263話「玉入れ」

 昼休みが終わり、体育祭の午後の部が開始となる。

 まず初めは、バラエティー枠の部活対抗リレー。


 陸上部はもちろん、他にも野球部、サッカー部、そして孝之の所属するバスケ部などの運動部。

 それから軽音楽部や茶道部、更には文芸部といった文科系の部活まで参加することで笑いが起きる。


 各部活、主に三年生から選抜者が出場するのだが、みんな部活動のユニフォーム等を身に纏っていることもあり、剣道部の動き辛そうな格好は更なる笑いを誘っていた。


 そしてレースがスタートすると、前線では運動部同士のガチンコレースが繰り広げられ、後方では文科系の部活と剣道部が競り合うという二極化を見せる。

 しかし、意外と軽音楽部のみんなの足が速く、運動部と競っていることで会場は大盛り上がりとなった。


 結果、上位は陸上部、サッカー部、バスケ部の順となり、軽音部は惜しくも四位。

 それでも、野球部に勝利したことで主に女子達がキャーキャーと騒いでいた。


 そんな軽音部のロックンロールな結果もあり、大盛況で終わった部活対抗リレー。

 そしてお次はついに、女子による玉入れ対決が始まるのであった。



 ◇



 クラスの女子達が、集合ゲートへ移動する。

 小さく気合いを入れた清水さんは、俺に向かってグーポーズをしてくれた。

 だから俺もグーポーズを返すと、清水さんはやる気に満ち溢れた様子で入場ゲートへと向かっていった。


 そんな清水さんのことを、しっかり応援しないとなと思いながら見送っていると、ふと視線を感じる。

 振り向くとそこには、隣のクラスの輪の中からしーちゃんがこっちを見ていることに気が付く。

 何かと思えば、人の隙間からギリギリ見える状態で、先程の清水さんと同じくグーポーズを俺に向けてくるしーちゃん。

 きっと慌てて清水さんの真似をしたのだろう、どこかぎこちないながらも負けじと張り合っている感じが可愛かった。


 だから俺も、みんなに気付かれることなく、さり気なく挙動不審を発揮しているしーちゃんにグーポーズを返す。

 するとしーちゃんは、ぱぁっと嬉しそうに微笑むと、そのまま嬉しそうに入場ゲートへ向かって行った。

 そんな、相変わらずの分かりやすさに俺も笑ってしまいつつ、しーちゃんも頑張れとその去り行く背中に向かってエールを送った。



 ◇



 ゲートに集合した女子一同。

 一年生から順に、いよいよ玉入れ対決が開始される。


 一年生の中には現役アイドルの早乙女さんの姿もあり、一心不乱に玉を投げつけているその姿は周囲の注目を集めていた。

 しかし心なしか、何かストレスをぶつけているというか、入れるよりも投げることが目的になっているような気がするのは気のせいだろうか……。


 結果、そんな早乙女さんの活躍? もあり、一年生では早乙女さんのクラスが一位という結果に終わった。

 クラスのみんなと喜びを分かち合っているその姿はやっぱりアイドルで、その微笑みに見惚れてしまっている男子は少なくない様子だった。


 そしてお次は、ついに二年生の番が回ってきた。

 つまりは、ここにきて初のしーちゃんと清水さんの直接対決である。


 この学年の二大美女のどちらを応援するか、クラスや学年の垣根を越えて、二人に対して声援が上がっているのであった。

 その声援もあってか、しーちゃんと清水さんはアイコンタクトを交わす。

 それはお互い、ここは絶対に負けないよという意思表示のようで、そんな二人に引っ張られるようにお互いのクラスはバチバチに闘志を燃やしているのであった。


 俺としては、自分達のクラスの勝利を祈りつつも、彼女であるしーちゃんの活躍も期待しているためちょっと複雑だった。

 それは孝之も同じで、同じ境遇の俺達もお互いの顔を見合わせながら苦笑いを浮かべる。


 ――まぁ、あとは見守るしかないな。


 そう思い、玉入れの結果を見守ることにした。



 ◇



 パァーン!


 開始の発砲音が鳴る。

 その開始の合図と共に、一斉に玉入れが開始となる。


 そしてしーちゃんも清水さんも、抱えた玉をカゴ目がけて投げ込む。

 背の低い清水さんだけれど、一つ一つしっかりと狙いを定めては投げ込み、そして玉がなくなっては落ちている玉をすぐに拾い集めてまた投げ込む。

 一生懸命取り組んでいるその姿に、周囲からの歓声は更に熱を増していく。

 バスケ部の一年生達からは特に応援に熱が入っており、やはり清水さん人気の高さが窺えた。


 しかし、そんな清水さん以上に会場の注目が集まる人物。

 その人物とは、もちろんしーちゃんである。


 それは国民的アイドルグループ『エンジェルガールズ』の元メンバーにして、今はこの高校の二大美女と呼ばれるほどの美少女。

 それだけでも、注目を浴びるには十分過ぎる条件と言えるだろう。


 しかし、ここで注目を浴びているのはそんな容姿や肩書など全く関係なかった。

 何故なら、なんとしーちゃんは、その手にした玉を確実にカゴへ入れていくのである。


 その仕事っぷりは、まさに必殺仕事人。

 玉を投げてはカゴに吸い込まれ、そしてまた投げてはカゴに吸い込まれていく――。


 その仕事人っぷりに、玉が吸い込まれていく度に会場からは感心するようなどよめきが起きる。

 そんな、やはり何をやらせても完璧なしーちゃんは、うちのクラスにとっては脅威以外の何ものでもなかった。


 ――やっぱり凄いな、しーちゃんは……。



 パァーン!


 そして、終了の発砲音が鳴る。

 白熱した玉入れ対決だけれど、今回は正直結果は言われなくても一目瞭然だった。


「――優勝は、二年五組です」


 そのアナウンスに、会場から一気に歓声があがる。

 こうして見事優勝したしーちゃんはというと、得意げな笑みを浮かべながら俺に向かってピースをしていた。

 その姿もやっぱり可愛くて、こんな凄い子が自分の彼女なんだと思えるだけで、何だか誇らしい気持ちになるのであった。



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