252話「種目分け」
「次の十日は、いよいよ体育祭だ。去年は残念ながら雨天中止になったが、今年は無事晴れるといいな」
朝のホームルーム。
担任の先生が、来週予定されている体育祭についての説明をする。
昨年は、残念ながら延長予定日も含めてタイミング悪く大雨になってしまい、体育祭を開催することが出来なかったのだ。
それだけに、今年こそは体育祭が無事に行えるよう、先生も生徒も学校中の期待が高まっている。
ちなみに去年は、代わりに体育館でのバスケ大会が行われたのだが、それはそれでかなり盛り上がったことを思い出す。
何と言っても、一年の時は同じクラスに孝之がいたおかげで、上級生のチームと当たってもうちのクラスは勝ち進んでいったのだ。
そして準決勝、バスケ部の部長のチームと当たってしまい惜しくも敗れてしまったのだが、それでも三年生相手にかなりいい試合展開となったおかげで、会場が大盛り上がりになったことをついこの間のように思い出す。
でも今年は孝之とは違うクラスだし、それに二連続バスケ大会ではみんなの不満も爆発しそうなので、やっぱり今年こそは、無事に体育祭が出来ることをみんな楽しみにしているのであった。
それからホームルームの残り時間を利用して、誰がどの種目に出るか役割分担をした結果、俺は借り物競争と綱引き、それから最後の対抗リレーのメンバーに選出された。
ちなみに清水さんはというと、同じく借り物競争と玉入れに選出されていた。
運動はあまり得意ではないとのことで、リレーに選ばれなくてほっとしている姿はちょっと可愛かった。
あとはうちの高校には、応援合戦というものがある。
各学年、クラスごとに自分達のクラスの応援をし合い、その熱量や完成度の高さを評価され順位付けするのだが、ポイントの配分も高く、応援合戦とクラス対抗リレーで全てが決まるとまで言われているほど、うちの体育祭では重要な種目だったりするのだ。
まぁそんなわけで、俺は帰宅部にもかかわらず、クラス対抗リレーという重要な種目にも選ばれてしまったため、今の内から準備することにしたのであった。
◇
「え、たっくんリレー出るの!?」
昼休み。
俺は約束通り、学食でしーちゃんと同じAランチのミックスフライ定食を食べながら、孝之と清水さんも含めいよいよ来週に迫った体育祭の話題で盛り上がる。
俺がリレーに出ることを知ったしーちゃんは、まるで好きなアイドルのライブチケットが当たった時のように、両手を挙げながらその瞳をキラキラと輝かせつつ、ワクワクと期待した様子で俺のことを見つめてくるのであった。
そんな、かつての国民的アイドルのギャップのありすぎる姿に、俺だけでなく孝之や清水さんも笑ってしまうのだが、しーちゃんだけは一人鼻息をフンスと鳴らしながら興奮状態だった。
「まぁ、一応ね」
「あ、でもそうだよね! たっくん、中学の時は陸上部だったんだもんね!」
「ああ、卓也は今でこそ帰宅部だけど、中学の時は陸上部じゃ短距離走で入賞とかしてたよな!」
ワクワクとしたしーちゃんの言葉に、昔を思い出すように孝之が頷く。
しかし、入賞と言っても地区予選で五位だから、悪くはなくても他人に自慢出来るような結果でもないため、俺は苦笑いを浮かべて誤魔化すしかなかった。
しかし、しーちゃんの期待値はすっかり高まってしまっているようなので、ここは俺も恥ずかしい姿は見せるわけにはいかないため、やっぱり体育祭当日までにしっかりと準備をしなければと心に誓う。
「あーあ、たっくんと同じクラスだったら、ずっと近くで応援出来たのになぁ」
「気持ちは分かるけど、駄目だよ三枝さん。クラスのアイドルが違うクラスの応援してちゃ」
しーちゃんのぼやきに、孝之が笑ってツッコミを入れる。
同じクラスの孝之からしてみれば、言葉通りクラスのアイドルが他のクラスを応援されては困ると、クラスのみんなの気持ちを代弁したのだろう。
「あら? じゃあわたしは、同じクラスの一条くんの応援しちゃおーっと」
結果、清水さんはそんな孝之を揶揄うように、だったら同じクラスの俺のことを応援すると言い出すと、孝之はもちろん、しーちゃんまでも慌て出すのであった。
「ちょ、さ、桜子は俺の応援してくれよぉ!」
「そ、そうだよ! たっくんはダメだよ!」
清水さんのたった一言で、こんな風に慌て出す二人の必死な姿がおかしくて、俺と清水さんは吹き出すように笑い合う。
でもまぁ、こんな風にしーちゃんが俺のことを想ってくれていることはやっぱり嬉しいから、ここはちゃんと言うべきことは言っておくことにした。
「大丈夫だよ。俺はちゃんと、最初から最後までしーちゃんの応援頑張るよ」
「た、たっきゅん……」
そんな俺の言葉で救われたように、その瞳をキラキラさせながら喜ぶしーちゃんの姿は、やっぱり今日も世界一可愛いのであった。
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