32話「テスト終わりと相談」
金曜日。
水曜日から始まったテストも無事に終え、ようやくテスト勉強の呪縛から俺達は解放された。
あれからも三枝先生による勉強会は行われ、俺も孝之も清水さんも、今回のテストには確かな手応えを感じていた。
そして、勉強会を重ねれば重ねるほど、三枝さんがいかに勉強が出来るかがよく分かった。
孝之も思わず「三枝さん、うちの学校のレベルじゃないよな」とその学力に感嘆していたが、三枝さんは恥ずかしそうにアハハと笑って流していた。
まぁ、それでも誰がどこの高校へ通おうと本人の自由なため、本来うちの高校へ来るレベルじゃないと言うなら、こうして巡り合えた事にただただ感謝だった。
何はともあれ、今日でテストも終わった事だし、ようやく俺達はテストの緊張感からも解放されたのであった。
◇
テストが終わり、俺達はテストお疲れ様会を駅前のハンバーガーショップで行う事にした。
ハンバーガーを食べながら、テストの感想とか他愛ない雑談をしていただけなのだが、それでもやはり三枝さんは居るだけで目立っており、周囲からの視線を集めていた。
しかしそれは、どうやら三枝さんに限った話ではなく、隣の孝之、そして向かいに座る清水さんも例外では無かった。
そんな、今も微笑みながら小さい口でモグモグとハンバーガーを食べる清水さんを見て、俺はある出来事を思い出した。
それは、俺達が仲良くなり集まるようになってから、清水さんと同じ中学だった人達に「お前達、どうやってあのお姫様と仲良くなったんだ!?」と驚かれた事だ。
聞くと、清水さんはその美貌により中学時代から学校で一番の美少女として有名だったらしく、それでも誰に告白されても断り続けている事から『孤高のお姫様』なんてアダ名で呼ばれていたそうだ。
いやいやアダ名って、それなんてラノベだよと思いながらその時は笑って流したのだが、同性すらもまともに寄せ付けなかった清水さんが、こうして今俺達と行動を共にし、そして普通に笑っている姿を見て中学からの同級生達は例外無くとても驚いているとの事だった。
「さくちゃん、頬っぺにソースついてるよ」
「え?やだ恥ずかしい」
今日もハンバーガーを食べれてとてもご満悦な三枝さんは、そう言いながら楽しそうに隣に座る清水さんの頬っぺたに付いたソースを拭き取ってあげていた。
今更だが、清水さんの名前は
そんな、これだけ気さくに自分と接してくれる三枝さんだからこそ、清水さんも心を許せているんだろうなって、そんなやり取りを見ているとなんとなく伝わってきた。
◇
それから暫く話し込んだ俺達は、そろそろ帰ろうということで店を出ると、そのままこの日は解散となった。
「い、一条くん!」
俺は皆と別れて帰り道を暫く歩いていると、突然後ろから声をかけられたため、俺は驚きながらその声のする方向を振り向いた。
――するとそこには、さっきまで一緒にいた清水さんの姿があった。
一度解散したと見せかけて、暫く俺のあとをついてきていたのだろう。
「ん?清水さん?どうかした?」
一体何事だ?と思いながら、俺は清水さんに話しかける。
「いや、その……ちょっと相談したい事がありまして……」
声をかけてきた割に、歯切れの悪い清水さん。
まぁ話があるなら聞くけどと俺は清水さんに近付くと、清水さんは「あそこでちょっと話してもいいかな」と近くにある喫茶店を指さした。
こうして俺は、清水さんと二人で近くの喫茶店へと入る事になった。
◇
喫茶店に入り、俺は清水さんと向かい合う形で座った。
二人きりで向かい合って座ってみるとよく分かったのだが、清水さんのその整ったルックスに俺は思わずドキドキしてしまった。
軽いノリでオッケーしてしまったが、改めて見ると清水さんも三枝さん同様に俺なんかが気軽に相席出来るような容姿レベルではないのだ。
