141話「リサーチ」

 次の日。


 今日も俺は、しーちゃんと共に登校する。

 昨日のおやすみのチューのおかげで、良い気持ちでぐっすりと眠る事が出来た俺は、すっきりとした頭で今日もしーちゃんと手を繋ぎながらいつもの通学路を歩く。


 しかし早いもので、ついこの間三学期になったと思っていたのだが、既に1月が終わり2月になっていた。

 近々うちの学校でも入学試験があるようで、そう思うと高校一年でいられるのもあと少しだけなんだなという実感が湧いてくるのであった。



「――あーあ、二年もたっくんと同じクラスだったらいいなぁ」


 どうやら隣を歩くしーちゃんも同じことを考えていたのか、冬の空を見上げながらそう呟いた。



「そうだね」

「でも、もし離れちゃったとしてもわたしは平気だよ」

「というと?」

「だってもう、たっくんとはちゃんと繋がってるって思えるから」


 そう言って、俺の顔を覗き込みながら柔らかく微笑むしーちゃん。

 そんなしーちゃんの言葉に対して俺は、微笑み返しながら頷いた。


 そう、仮に離れ離れのクラスになったとしても、俺ももう心配なんてしていなかった。

 何故なら、しーちゃんは俺の彼女で、俺はしーちゃんの彼氏なんだと自信をもって言えるから。


 そう思えるのも、やっぱりこうして奇跡的に同じクラスになる事が出来たのも大きいだろう。


 もし仮にしーちゃんと違うクラスだったら、きっと俺は国民的アイドルであるしおりんが、まさか幼い頃一緒に遊んでいたあのしーちゃんだなんて気付けていなかっただろうし、しーちゃんの性格上この一年で俺と話す事が出来ていたかどうかも分からないから。


 でもそうなると、もしかしたら今でもあの不審者スタイルでコンビニへやってきていたかもしれないし、それからあの頃のような挙動不審を繰り返してたのかもしれない。


 そう思うと、今となってはそんなしーちゃんも正直ちょっと見てみたかった自分もいたりする。



「でも、やっぱり一緒がいいなぁ」

「本当にね」


 そう言葉を交わして、二人で微笑み合う。

 そんな他愛のない会話だけでも、繋がりが感じられる事が嬉しかった。


 二月にもなれば外は大分冷え込んできているが、その分近付く二人の距離が温かかった。





 教室へ入り、俺はしーちゃんと別れて自分の席に着く。

 すると今日は、いつもは遅れて登校してくる錦田さんが先に自席に座っており、いつものように一人本を読んでいた。


 見た目は今日も元通りになっており、どうやら本人はもうあの時の格好はするつもりは無いようだ。


 クラスの男子達はその事を残念がっているのだが、それでも錦田さんが実は美人だという事は既に学年中に広まっており、そして日に日に錦田さんの人気は高まっているようだった。


 しかし、錦田さん自身はそんな事には全く興味が無いようで、男子に話しかけられてもまるで壁を作るように全て一言で会話を終わらせてしまうらしい。


 そんな、まさに難攻不落と言える第三の美少女の出現が、実は今この学校で一番の話題となっているのであった。



「おはよう、一条くん」

「うん、おはよう錦田さん」


 しかし、それでも錦田さんはこうして毎朝俺にだけは朝の挨拶をしてくれるのであった。

 それは同じ中学出身のよしみなのか、はたまたこうして隣の席になって少し会話をする仲になれたからなのかは分からないが、唯一錦田さんと普通に会話出来る事をクラスの男子達からは羨ましがられる事もあった。


 中でも、クラスメイトに「三枝さんという存在がありながら、お前は魔王か!?」と言われた時は、我ながら本当だなと思えてきてちょっと笑えてしまった。


 でも残念ながら、俺は魔王でも何でも無いただの人間だし、俺は今もこれからもしーちゃん一筋だ。

 だからそんな事は無いとしっかり説明した事で、今ではそんな話をされる事は無くなっていた。


 しかし、男子達がそんな話をしている事は当然しーちゃんの耳にも入っているようで、しーちゃんは未だに錦田さんの事を警戒しているようだった。


 だから俺は、別に大丈夫なんだけどなぁと思いながらも、そんな嫉妬をしてくれるしーちゃんも可愛いなと思ってしまっており、絶賛恋愛脳を拗らせてしまっているのであった。




 ◇



 そして、今日も無事授業を終えた帰り道。


 今日もしーちゃんと二人で帰っているのだが、今日のしーちゃんは何やらそわそわした様子で、チラチラと横目でこっちを伺ってきている事に気が付いた俺は、とりあえず気になるし声をかけてみる事にした。



「――えっと、しーちゃんどうかした?」

「えっ!?ううん、な、なんでもないよっ!」


 しかししーちゃんは、そう言ってまるで悪戯が見つかった子供のように気まずい表情を浮かべながら、首を左右にブンブンと振って何でもないと誤魔化してくるのであった。



「た、たっくんはその、例えばなんだけど――手作りと市販のものだったらどっちが好き?」

「え?」


 そして今度は、しーちゃんの方から質問してきた。


 しかし、そんないきなりのしーちゃんからの質問に対して、思わず俺は聞き返してしまう。

 何故なら心当たりこそ無いけれど、しーちゃんはまた錦田さんの事とかを気にしているのかなと思っていたため、その質問は俺の中では完全に予想外だったのだ。



「その、例えばの話だよ?ほ、ほら、お弁当の参考にっ!」

「あ、あぁ、なるほどね。うーんそうだな、市販のものも美味しいんだけど、しーちゃんの手作りと比べるなら、やっぱり手作りの方が嬉しいかな」

「ふぇ!?そ、そっか!うん、分かったよえへへ!」


 久々に持ち前の挙動不審を全開に発揮するしーちゃんに、ちょっと戸惑いながらも俺は素直に答える。

 すると俺の返事を聞いたしーちゃんは、嬉しそうに微笑み、それから両手でガッツポーズをしながら何やらやる気に満ち溢れている様子だった。


 それからもしーちゃんは、お菓子ならどんなお菓子が好きかとか、更には普通のチョコとホワイトチョコどっちが好きかなど色々聞いてきた。


 俺はそんなしーちゃんの質問に全て答えながら、流石にそこまで言われたらしーちゃんが何を企んでいるのか予想がついてしまっているのだが、それでも気付かないフリをして質問に答えてあげていた。


 だって、本人は一生懸命秘密にしてるっぽいし、それに俺だってそっちの方が楽しみだから。


 そんな、やっぱり分かりやすすぎるしーちゃんは今日もポンコツ可愛いかった。

 そして、早いものでついにあの日がやってくるのだという事に、俺は今から楽しみになってしまうのであった。

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