260話「借り物競争」

 ついに始まった、借り物競争。

 一年生から順にお題をこなしていくのだが、その内容は噂どおり中々尖ったものだった。


『学年で一番背が高い人』

『音楽の西沢先生』

『緑の靴下を履いてる人』


 などなど、どれもクセが強いお題ばかりだった。

 最後の緑の靴下に至っては、体育祭当日にそんな派手な靴下履いてくる人なんていないでしょと笑いを生んでいたが、実は生徒会長が今日のために緑の靴下を履いて来ていたことをカミングアウトすると、更なる笑いを生んでいた。


 そんなわけで、誰にでも当てはまるような内容ではなく、誰かピンポイントに指定されているような内容のものがほとんどだったため、レースに参加している人達だけでなく全員参加型で盛り上がる種目となっていた。


 そしてついに、そんなクセの強すぎる借り物競争に我らが清水さんが出走する。

 すっかりやる気満々な様子の清水さんは、それだけで周囲の注目を集める。


 二大美女と呼ばれる美少女の、やる気に溢れた表情なのだ。

 それはもう、俺から見ても控えめに言って可愛い以外の何物でもなかった。



「清水せんぱーい! がんばってー!」


 すると、一年生の方からそんな声援が聞こえてくる。

 どうやらバスケ部の一年生達からの声援のようで、今ではほぼバスケ部のマネージャー状態の清水さんは、バスケ部の一年生からとても大人気なのだと聞いたことがある。

 風の噂によると、みんな清水さんが孝之と別れるの待ちをしているらしく、それが孝之にバレる度に怒られるというのが、バスケ部内でのお決まりの流れになっているらしい。


 そんな、後輩男子達からの黄色い声援を浴びた清水さんは、手を振りながら笑って応える。

 すると、清水さんからのその反応が嬉しかったのか、盛り上がるバスケ部の子達。

 そしてそれは、最早バスケ部に留まらず、一年生の男子の多くがそんな清水さんに騒いでいた。


 ――清水さん人気、恐るべし……!


 この学校のアイドルとも言えるその人気っぷりに、隣のクラスの孝之はどこか自慢げに腕を組みながら座っている。

 そんな孝之は、彼氏の余裕かよチクショーとクラスメイトにイジられているのだが、「その通りだ、羨ましいだろ!」と言葉を返し、彼女のことを正々堂々自慢する姿勢はやっぱりナイスガイだった。


 そしてついに、清水さんの番がやってくる。

 勢いよく駆け出した清水さんは、一番手前にあったお題を手にする。


 そしてお題に目を通した清水さんは、誰が見ても驚いたような困ったような表情を浮かべる。

 それからキョロキョロと辺りを見回すと、何かに閃いたようにこっちに向かって駆け出してくる。


 その様子に、みんなの注目も集まる。

 一体清水さんのお題は何だったのか、ワンチャン自分が連れてかれるのではないかという淡い期待と共に、完全にこの借り物競争の主役と化していた。


 そして、こっちまでやってきた清水さんはというと、一番見えやすい位置で腕を組みながら、余裕たっぷりと清水さんを待っている孝之のもとへ行く――と見せかけてスルーする。


 驚く孝之を他所に、清水さんはうちのクラスの席に向かって大声で呼びかける。



「朽木くん! お願い!」


 一体誰だと身構えていると、呼ばれたのは先程綱引きで大活躍した朽木くんだった。

 まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったようで、朽木くんは「お、俺ぇ!?」と驚きながらも、慌てて清水さんのもとへ駆け寄る。



「そう! 急ぐよ朽木くん!」


 そして清水さんは、朽木くんの手を取りゴールへ向かって駆け出す。

 そんな清水さんの様子を、選ばれなくてしょげた表情で眺めている孝之の後ろ姿は、少しだけ可哀そうで、それ以上にちょっと笑えた――。



「ゴールです! 一着は、二年四組の清水桜子さん!」


 そして、そのままなんと一着でゴールした清水さん。

 嬉しそうに微笑みながら、朽木くんとハイタッチしているその様子は、その仕草も相まってやっぱりとても可愛かった。



「お題は、『学年で一番腕相撲が強い人』でしたー!」


 司会の人のネタばらしに、全員「あぁー」と納得する。

 間違いなく、うちの学年で一番力持ちなのは朽木くんで満場一致だったのだ。


 しかし、力持ちではなく腕相撲と書くあたり、やはりお題のクセが強かった。

 そして、見事学年一腕相撲が強い人に認定された朽木くんはというと、片手で自分の頭を撫でながら照れていた。

 その姿に、ある意味清水さんに負けてないぐらい可愛いと、一部の女子達がキャーキャー騒いでいるのであった。


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