163話「約束の日」
そして、金曜日がやってきた。
ホワイトデー当日は月曜日なため、その直前である今週末にホワイトデーの約束通り一緒に過ごす事となっている。
つまり、今日から日曜日まで、俺はずっとしーちゃんと一緒に過ごす事となる。
正直、これからの事を思うだけで胸がドキドキしてくる。
付き合って半年、もうしーちゃんとはいつも一緒にいるわけだし、大分慣れているつもりではいるものの、いざこうして一緒に二人きりで過ごすんだと思うと、やっぱりこれまでの付き合い方とは訳が違った。
俺達はまだ高校一年生なんだから、節度を保った付き合い方をしないとだよなと気持ちを引き締めるものの、だったらそもそも一緒に過ごす事自体どうなんだ?という気持ちになってくる。
とは言え、しーちゃんは現在一人暮らしをしているわけだし、生活をサポートする名目で行くだけだと自分で自分を正当化させる。
要するに、俺がしっかりしていればいいんだと自分の中で結論付けながら、俺は一度家に帰って身支度を済ませた。
ちなみにバイトについては、事前にシフトを交代して貰っているからバッチリだ。
「行ってきまーす」
「いってらっしゃい、しおりんに宜しくね」
こうして身支度を済ませた俺は家を出た。
外は夕暮れで、着くころにはきっと陽は落ちているだろう。
俺はLimeで家を出た事をしーちゃんに伝えると、しーちゃんから『了解だよ』と、ハートマーク付きで返事がすぐに返ってきた。
こういうやり取りとかしていると、本当に俺の彼女はあのしおりんなんだよなとふと感じる事がある。
こんな地方にある、都会でも田舎でも無い普通の町に、あのアイドルしおりんが現在住んでいて、オマケに今では自分の彼女で、俺はこれからそのしおりんの家へと向かおうとしているのだから、やっぱりこれって特別な事だよなと客観的に見る自分が居たりする。
『エンジェルガールズ しおりん』
このキーワードで検索すれば、今でもしーちゃんのアイドル時代の写真が沢山出てくる。
それにSNSを見れば、ファンの人達による復活希望のコメントなんかも未だに沢山目にする。
それだけ、世間に浸透しているトップアイドル。それがしーちゃんという存在なのだ。
――やっぱり凄いよな、俺の彼女は
俺は素直に、そんな自分の彼女の事が誇らしく感じる。
アイドルだから好きになったわけじゃないし、しーちゃんだからこそ俺は好きになったのは間違いない。
それでも、これまでしーちゃんが培ってきた功績に対しても、当然俺は誇らしく感じられた。
だからこそ、そんなしーちゃんの事を大事にしようって強く思うし、隣に居るのに相応しい男になれるよう色々努力をしているのだ。
これは完全に自分の中の話なのだが、それでもやっぱりそう思わせてくれる事もまた、俺にとっては嬉しい事だった。
それだけ、これまでも多くのモノを俺に与えてくれるしーちゃん。
こんなに特別な女の子と知り合う事なんて、きっともう二度と訪れる事なんて無いだろう。
そんな事を考えながら、俺はLimeで返事を送る。
『はやく会いたいな』
ついさっきまで学校で一緒に学び、そして一緒に帰宅してきたというのに、それでも俺は早くしーちゃんの顔を見たくて堪らなくなっていた。
こうしてLimeで繋がっているだけでも嬉しいのだが、それだけでは足りず早くその顔を見たくて見たくて堪らなくなってしまっているのだから仕方ない。
『わたしもだよ。よし、じゃあたっくんの足が速くなる魔法かけとくね!あ、でもくれぐれも車には気を付けてね』
すぐに返事が返ってきた。
しーちゃんから送られてきたその可愛い文面を見ながら、思わず頬が緩んでしまう。
こうして俺ははやる気持ちを抑えながらも、心なしかさっきよりも軽い足取りでしーちゃんのマンションへと向かうのであった。
◇
「たっくーん!」
呼び鈴を鳴らし、秒で扉が開かれたかと思うと、飛び出してきたしーちゃんがそのまま俺目がけて抱きついてきた。
そして、俺の胸元に頬をすりすりと擦り付けながら喜ぶしーちゃんの姿は、まるで犬のようでとにかく可愛かった。
こうして何度目かのしーちゃんの家へとやってきた俺は、そのまま腕を引っ張られながらいつものリビングーーではなく、寝室へと連れられる。
もうこの家には何度か来ているため慣れてはいるのだが、それでもこうして女の子に引っ張られながら寝室に連れて来られるというのは、どうしてもドキドキしてしまう。
だが前を歩くしーちゃんは、そんな事全く気にしていないのか満面の笑みを浮かており、誰が見ても分かる程とにかく上機嫌だった。
そして、そのままベッドに腰掛けたしーちゃんは嬉しそうに自分の隣をポンポンと叩く。
だから俺は、その仕草に従って隣に座った。
「まだ夕飯までちょっと時間あるし、ゆっくりしよ!」
「うん、そうだね。じゃあ何する?」
「んー、やっぱりまずは充電かなっ」
隣に座った俺は、これから一体何が始まるんだろうとちょっと身構えていたのだが、返ってきた答えは謎の充電だった。
――充電?なんだ?
そう思っていると、すぐさましーちゃんが抱きついてきた。
そしてここへ来た時と同じように、今度は俺の腕に自分の顔をすりすりと擦り付けてくるしーちゃん。
「――なるほど、充電ね」
「うん、実は今日の授業中からずっとこうしたかったんだ」
そう言って、やっぱり嬉しそうに顔を擦り付けてくるしーちゃん。
普通に授業受けてると思っていたが、実はそんな事考えていたのかと思うと、どうしてもニヤけてきてしまう。
こうして、ようやく願いが叶ったというように一心不乱にじゃれ付いてくるしーちゃんは、やっぱり犬のようでとにかく可愛かった。
そんなしーちゃんの頭を撫でながら、これが今日から日曜日まで続くのかと思うと、末恐ろしさすら感じてしまう。
でもそれは、俺にとっても幸せな事に変わりは無いから、結果的には何も問題なんて無かった。
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