」
入場ゲートへ向かおうと立ち上がると、清水さんがグーポーズをしながら声をかけてくれた。
これから走る俺を励まそうと、そんな風に気合を入れてくれる清水さんに感謝すると共に、俺は笑ってありがとうと答える。
こんな美少女に応援されたとあっては、ここで頑張らないと罰が当たるなと思いながら入場ゲートへ向かう。
「たっくん!」
すると、背後から声をかけられる。
それが誰かなんて言うまでもない、俺をそんなあだ名で呼ぶ相手なんて一人しかいないのだから。
振り返ると、駆け寄ってきたしーちゃんがそのまま抱きついてくる。
人目も多いため、それだけで周囲の驚いたような視線を集めてしまっているのだが、今のしーちゃんはそんなことお構いなしだった。
「頑張ってね! 応援してるからね!」
「うん、ありがとう。――でも良いの? もし俺が勝ったら、五組は優勝できないけど?」
応援してくれるしーちゃん。
その言葉に嬉しさで胸がいっぱいになりつつも、俺はそんなちょっと意地悪な言葉を投げかけてみる。
するとしーちゃんは、うーと唸って少しだけ悩みながらも、もう一度抱きついてその顔を胸に埋めてくる。
「いい! たっくんが勝つならそれでいいっ!」
「あはは、ありがとう――ごめん、変なこと聞いちゃったね。お互い、勝っても負けても恨みっこなしってことで」
「うんっ!!」
満面の笑みを向けてくれるしーちゃん。
お互いに、勝っても負けても恨みっこなしの真剣勝負。
それでも、こうして応援してくれるしーちゃんのためにもこのリレー、絶対に負けたくないなと思った。
◇
「まさか、卓也もアンカーとはなぁ」
出走順に並んでいると、隣のクラスのアンカーである孝之が声をかけてくる。
深くは話さなかったが、まさかお互いアンカーだったことに驚き合う。
「お手柔らかに頼むよ」
「はは、それはこっちのセリフだっての」
そう言って笑う孝之に、俺も笑い返す。
現役運動部の孝之と帰宅部の俺とでは、そもそも身体づくりが違い過ぎる。
俺もなんとか今日までトレーニングはしてきたが、それでも一年前より筋力が目に見えて増している孝之相手に、そんな小手先で追いつけるはずもなかった。
――それでも、このレースだけは負けられないな。
運動に関するほとんどでは、まず孝之には敵わない。
それでも俺は、このリレーだけは相手が孝之だとしても負けるつもりはなかった。
「まぁ、あとはお互い正々堂々戦おうぜ」
「そうだな」
俺の覚悟が伝わったのだろう。
二人で拳を突き合わせて、互いの健闘を讃え合う。
こうしてついに、この体育祭の最終種目。
クラス対抗リレーが始まるのであった。
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