小柄で透き通るような白い肌、美人だけど猫のような愛嬌も合わせ持つその整った顔立ちは、学年の二大美女と呼ばれるに相応しい美しさだった。
「そ、それで、相談って何かな?」
緊張に耐えきれなくなった俺から、話を切り出した。
「うん、ちょっと一条くんに相談っていうか……聞きたい事がありまして……」
緊張しているのか、やっぱり歯切れの悪い話し方をする清水さん。
一体何を聞きたいというのだろうか。
「その……山本くんのこと、なんだけどね……」
「ん?孝之?」
清水さんの口から、突然親友の名前が出てきた事に俺は少し驚いた。
どうやら清水さんの相談とは、孝之に関する事のようだ。
「う、うん。山本くんって、その、こ、こここれまで彼女とか、いたのかな?」
「孝之に彼女かぁ……あ、一人いたかな?」
恥ずかしそうにしながら、孝之の恋愛事情を聞いてくる清水さん。
俺はもうこの時点で、清水さんが何故俺に相談を求めているのか察しがついてしまった。
そしてそれが分かってしまえばなんて事ない、一気に気の抜けた俺は今まで通りの感じで話す事が出来た。
しかし、そんな俺の返事を聞いて、露骨にショックを受けた様子の清水さん。
「そ、それはもしかして……現在進行形なのでしょうか……」
恐る恐るといった感じで聞いてくる清水さんには悪いが、その姿は小動物のようでとても可愛らしかった。
「いや、今は居ないよ。彼女居たって言っても、小学生の頃少しだけだからね」
そう、孝之に彼女がいたのは小学生の頃で、しかもほんの少しの期間だけだ。
中学へ上がってからは、孝之は部活と遊びに熱心であり、モテるのに何故か彼女は作ろうとはして来なかったのだ。
別にこのぐらいの話なら清水さんにしても構わないだろうと、俺は中学以前のそんな孝之との思い出話を交えながら清水さんに話した。
そんな俺の話を、清水さんは興味深そうに微笑みながら聞いてくれた。
俺の話が面白いというよりも、知り合う以前の孝之の話が聞ける事を喜んでいるという感じだった。
しかし孝之の奴、こんな誰もが羨むような美少女に想われてるなんて本当幸せ者だなと、正直かなりとってもこの上なく羨ましかった――。
「それで、清水さんは俺に何か協力してほしいのかな?」
「え?協力!?ううん、そんなつもりじゃなかったんだけど」
俺は清水さんにそう問いかけると、清水さんは恥ずかしそうに手をブンブンと振りながら、別にそういうつもりじゃないとそこは否定してきた。
「正直、こんな気持ち初めてだから、自分でもどうしていいのか分からないんだ……」
頬を赤らめながらそう呟く清水さんは、まさしく恋する乙女という感じでとても可愛かった。
「分かったよ、じゃあ俺は無理に首を突っ込むつもりはないから今まで通りにするよ。その代わり、何かあったら全然頼ってくれてもいいからね」
俺はそんな、一生懸命自分の初恋と向き合おうとする清水さんを応援する事に決めた。
しかもその相手は、自分の大事な親友なのだから尚更だった。
――キューピット卓也!動きますっ!!
そんな俺の言葉に、顔を赤くしながらも嬉しそうに微笑みコクリと頷く清水さんは、正直めちゃくちゃ可愛かった。
――カシャンッ!!
すると近くの席で、スプーンの落ちるような音が聞こえてきた。
その音に振り返ると、少し離れた席に何故か三枝さんの姿があった。
慌てて身を隠しているようだけど、正直バレバレだった。
「え?しーちゃん?」
俺が声をかけると、見付かってしまった三枝さんはアハハと誤魔化すように笑っており、そして目の前の清水さんも「え、紫音ちゃん!?」と何故かちょっと慌てていた。
そして俺達に見付かってしまった三枝さんはというと、笑ってはいるけどその表情はとても青ざめているのであった――。
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