229話「お風呂上がりのゲーム」

「あ、たっくんおかえり!」


 お風呂から上がり、再びしーちゃんの部屋へと戻る。

 部屋には敷布団が並べて敷かれており、いつでも寝れる状態だった。


 すると、俺が戻ってきたことに気が付くと、しーちゃんはすぐに立ち上がって俺のもとへと駆け寄ってくると、そのまま飛びつくように抱きついてきた。



「……お風呂行ってただけでしょ」


 そんな俺達に向かって、あかりんが呆れるように呟く。

 それは全くもってあかりんの言う通りなのだが、そんな言葉を無視するように一生懸命スリスリと自分の頬を擦り付けてくるしーちゃんは、とりあえず物凄く可愛かった。



「……えっと、みんなは何してたの?」

「ゲームだよっ!」


 ゲームのコントローラーを握りながら、元気よく答えてくれたのはめぐみんだった。

 たしかにその光景から、俺もゲームをしていたことは一目で分かった。

 ただ、そんな風に楽しそうに笑っているめぐみんの隣には、同じくコントローラーを握りながらも何故か半べそ状態のちぃちぃの姿があり、そんな光景に一体ここで何が行われているのか気になってきてしまう……。

 そしてみやみやはみやみやで、相変わらずベッドの上でうつ伏せに倒れ込んでいた。


 そんな、戻って来てみれば相変わらずのキャラの濃い自由な彼女達だが、何のゲームをやっていたのかなと思えば、それは今となってはレトロゲーと呼ばれるレベルの古いものだった。



「あ、お父さんの部屋からゲーム持ってきたの」

「ああ、なるほど」

「たっくんもやってみる? ちなみに、現在ちぃちぃが15連敗中だよ!」


 ニヤリと笑うしーちゃんの言葉に、更に泣きべそを浮かべるちぃちぃ。

 なるほど、だからちぃちぃはあんな表情をしているのか――。



「じゃあ、俺もやってみようかな」

「お? たっくんもやるのかい? じゃあ、エンジェルガールズ最強のわたしと勝負するのだぁ!」


 そう言って、ドヤ顔を浮かべるめぐみん。

 どうやら俺にも負けるつもりはないようなので、ここは俺も負けられないなと思いながらちぃちぃと交代する。



「たっくんさん、必ず仇を取って下さいねっ……!!」

「う、うん」


 あとは任せたというように、ちぃちぃは力強くコントローラーを手渡してくる。

 そんな謎のプレッシャーを感じつつも、頼られたのならば仕方ない。

 ここは15連敗したちぃちぃのためにも、負けるわけにはいかないなと気合を入れる。


 ちなみにやっていたゲームは、有名な格闘ゲームだった。

 これ自体はやったことのない俺だけれど、シリーズもので最近出たものはプレイしたことがあるから多分大丈夫だろう。



「じゃあ、準備はいい?」

「うん、いつでもいいよ」


 こうして、めぐみんとの真剣勝負が始まった。

 俺は古いゲーム故の操作性の悪さにちょっと手こずりつつも、技のコマンドを入力して攻撃を繰り出す。

 対してめぐみんは、そういう技のコマンドとかはあまり理解していないのだろうが、それでも上手なキャラコンで攻撃を繰り出してくる。

 何て言うか、これはきっと天性のセンスというやつなのだろう。

 こっちの動きを読むように繰り出される攻撃は、中々に厄介だった。


 ――でも、まだまだかな。


 俺はその動きを更に読むように、めぐみんの動きに合わせて攻撃を繰り出し続けると、無事ストレートでゲームに勝利することが出来た。



「うわぁ! 負けたぁー!」

「たっくんすごい!!」

「たっくんさん! 流石ですっ!!」


 悔しがるめぐみんと、喜ぶしーちゃんとちぃちぃ。

 後ろから喜んで抱きついてくるしーちゃんはともかく、鼻息をフンスと鳴らしながら喜ぶちぃちぃの姿は、悪いけれどちょっと面白かった。



「クソー、たっくん、このゲームやってたのぉ?」

「いや、これはやったことないよ」

「……ぐぬぬ、ならばわたしは、純粋に負けたということか」

「あはは、でもめぐみんもゲームセンスあるね」

「ん? でしょ? わたし、小さい頃はお兄ちゃんとよくゲームやってたから!」

「なるほど、お兄ちゃんいるんだね」

「うん! お兄ちゃん大好き!」


 兄の話になると、嬉しそうに微笑むめぐみん。

 どうやらめぐみん、実は結構なお兄ちゃんっ子なようだ。


 しかし、こんな美少女の兄妹となると、やっぱり相当なイケメンなんだろうなぁなんてぼんやり考えていると、突然しーちゃんは自分のスマホの画面を見せてくる。



「そっか、知らなかったんだね。めぐみんのお兄さんは、俳優やってるんだよ」


 そう言って見せてくれたスマホの画面には、誰でも知っているような有名俳優の写真が映し出されていた。



「え? すごい有名人だ!?」

「あはは、そうだよ! お兄ちゃんは有名人なのですっ! まぁ、今となっちゃわたしの方が有名人だけどねぇー」


 そう言って、自慢げに胸を張るめぐみん。

 そうだった――言われてみれば、彼女達こそ超が付く程の有名人だったのだ。

 あまりにも普通にいるものだから、つい忘れかけてしまっていた――。


 現役エンジェルガールズ、そしてしーちゃん。

 ここにいる俺以外の五人は、今日本中が注目を寄せている別世界で活躍する女の子達。

 けれども、実際にこうやって接してみると、どこにでもいるという表現が適切かは分からないけれど、彼女達も普通に女の子なのだ。


 所謂恋バナを楽しんだり、ゲームで負けてムキになったり、ずっと横になっていたり、そんな飾らない彼女達のことが、今日を通じて俺は更に大好きになっていた。


 そして、それからも暫く交代しながらゲームを楽しんでいると、あっという間に時計は夜の十二時を回ってしまっていた。



「ふわぁ~、そろそろ寝よっか。明日も午前から収録でしょ」


 欠伸をするあかりんの言葉で、今日はそろそろ寝ることになった。

 広いしーちゃんの部屋には、既に敷布団が四つ並べられているため、それじゃあと俺は前回使わせて貰った部屋へと向かうことにした。


 しかし、そんな俺の腕を、まるで逃がさないというようにいきなり両手でガシッと掴まれる。

 そして――、



「たっくん、どこ行くの? もうみんなとは相談済みなんだけどね、今日はたっくんもここで一緒に寝て貰います」


 俺の腕を掴みながら、そう言ってしーちゃんはニッコリと微笑むのであった。


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