258話「綱引き」

 最初の種目は、百メートル走。

 各学年ごとに、クラスの代表者が男女それぞれ三名ずつが選出され競い合う。


 うちのクラスからは、男女ともに運動部から三人が選出されたのだが、結果は学年で男子が二位、女子が四位とまずまずの結果となった。

 対して孝之達のクラスは、男子が六位で、女子が五位。

 全八組ある中でこの順位なので、先程の勝ち分がこれで少し減ったといったところだろうか。

 おかげで、まだまだどこが優勝するかは分からなくなる。


 こうして、早速白熱していく体育祭。

 みんなの応援にも熱が入り、俺も自然と声援を飛ばしながら楽しんでいる。



「みんな凄いね。わたしもあんな風に速く走れたらなぁ」

「なに? 清水さん、短距離走は苦手?」

「うん、クラスどころか学年でも下の方だと思う。だからこそ、憧れちゃうんだ」

「そっか、まぁ個性はあるからね。でもどうして?」

「だって足が速ければ、全員を置き去りに出来るでしょ?」


 置き去りに……うん、分かるようで分からないかも。

 そんな、清水さんの新たな闇の部分が明らかになりつつ、百メートル走は終了となる。


 次の種目は綱引き。

 つまりは、早速の俺の出番である。


 抽選で当たったクラスと勝負し、勝利すれば得点が貰え、負ければゼロ。

 要するに、この綱引きで半分のクラスがポイントを得られないわけだから、ここで勝てればかなりのアドバンテージとなる。



「ここは絶対に負けられないな。まぁうちのクラスには、朽木がいるからな」

「ああ、そうだね」


 息巻いた上田くんが声をかけてくる。

 そんな上田くんの言う朽木くんとは、柔道部に所属するクラスメイトだ。

 身長は百九十センチ近くあり、その体格もかなり大きいため、学年最強の名を欲しいままにしている大男だ。

 それでも、よく見ると筆記用具や弁当箱など実は可愛い系のものを多く愛用しており、その内面も温厚で結構可愛いところが多いことから、そんな見た目とのギャップが一部の女子からは人気だったりする。

 クマみたいで可愛いと、朽木くんが笑う度に女子達がキャッキャしているのだ。


 そんな、学年最強の朽木くん要する我らが四組。

 他にも運動部に所属する力自慢が多くいるため、ここは絶対に負けるわけにはいかなかった。


 抽選の結果、うちのクラスの相手は一組となった。

 一組には、朽木くんには劣るものの体格の大きい野球部の後藤くんがいる。

 一年の頃から野球部でレギュラーを獲得しており、どんな球でもホームランをかっ飛ばすことから「ホームラン後藤」という異名までついている。



「朽木ー! ねじ伏せろー!」

「後藤! やっちまえ!」


 そんな、朽木くんと後藤くん。

 学年でもツートップと言える大男二人の直接対決に、他の学年含めみんなも大盛り上がりとなる。


 そして、ついに綱引きがスタートとなる。

 俺達は、事前に決めていた掛け声を合わせて、全身の体重を使ってリズムよく綱を引く。

 しかし、それは相手も同じで、しばしの硬直が生まれる。


 力はまさに互角――。

 しかし、徐々に連携が崩れてきたうちのクラスが、少しずつ綱を引っ張られてしまう。


 ――不味い!


 このままじゃ負ける、そう思った時だった――。



「いぃち! にぃー! いぃち! にぃいいー!」


 後ろの方から、大声で掛け声を叫ぶ声が聞こえてくる。

 朽木くんの掛け声だった。


 普段は温厚な朽木くんが、勝利の為に本気になって声を上げてくれているのだ。

 それだけ朽木くんにとっても、ここは絶対に負けたくないのだという気持ちが伝わってくる――。


 その気持ちが、クラスのみんなにもしっかりと伝染していく。

 クラスの柱である朽木くんが、それほどまでにこの綱引き対決に本気になってくれているのだ。


 であれば、俺達はその気持ちに応えるのみ!

 こうして、本当の意味で気持ちが一つになった俺達は、その朽木くんの声に合わせて再びリズムを取り戻す。


 そして生まれた連体力は、一気に一組に奪われたリードをチャラにすると、そのまま自陣に縄を引っ張り込む。


 パァンッ!


 決着を知らせる発砲音が鳴り響く。

 そして綱の中心線は、自陣の方に大きく移動している。これはつまり――、



「四組の勝利!」

「「うぉおおおおお!」」


 見事な逆転勝利だった。

 クラスみんなで肩を抱き合いながら、勝利を分かち合う。


 その中心にいるのは、もちろんクラスの柱である朽木くん。

 その表情は本当に嬉しそうで、そんな風に喜んでくれることがみんなも嬉しくて、俺達のクラスは朽木くんのおかげで更なる団結力が生まれたのであった。


 ありがとう、朽木くん!


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